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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第一章 王家の試練
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純魔族との戦闘



 ターベスト王国では魔族と呼ばれる者たちはゴブリンやコボルトやオーガなどを指す事が多く、その種族は純魔族を祖としていると考えられている。エルフは森の民と呼ばれ、ドワーフは火の民と呼ばれているが魔族などと呼ばれる事はなく普通の人族と同じように扱われているのだ。

 ただ、最近では王都でも魔族と呼ばれる人種のなかでも人語を話す者たちは商売をしており、姿形が人族に近いオーガやゴブリンといった者たちは受け入れられている。なかには毛嫌いする人族もいるが大半はそういった印象はなく、国を跨げばもっと優遇されたり冷遇されたり様々である。


 そして、純魔族と呼ばれる者たちはゴブリンやコボルトなどとは全く違い、魔界と呼ばれる世界の住人であり一人一人が強力な力と魔力を操り、固い皮膚と逞しい角を持ち人類にちょっかいをかける悪しき存在として知られている。

 なかでも有名な話は国を落とした聖者の魔族の話だろう。聖者と呼ばれた男が純魔族に唆され魔族へと変わり、国を滅ぼし、最後には魔族になった聖者を四人の勇者が討伐する物語である。


「純魔族ですか……」


「助かるのですか!? ダリルさまは助かるのですか!」


 顔を青くしながら自身の腕を抱く第二王子。メイドの一人が取り乱したように立ち上がり声を荒げる。


「たぶん大丈夫じゃないかな。呪いは白百合の花を摘むと本格的に発動し、体に刻まれた鎖が締まって行き、最後には五等分になるけど……」


「それは大丈夫じゃないだろ……」


 手を動かしながら説明する師匠にツッコミを入れるクロ。叫んだメイドは口を開けたまま真っ青の表情へと変わり、女騎士たちは震えているのか全身鎧からカチカチと音を鳴らす。


「純魔族の呪いは強力だからね~王家の試練を受けなければ二十歳頃には自然とその呪いも解けるだろうさ」


「それって王家の試験を受けさせない様にしているとしか思えないけど……」


「そうだろうねぇ~」


 呆れた顔をするビスチェと師匠。


「どうにか解呪はできないだろうか? エルフェリーンさま以外に頼れる者がおりません。私を信じる家臣や民の為にも、どうかお願いできないだろうか」


 椅子に座りながら頭を下げる第二王子。


「自分の為にはお願いしないのかよ」


 静まり返っていた事もありクロの声に反応し視線が集まり、女騎士に至っては殺意の籠った瞳を向ける。


「そうですね。私は王になるべくして育てられ、その期待に応えるべくここにいます。どうか私が王になるべく御力をお貸し下さい」


「うんうん、君の為なら力を貸そうじゃないか。純魔族は心を食らう。なかでも美味とされているのが恐怖だったり絶望だったりとした負の感情だよ。クロが言うように自分の為に生きたいと思えなければ助かるものも助からないからね」


 両腕を組み何度か頷く師匠に意思のある瞳を持った顔を上げる第二王子。顔色も赤が差し先ほどとはまるで違う健康的な印象を受ける。


「エルフェリーンさま、ありがとうございます。それにクロ! 感謝する」


 クロにまで頭を下げる第二王子ダリルに下げられたクロは、やや挙動不審に数歩下がり足を縺れさせお尻から大地へと転び、ビスチェとメイドに笑われるのだった。




 場所を変えフォークボアを倒した先へとやってきた一行は、師匠とビスチェの二人で大地へと干渉し魔方陣を形成させていた。

 五メートルほどの二重円に複雑な術式が浮かび上がり、その中心には第二王子ダリルの姿があった。


「よし! 完璧だね」


「ふぅ~緊張した……私は予定通りにこれで下がりますね」


「ああ、助かったよ。魔力は残しておかないとだからね」


 魔方陣を描く魔力はビスチェが出し、師匠はその魔力を制御しながら大地に書き込んだのである。


「ダリルはどんな事があってもその魔方陣から出てはいけないよ。それと、これからも生きるという希望を強く持つ事だ。もし希望がなくなればその体に純魔族が入り込むかもしれない。そうなれば君を殺す事しか純魔族を倒す方法はないからね」


「はい……希望……」


 エルフェリーンの瞳を見つめ返す第二王子ダリルは小さく呟き、魔方陣の傍にいるクロが声をかける。


「希望なんて漠然としたものじゃなくても、生きて何がしたいとか、美味しい物でも考えておけよ。負の感情がエネルギーになるのなら楽しい感情ってのを嫌うはずだろ。だから美人なお姉さんに甘やかせられたいとか、胸の大きなメイドさんに褒められたいとかでもいいからな!」


「そ、それは……」


「まったくクロは……でも、緊張は解けたかな……」


 頬を染める第二王子ダリルにエルフェリーンは頬笑みながらも気合を入れる。


「では、準備はいいかな? ダリルはそこで楽しい事を考える! クロは奥の手の用意を任せたからね」


「うっす!」


 ダリルが頬を染め、クロが空手の挨拶の様な拳と頭を下げると師匠であるエルフェリーンは長い詠唱に入る。


 少し離れた場所に辿り着いたビスチェは風の精霊にクロたちの声を集めさせ、それを聞きながら笑いクロが施した結界の中へと足を進める。


「殿下は大丈夫ですか!?」


 真っ先に飛んできたメイドがビスチェの肩を掴もうとするが、それをスルリと避け「それはこれからよ」と表情を引き締める。


「師匠が呪いと純魔族との結合を無理やりに魔力を使って引き剥がすと空間に歪が起きるわ。その歪から呪いに関係した純魔族が現れ、倒せば完了よ」


「た、倒せるのでしょうか」


「倒せなければ現れた純魔族が師匠たちを殺し……純魔族が世界へと解き放たれるかな?」


 女騎士は震えメイドは表情を青くするなか魔方陣が輝きだす。


「はじまったわね……」


 ビスチェとダリルのお付きたちは輝きだした魔方陣を祈る様に見つめるのだった。





「こいつが俺様の呪いを強引に切った馬鹿か……えっ!?」


 輝く魔方陣の内部ではダリルの頭上の空間が裂け、黒く長い爪が現れると禍々しい黒鉄の様な肌に赤い瞳を持つ純魔族が顔を覗かせる。


「やあ、これで五回目の登場だったかな? バインド×二十!」


 聖属性の光を帯びた鎖が純魔族の首を絞め、強引に引っ張り出すと体中に巻き付き悲鳴を上げる純魔族。その様子を下から見ていた第二王子ダリルは口をポカンと開け見入り、恐怖というよりも先ほどのやり取りが頭に引っ掛かる。


「五回も純魔族と対峙して……」


「五回ではない! 八回だ! 俺様の呪いを悉く消滅させ世界に亀裂を生み、魔界から顔を出した所で毎回俺様を……だが!」


 純魔族を縛っていた聖属性の鎖が飛び散り、宙に浮いたまま勝ち誇ったような顔を浮かべる純魔族。


「俺様だって力を増している! 前と同じと思うなよ!」


「何だかやられ役の様な台詞だな……女神のシールド!」


 宙にいる純魔族の更に上にはこの世界の主神たる女神を正確に描いた光るシールド魔法が発動され、結界内部はより強い光に覆われる。


「グガァァァアァァァァァァァァァギャァァァァァ」


 純魔族の悲鳴が魔方陣の内部に響き、あまりの声量に耳を塞ぐ第二王子ダリルとクロ。


「バインド×三十!」


 宙で苦しんでいた純魔族を聖属性のバインドで新たに拘束したエルフェリーンは、それを引きながらクロの元へと近づき肩を叩くと、女神のシールドの光が治まり目を見開くとチカチカしながらも予定通りに目の前の縛られた純魔族に手を翳す。


「これって生で触っても大丈夫なんですよね?」


「すぐに手を洗えば問題ないよ。それよりも早くしてくれ」


「へーい、収納っと」


 クロが力ある言葉を解放すると白い渦が現れ、縛られたままの純魔族は白い渦の中へと水が落ちる様に消えて行き叫び声も消失する。


「これで完了だね」


 笑顔で終了宣言をするエルフェリーンに対して腑に落ちない顔をするクロ。


「八回目らしいですけど……」


「あはははは、誰にだって間違える事はあるって。そもそも百年や二百年の感覚が開いた出来事を鮮明に覚えている奴なんていないよ~」


「いやいや、百年も二百年も普通は生きてないから……」


「そうかな? 私の友人はみんな長生きだからねぇ~クロも長く生きて僕の暇潰しに付き合ってね」


 満面の笑みを浮かべるエルフェリーンにクロは何とも言えない表情を浮かべ、そのやり取りを視界が回復した第二王子は羨ましそうに見つめるのだった。





 お読み頂きありがとうございます。

 

 このあとも二話ほど予定していますので、もしよかったらお付き合いください。

 

  

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