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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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乗り込む者たち



「あんなにもレイスが……」


「城は結界が張ってあるから問題はないだろうけど、街の人たちが心配ね」


「おっ、地上から炎の魔法が撃ちあがったぞ」


「あれは冒険者かな? おお、ホーリーアローも打ち上がったね」


「あれは教会関係者です! 聖騎士隊の誰かでしょう。って、我々も早く向かわなくては!」


 焦る様に叫ぶ聖女にエルフェリーンは落ち着くように促しながら口を開く。


「相手の目的は何なのかな? 粛清された貴族がアンデットになったのなら王家に復讐と思う?」


「確証はありませんが……王家を狙いに来るなら恐らくですが地下水路を北上し、こちらに向かって来る可能性もありますね」


「お城には結界が張ってるからかしら……レイスがこっちに向かってきてない気がする……ほら」


 多くのレイスが浮遊しながら東へと向かい地上からは炎や光りの矢が放たれ消滅するが、その数は多く数を減らしているというよりも増えている気さえする。


「う~ん、東には何かあったかな? 墓地とかじゃないだろうし……」


「東にある目ぼしい物は……」


「処刑場がありますわ! 先日の粛清の際にも捉えられた貴族や商人はそこで処刑されました。確か主犯である男と七家の貴族です。三家が取り潰しになり四家は降格処分ですわ」


 王妃の言葉にエルフェリーンは腕組みを解き口を開く。


「処刑された場所に集まる理由か……」


「陽動とか? 本命は王家への恨みとか……」


「レイスが数百体よりも地下のリッチやデュラハンの方が危険度は高いでしょ。さっさとそいつらを倒してからレイスを倒せばいいじゃない!」


 ビスチェの言葉にアイリーンが手を上げる。


≪処刑場の方角に禍々しい気配≫


「えっ!? 気配察知? それとも予言?」


≪黒い渦? ピリピリとした気配を感じます。魔王と対峙した時の様な肌に針が刺さる様な気配≫


「ま、魔王ですって!? あの蜘蛛は一体何者! いえ、何蜘蛛何ですか!!」


 聖女が驚きの声を上げ苦笑いを浮かべるクロたち。


「それじゃあレイスはその気配に引き寄せられたか、もしくは誘導され集まっているか……ああ、レイスを集めて自身の格を上げようとしているのかもしれないね!」


「それって進化? アイリーンが進化した様にリッチたちが進化する……」


「リッチの上位種……そんなのになったら手が負えません! 早く上位種になる前に叩かないと!」


「それがいいね。ゲート! クロは女神のシールドを展開して安全確保! ビスチェと聖女でクロを守りながら遊撃! アイリーンは、」


 エルフェリーンの説明を聞いたクロが先に飛び出し女神のシールドを展開し、ゲートへと飛び込むと、そこは黒く禍々しい渦を巻く広い闘技場。王妃が説明した処刑場であった。


 女神のシールドが白く輝きクロは辺りを見渡すと上空には多くのレイスが集まり黒い渦に集まり吸われていることが確認でき、その近くには赤い瞳を輝かしたリッチが三体とデュラハンが二体おり、その後ろにはリッチやデュラハンが霞んで見えるほどの存在感を放つローブ姿にドクロが覗く姿の老人と思われる腰を曲げた存在がおり、クロを視界に入れると嬉しそうに歯のない顎を動かした。


「女神を象るシールドとは面白い! 聖属性の魔術光も視認できるな! これは面白い研究対象だ!」


 身を震わせ喜ぶアンデッドにまわりのリッチやデュラハンは、正気か? という視線を送り口を開く。


「我らの天敵ではないか!」


「面白くもなんともない! 早く潰してしまえばいい!」


 抜き身のバスターソードを構えると地を滑るように距離を縮めるデュラハン。


「聖剣よ! その力を解放せよ!」


 聖女の聖剣が赤い光を放ちデュラハンの一撃を受け鍔迫り合いへと持ち込むが、援護する形で数十本の炎の矢がデュラハンへと突き刺さる。


「炎の精霊よ! ついでに他の骨たちにも燃やし尽くしなさい!」


 ビスチェの精霊魔法が発動し、火球が出現するとランダムな軌道を描きながらリッチや骨の老人へ襲い掛かる。


「これはサラマンダーの炎!?」


「誰かデスペルしろ!」


「怯えるな。これも餌になるわい。カカカカカ」


 笑いながら骨の老人が手を上げると炎が集まり、闇の渦へと誘導され渦へと消える。


「これでまたひとつ強くなれる」


 満足する様に笑いながら頷く骨の老人。


「グアァーーーーー」


 そんななか、聖女と対峙していたデュラハンとは別のデュラハンが叫びを上げるその身が灰の様に白く輝き崩れて行く。


「な、何が起こった!」


「アセルスが、デュラハンの力はこの程度なのか……」


 リッチたちが驚き崩れ去るデュラハンを見つめわなわなと震える。


「はじめて使ったけど純魔族を浄化した魔石で作った聖魔石の杖は凄いね。神聖属性を魔属性で包むとこうも見事に見破れない! これは面白い実験ができそうだよ!」


 女神を思わせる大人モードのエルフェリーンがゆっくりと歩き、白と黒が入り混じる魔石が輝く杖を翳すと黒いと白の光が踊り、身構えたリッチの一人を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたリッチは後方へ飛ばされながら白く変色し、次に地へつく事はなく灰と化し消え失せた。


「すご~い! 何その卑怯な魔術! 聖魔石の効果なの! ねぇクロ! 純魔族の魔核が手に入ったら私にも聖魔石を作ってよ!」


「いや、作ったというよりも放置したらできた代物で……」


「ふふふ、羨ましいかい? 暫くはこの杖で楽しもうかな~聖魔の杖とでも名付けよう!」


 戦闘中だと思えない会話のやり取りに戦っていたデュラハンが後退し、聖女が息を整えながら合流する。


「今なら白夜にだって致命傷を与えられる気がするよ~」


「キューキューキュー」


 クロのリュックから顔だけ出している白亜が抗議の鳴き声を上げ、エルフェリーンは「冗談だよ~冗談」と笑いながら手をパタパタと話す姿に呆れる聖女。


「エルフェリーンさまが凄いのは理解していますが、敵はまだ!」


「リッチとデュラハンにネクロマンサーだね。あの黒い渦の下にはネクロノミコンと呼ばれる魔道書があって、レイスを吸収して負の魔力を溜め込んでいるね。クロはあの渦の前に女神シールドを張ってくれ。残りは私が、」


「デュラハンは私の獲物だよ!」


 エルフェリーンの会話を大声でぶった切り青い光の一閃が輝くと、デュラハン目がけ一気に振り下ろされる魔剣。


「レーベス!」


「俺たちもいるからな!」


「サライ隊長!」


 聖女の叫びに反応して集まって来る聖騎士が五名。中には下っ端のレコールの姿もありガチガチと歯を鳴らしている。


 そんな対面シーン中にもクロは言われた通りに女神シールドを新たに展開すると、黒い渦よりも高い位置に誘導し設置する。設置が完了するや否やレイスは女神のシールドにぶつかりレイスというアンデットは瞬時に浄化され、天へと昇る光りの粒子へと変わり驚きの表情を浮かべるネクロマンサーや聖騎士たち。


「車は急に止まれないとかいうけど、レイスも止まれないんだな……」


「ギギギ」


≪飛行機だって止まれない。それと設置完了≫


 やる事を終えたアイリーンは肩を震わせ笑いながらクロの元へ向かい宙に文字を描く。


「それならとっとと終わらせようか」


≪まだ戦っているよ≫


「構わないよ。あの子はデュラハンの呪いを受けたのだろうが、それも浄化されるからね」


≪では、アイリーン行きます~≫


 エルフェリーンの指示に従いアイリーンは光り輝くと「ギギギギギ~」と歌うように声を出し、聖魔の杖が反応すると地面に光の筋が現れ強い光が処刑場を覆い尽くす。


「なっ!?」


「これは、ぐあぁぁぁあぁぁl」


「ば、馬鹿な!? これほどのまでの聖属性の光など、神の召喚でもする心算なのか……」


 レーベスとデュラハンは地面からの光に戦闘が中断し、デュラハンに至っては頭を落とし苦しみもがき叫びを上げ、リッチの姿は既になく光に巻き込まれた時点で消滅し、聖騎士たちは眩い光に目を閉じながらも各自で防御態勢を取る。


「ふざけるなっ! 長年準備してきたのにっ! 純魔族との契約だって潰されたのにっ! こんな事が、こんな事があってたまるかっ!」


処刑場の光が晴れるとローブが消滅し骨の所々にヒビが入り立っているのがやっとなネクロマンサーと、黒い渦はすっかり消え失せ事典ほどの厚さのある本が地面に置かれていた。


「いや~すごいね! アイリーンの糸を使って魔方陣で強化し、聖魔の杖で増幅した聖属性を乗せたホーリーレイは……おや、まだ生きてるよ」


≪正しくは死んでる≫


「はぁ……よっと!」


 魔術を使った二人はその強い光を直視しなかった事もあり素早く辺りに目を走らせ警戒し、魔術を使い光球を打ち上げ、クロは黒い渦の上に乗せていた女神のシールドを動かし勢いよくネクロマンサーの上部から押しつぶす様に落下させる。


「ギャッン!?」


 女神のシールドを受けたネクロマンサーは砕け散り、リッチたちと同様に灰へと変わり跡型もなく飛散する。


「こらっ! まわりを考えてから光らせなさいよ! ああ、まだ目がチカチカするぅ」


「キュッキュ」


 リュックから嬉しそうな鳴き声を上げる白亜の声とは対照的に、ビスチェは文句を大声で叫び、聖女は茫然としながら目を擦り視界の回復を待つ。


「やった! これも珍しい黒い魔石だよ! リッチやデュラハンの魔石は……随分と小さいね……それにこのネクロミノコンは貰ってもいいよね? いいよね?」


 目を輝かせ魔道書をペラペラ捲るエルフェリーン。


 だったが、夜空が割れ地上へと光りが射し、見上げるエルフェリーンとクロたち。


「この度はアンデッドの討伐お疲れ様です」


 割れた空から美しい声が響き巨大な顔が現れ、クロやエルフェリーンに視線を向ける。


「う、うそ……女神さま……」


 聖女が呟き苦笑いを浮かべるクロ。

 エルフェリーンは女神の様な成人女性から省エネモードの幼女の姿へと戻り、ネクロノミコンへと視線を戻してページを捲るのだった。





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 お読み頂きありがとうございます。


 

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