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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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もつ鍋会の終わりと豊穣のスプーン



 食後のデザートまで食べ終えたクロたちはそろそろ地上へと戻ろうと立ち上がる。すると女神ベステルが笑顔でクロを手招きする。


「クロだけ残りなさい。少しだけ話があるわ」


「その笑顔が怖いのですが……」


 クロの言葉にムッとしながらも口を開く女神ベステル。


「ほらほら、エルフェリーンは今にも寝そうだからアイリーンは体を支えてあげなさい。クロとはちょっとした内緒話だから地上に戻って待っているといいわ」


≪内緒話を公言するってどうなのですか?≫


 うとうとしているエルフェリーンを支えながらアイリーンが文字を浮かせ訝しげな表情を浮かべる。


「本当にちょっとしたお願いがあるだけよ。それにしてもクロは愛されてるわねぇ~ビスチェも心配そうな顔をしてるわよ」


 隣にいる事もあり肘で突いてくる女神ベステルにうんざりしながらも、クロは口を尖らせるビスチェに声を掛ける。


「えっと、態々引き留めてまで言うからには何かあるのと思う。先に戻っていてくれ」


「わかったわよ……」


≪無茶な事を言われたら断って下さいよね……≫


「うふふ、神と敵対しても私は味方をしますのでご安心ください」


 何や頼もしい言葉を受け魔法陣に乗り天界を去る『草原の若葉』たちと、名残惜し気に天界から去る聖女ジュリアスたち。それらを見送ったクロは女神ベステルたちに向き直ると手を払う仕草をし、いつもの十畳ほどの部屋へと変わり炬燵に足を突っ込む女神たち。


「ほらほら、クロも座りなさい。今からちょっとした昔話をするから……」


 手招きする女神ベステルの言葉を受け素直に炬燵に足を入れるクロ。風景が一瞬にして変わった現状にも女神がする事という理不尽な行動にも慣れたのだろう。


「昔話って事はカイザール帝国に関してですか?」


「そうね。少しだけど関係しているわ。今から話すことは内緒にして欲しいのだけど――――」


 女神ベステルの話を聞きながら料理の神ソルティーラが入れたお茶を飲み、天界で長話を耳にするクロなのであった。










「帝国の地下にこんな空間があるとは驚きなのじゃ……」


「封印さ融けた城の見える位置に城を建てただけでも驚きだったが、地下道を改造して魔道鎧を量産しているとは……」


 陰に隠れながら様子を窺う二人は冒険者『豊穣のスプーン』。赤毛の少女とロマンスグレーの紳士の二人組であり、闇ギルドを潰してまわっている。

 その二人が隠れながらも偵察する眼下には天然の広い洞窟があり中では多くの魔道鎧が量産され、多くの作業員が動き回りバスターソードや魔道筒と呼ばれる火炎弾を飛ばす魔道具を組み立てている。


「量産していると耳にしておったが、ここから見るだけでも三十体はおるのじゃ」


「どの程度の性能かわからんが皇帝の本気度合いが分かるな……これが侵略戦争に使われればどれほどの被害が出るか……」


「見える範囲だけでも潰しておくかの?」


「いや、今は様子見だけにする。できれば詳細な設計図なりが欲しいが……」


「うむ、弱点が分かれば対応もしやすいのじゃ」


 組み立てられてゆく魔道鎧を確認しながらその光景を目に焼き付けて行く二人。しばらく眺めていると休憩時間に入ったのか作業員たち退出し作業場に静寂が訪れる。


「降りて見るかの?」


「罠があるかもしれんから警戒だけは怠るなよ」


「うむ、常に初心を忘れず行動するのじゃな。よっと」


 高い所から見下ろしていた二人は影を伝い下へと降り、作業場に広げられている書類に目を通す二人。


「魔道鎧の外装は魔鉄を使いゴーレムのコアで形作り、制御魔石と呼ばれるものに動きをトレースさせ肉体への負担を減らしておるのとは……」


「制御魔石をどうやって作っているのかが気になるが、ふむ……この大量にある魔鉄は隣国から買い漁っているようだな……サキュバニア帝国に持ち運ばれた魔鉄かもしれないな……」


「うむ、クロが作り上げた塔だったものじゃな。あれを目の前で見た時は驚いたが、こんな形になってはクロに申し訳が立たぬのじゃ……」


「そうだな。クロには美味い酒や料理をご馳走してもらったからな。それにエルフェリーンさまへの義理立てもある。魔鉄の悪用はどうにかせんとな、それにこと事を知って魔鉄を流したのならカリフェルにも責任を取らせないとだな……」


 サキュバニア帝国に運んだ大量の魔鉄をどう売り捌いたか思案しながら魔道鎧の詳細を暗記して行く二人。


「機動性が低いのが救いじゃが、全身を魔道鎧に包まれておることを考えると、魔力が高いものが着れば一時的にじゃが全身を強化し更に強固外装になるのじゃ。下手したら瞬時に素早く動く可能性もあるのじゃな……」


「魔力が高い者が着たらそれこそ脅威だろうな。だが、視界と呼吸の為の穴が欠陥だといえよう。致死性の毒や麻痺薬などを使えば対応はできよう」


「逆に言えば弱点らしいのはそのぐらいじゃな。重量がある魔道鎧は足場の悪い所に誘えば足を取られるじゃろうが……」


 魔道鎧対策をしながら話し合っていると休憩が終わったのか話し声が聞こえ、素早く陰に入り身を隠す二人。二人はヴァンパイヤ特有の影魔法の使い手であり、影に入り身を隠したり影を伝い移動したりできるのだがその隠蔽は完ぺきではなく、影を踏まれると踏んだ者に存在がばれる危険性があり使い使い勝手が難しい。


「本当に戦争がはじまるのかね……」


「春になったら東側から攻めるという噂は聞いたな……」


「東っていうとクラブル聖国か……」


「あそこは真っ先に帝国に反旗を翻したからな……」


「聖王国は親しい奴がいるからな、できる事なら戦争してほしくないな……」


「戦争なんて誰も望んじゃいねえよな……望んでいるのはトップだけだろ……」


 作業員たちの話を耳にしながら苦しめられるのは民たちだと改めて思うロザリアとラルフ。

 陰に潜み作業員たちの会話を耳にしながら情報を集めて影を移動してまわり人気のない事を確認した二人はひとつの部屋の前に姿を現す。そこには礼拝堂と書かれたプレートが掲げられ扉に耳を付け人気がない事を確認する。


「誰もおらぬようじゃが……」


 ドアノブに手を掛けるロザリアの手を素早く掴むラルフは首を横に振り、頷くロザリアはゆっくりと手を放す。


「何やら嫌な気配を感じるな……」


「我にはわからぬが爺さまがいうのなら開けるのは……」


 しかし手にしていたドアノブは勝手に動き扉が開かれ溢れ出す黒いもや


「くっ!? これほど濃い瘴気が溢れて」


「これは邪神像……」


 二人の視線は礼拝堂になっており奥には蠟燭で照らされる黒い翼の生えた天使の像があり、閉じられた瞳からは血のように赤い涙が溢れそれが黒い靄となって部屋を更に薄暗くしている。


「これは我らだけでは手出しができなぬ……」


 扉を素早く閉めたラルフは確りと閉まった事を確認すると二人で頷き陰に潜みこの場を後にし、援軍になるだろうクラブル聖国へと知らせに走るのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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