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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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クロの強さと大図書館



 クロたちが馬車に乗り込み大図書館へ向かうのだが、用意された馬車は普通の馬車よりも大きく十二頭の馬が引く豪華なもので、まわりには鎧をまとった聖騎士十名の護衛付きというこの国の教皇兼国王が出掛けるのと同等の待遇であった。


「広いのに窮屈な感じがして嫌ね……」


 ビスチェの小さく漏らした言葉に頷く一同。


「これじゃ街中をぶらぶら歩いて買い物って雰囲気じゃないよな……」


 隣に座るクロも同じ意見なようで窓から見える街並みと手を振る人々に苦笑いを浮かべる。


「うふふ、あの人々はきっとこの国の教皇さまが出掛けていると勘違いなさっていますね」


「そうかもしれませんが、エルフェリーンさまや英雄であるクロさまが乗っていると知れば同じように集まり手を振るかと」


 聖女ジュリアスも案内をするために馬車に同席しており嬉しそうに口にする。


≪私的には英雄よりも屋台を手軽に回れる方が嬉しいですね~ほら、あの煙を上げる屋台とか、行列のできている屋台も見えますよ≫


「僕もアイリーンの意見に賛成だぜ~国によって料理の特徴が変わるからね~ここでしか食べられない料理とかもあるだろうし、昼食は勝手に食べて回るから変な気を使わなくてもいいからね~」


 エルフェリーンの言葉にアイリーンやビスチェにメリリが笑みを浮かべ、聖女ジュリアスは逆に顔を青ざめる。


「そ、それでは何かあった際にお守りする事が……」


「それこそ大丈夫だぜ~僕たちは錬金工房『草原の若葉』だ。自分の身は自分で守るぐらいできるからね~」


「英雄のクロがいればまわりに付いてきている聖騎士だって一人で片付けられるわ!」


 何故か渾身のドヤ顔をするビスチェ。エルフェリーンとアイリーンもうんうんと頷き、膝に乗せている小雪も尻尾を揺らす。


「うふふ、クロさまは英雄ですからそのぐらいは当然ですね」


「いやいや、無理だって。聖騎士がアンデットなら勝てるかもしれないが、聖騎士の強さは身をもって知っているからな。十人とか絶対に無理だって」


 手を振り不可能だと口にするクロだが、聖女ジュリアスは目を輝かせながら謙遜しているのだろうと勘違いをする。


 事実、クロはアンデット相手ならば伝説級の相手だろうが瞬殺する実力がある。が、生きている人間となれば話は違い、一般的な兵士相手ならシールドを使い相手を拘束できるだろうが、ベテランの兵士相手ならそう簡単には行かないだろう。

 『草原の若葉』でクロが勝てる相手はルビーぐらいなもので、模擬戦ではシャロンに組み伏せられ、メルフェルンには投げ飛ばされ、メリリには魔化した蛇の下半身で拘束され頭を撫でられている。エルフェリーンとビスチェを相手にする際はシールドを展開し魔術を防ぐことができるが、シールドを強制的に解除させる魔術を使われればその時点でクロの負けが確定する。キャロットと模擬戦をすればシールドごと殴られ空の旅であった。


「俺はアンデット以外には勝てる自身とかないからな……」


≪私もクロ先輩なら負ける気がしませんね~シールドは厄介ですが白薔薇の庭園でシールドごと斬れますし、糸でシールドを斬る事も可能ですからね~≫


「お前の場合は斬った後に糸で無駄に縛ってくるのがな……あれは恥ずかし過ぎる……」


 アイリーンとの模擬戦は一気に間合いを詰め白薔薇の庭園でシールドを切り裂き、瞬時に糸を飛ばし拘束して両足を縛り上げ逆さまに吊り上げられたのだ。他にもアラクネらしく蜘蛛の糸の罠にはまり吊り上げられたり、糸を操作し後ろから襲ってくる糸に絡め捕られ吊り上げられたりと、宙にぶらぶらと浮きながらギブアップと宣言する事が多いのだ。


「クロはもっと素早く動きつつ、相手の攻撃に対応すればいいのよ」


「攻撃手段が少ないのも弱点だぜ~本格的に精霊術や魔術を習った方が強くなれるぜ~」


「うふふ、私は体術をお勧めします。クロさまはシールドが得意なのですから接近戦で戦われた方が隙をつき捕縛できると思います」


≪クロ先輩はもっと誘い受けすべきです!≫


 若干腐った文字が浮かぶが、クロは『草原の若葉』たちとの訓練を思い出しながら自分の戦闘スタイルを見つめ直していると馬車が停車しドアが開く。すると、目の前にはこの国の城よりは低いが壮大な広さの建物があり、司書だと思われる男女が頭を下げて迎えている。


「こんな出迎えはいらないのになぁ。ん? 彼がここのトップかな?」


 馬車を降りたエルフェリーンが一人の年老いた司書を見つめ聖女ジュリアスは口を開く。


「はい、彼がここの大図書館の館長を勤めているエルザリーです」


「エルザリー・ボルドー・ブレンダです。ボルドーの森との契約により五十年ほどクラブル聖国で司書をしております」


 顔を上げた司書長はキラキラとした瞳をエルフェリーンに向け、整った容姿に長い耳があるエルフ。他にも数名のエルフがおり同じような瞳を向けている。


「ボルドーの森は僕も行った事があるよ~あそこのワインは絶品だったね~」


「はい、我らボルドーの森のワインは他で作るワインとは一味も二味も違います。ペルチの森のワインも美味だと耳にした事がありますが、是非我らのワインも飲んで頂きたいものです」


 エルザリーの言葉にムッとして口を尖らせるビスチェだったが、その表情をすぐに戻すとアイテムバッグから一本の白ワインを取り出して口を開く。


「私もボルドーの森のワインが美味しいと聞いた事があるわ! これは私が最近気に入っている白ワンよ! 今日は図書館を利用させてもらうからこれを送るわ……あまりの美味しさに頬を落とさないことね!」


 手にしていた白ワインを司書長であるエルザリーに手渡すとその瞳はワインへと注がれ、他のエルフたちも目を見開き刮目する。


「赤くないだと……」


「黄金……」


「何なのだ……初めて見る色だぞ……」


 驚きの声を上げるエルフたち。司書長のエルザリーも数秒ほど目を奪われるがビスチェへと視線を戻しお礼を口にする。


「これは貴重なものをありがとうございます。皆で試飲させて頂きます。後でボルドーのワインも遅らせて頂きますので受け取っていただけると……」


「そうね。楽しみに待っているわ」


 完全に勝者の瞳を向けるビスチェと奥歯を噛み締めるエルザリー。ワインは赤いものというのがこの世界の常識であり、白ワインは存在しない。そんな事もありワインで有名な者たちからしたらまだ見ぬワインをプレゼントされたことに驚きと屈辱が入り混じっていた。


「うんうん、僕も楽しみだぜ~久しぶりにボルドーのワインが飲めるのは本当に嬉しいな~」


 エルフたちの小競り合いを近くで見ながらも美味しいお酒が飲めることに表情を崩したエルフェリーン。それを見て尊敬するエルフェリーンが楽しみにしているという事実に小さく争っていた二人の表情も緩み、後ろで見ていたアイリーンにメリリは器の違いを感じ、クロは飲み過ぎを心配する。


「では、案内をお願いしますね。私は商業ギルドに用がありますので少々失礼させていただきます」


 聖騎士を連れ去って行く聖女ジュリアスを見送ったエルフェリーンたちは大図書館へと案内され足を進めるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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