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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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増え続ける腐った文字



 クラブル聖国の城に一泊したクロたちは貴賓室に用意された朝食を口にしながら今後の方針を決めていた。


「他の国にも報告へ行くのかしら?」


「それは大丈夫だよ。クラブル聖国を一番に選んだのは通信手段があるからね。鳥を使った方法で足に小さな筒を付けて情報を送るんだぜ~念話ができる相手がいればそれが早いけど、ドロシー共和国やカルサス王国にポセイダル海洋王国に知り合いはいないからね~昨日のうちに鳥は飛ばすよう指示したからカルサス辺りにはもう情報が伝わっていると思うな~」


 今いるクラブル聖国はカイザール帝国の東にあり、南には海の面したポセイダル海洋王国、南西にカルサス王国、西にドロシー共和国がある。クラブル聖国は聖王国と同盟を結んでおり、そこから流れる情報を鳩に似た鳥を使い情報を送り早ければ二日ほどですべての国に情報が送られるのだ。

 カイザール帝国からの侵略に備えこの四ヶ国では協力体制が取られ二百五十年間破られた事はない情報共有が取られている。


≪異世界にも伝書鳩のような情報手段があるんですね~≫


「もしかし、この料理に使われている玉子料理はその鳥の卵なのか?」


「うふふ、ベルムクと呼ばれる手紙鳥の卵ですね。クラブル聖国ではベルムクを育て飼育しておりますからその玉子でしょう。他にもヘルコンドルと呼ばれる狂暴な魔物も飼育調教して一緒に飛ばし、ベルムクの護衛にしていますね。ヘルコンドルは卵から育てベルムクを仲間だと調教しているそうですよ」


「げっ、ヘルコンドルって一羽でも傷つくと集団で襲って来る厄介な魔物なのに……」


 ビスチェはヘルコンドルを知っているのか顔を歪め、口に入れようとすくい上げたスープを戻す。


「はい、そのヘルコンドルです。私の実家でもヘルコンドルを育てておりましたので成体には詳しいですよ」


 メリリが嬉しそうに話すのだが名前の先にヘルという地獄が付く鳥を実家で飼いそれを嬉しそうに口にする姿にビスチェとクロは引き、アイリーンは目を輝かせる。


「こちらから手を出さなければ可愛いものです。名前を付けて可愛がっていましたが今頃はどうしているのでしょうか……」


「僕も鳥を飼っていたぜ~極楽鳥と呼ばれる派手な鳥で、ドラゴンもびっくりな灼熱のブレスを吐くんだぜ~体も大きくてその辺の家よりも大きかったぜ~」


 それは伝説級の魔物では? と思う一同。


「私はマンドラゴラを育てていたわ。全部ユニコーンに食べられちゃったけど……」


≪私は犬を飼っていましたね~名前を呼ぶとすぐに駆けてきて膝の上に乗りました。小雪もそうですが膝の上に乗られるとそのまま撫でちゃいますよ~≫


 アイリーンが浮かせた文字を通りに小雪は呼ぶと駆けてきて膝の上に乗りたがる。膝の上に乗れば撫でてくれるとすでに学習しているのだろう。そんな小雪はアイリーンの座る椅子の下でクロが魔力創造したドックフードを食べている。


「失礼いたします」


 作戦というよりは雑談をして朝食を終えると、メイドと共に現れた聖女ジュリアスと皇女ゼリールに専属メイドのオレリアが姿を現し一礼する。


「昨日は色々と御馳走になり、神々の住まう天界へとお連れして頂きありがとうございました」


「いえいえ、そちらの了承もなく天界へ拉致させてしまい申し訳ありませんでした。自分が教会へ行くと女神ベステルさまから強制的に転移させられて申し訳ない限りです」


 認識の違いからかクロが謝罪すると顔を上げた三名は首を横に振る。


「あのような体験は一生であるかどうかの出来事です。我らが信仰する叡智の女神ウィキールさまや他の神々ともお酒の席に付くことができた奇跡。今でも感謝しかありません」


「それにもつ鍋という料理や宝石のように輝くゼリーと呼ばれる甘味……奇跡と呼ぶに相応しい日でした」


 二人から感謝の言葉を贈られ、それならいいかと思うクロ。


「朝早くからどうしたのか? 何か用があるなら聞くぜ~」


「はい、用という訳ではありませんが、本日はどのように過ごされるのでしょうか? もしよければクラブル聖国をご案内いたしますが如何でしょうか?」


「それなら図書館に行ってみたいわ! クラブル聖国は羊用紙や紙を使った本を大量に集める図書館があるのよ! 恐らくだけど世界で一番多くの本を所有しているはずよ!」


「はい、クラブル聖国は叡智の女神ウィキールさまを主神とする王国です。大図書館にない本は存在しないとまで言われております。魔導書や危険が伴う書は隔離し厳重にしておりますがエルフェリーンさまの関係者であればご覧頂くことも可能です」


≪これは……ごくり……≫


 腐った文字を浮かべニヤ付くアイリーン。クロは気が付かなかった事にして疑問を口にする。


「そういった本は借りられるのですか?」


「いえ、基本的に貸し出すことはできません。入館時に金貨一枚を収めて頂き、もし書物に傷つけたりインクを零したりされた場合のみ、その金貨を没収致します。写本等は自由ですので気軽に読書をお楽しみください」


 聖女ジュリアスが微笑みを浮かべながら話しエルフェリーンは頷く。が、金貨一枚の価値を知っているクロやメリリは顔を引き攣らせている。


「返って来るかもしれませんが金貨一枚とは……」


「はい、大変貴重書物が多いですので、そういった処置を取らせていただいております」


 金貨一枚は百万円ぐらいだったよな……印刷技術が写本ぐらいしかないから高いのは理解できるが、図書館を活用する人はそう多くないだろうな……


 クロが思案しながら食後のお茶を口にすると、腐った文字が躍り拭きそうになるのを堪える。


≪やっぱり物語とかもありますか? 男性が女性を好きになったり、男性が細マッチョを好きになったり、押し倒されたり、壁ドンで倍率ドンとかもあったり? やっぱり私から言わせたら、はじめは仲が悪くても次第に惹かれ合って結ばれるのです! 無理やりはダメです! あとあと、禁断の恋とかは断然ありですね~私の好みが全て禁断な気もしますが、――――≫


 腐った文字を見つめ頬を染める皇女ゼリールは恐らくアイリーンと同じ趣味の人なのだろう。ビスチェも少し頬を染めているが文字を読み終えると窓へと視線を移し、そこから見える街並みの先にある図書館へと向ける。


「うふふ、アイリーンさまは濃い趣味をお持ちですね。私は普通の恋愛作品で充分です。できれば年上の女性が年下の男性に口説かれる物語が……」


「僕は魔導書を見たいかな~僕が持っていない魔導書もあるだろうし、ネクロミノコンのような書物があったら封印する必要があるからね~」


 ネクロマンサーが起こした王都襲撃事件を思い出すクロは顔を歪め、それと同じような戦いがこの先にあるかと思うと身を震わせる。


「カイザール帝国は本当に戦争を起こすのかな……」


 ぽつりと呟いたクロの言葉に静まり返る貴賓室。


「そうならない為に来たんじゃない!」


「そうだぜ~戦争なんて無駄な事は始まる前に潰すのが定石だぜ~一部は儲かるかもしれないが家族を亡くすような戦いは僕個人としても許せないからね……」


「うふふ、私も帝国への借りを返せるチャンスです! 精一杯暴れさせて頂きます!」


 皆の言葉を頼もしく思うクロは増え続ける腐った文字を視界に入れ、頬を染めているアイリーンにそろそろ糸で空間が埋まり「前が見えなくなるからやめろ」と声に出すのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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