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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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食後のデザート



「ふぅ……少しは元気が出てきた気がするわ……」


 〆まで食べ終わったベステルは自身のお腹を摩りながら呟き、隣に座る愛の女神フウリンや叡智の女神ウィキールも微笑を浮かべる。


「僕もお腹がいっぱいだぜ~もうデザートも入らないぜ~」


「私はデザートまで食べられるけど……」


「うふふ、デザートはスッキリとしたものが食べたいですね~」


≪私もお腹がパンパンですよ~≫


 ビスチェとメリリ以外は食べすぎなようでデザートを辞退し、聖女ジュリアスと皇女ゼリールに専属メイドのオレリアは苦しそうな顔をしてお腹を摩っている。


「デザートまでは考えてなかったな……それよりも大丈夫ですか?」


「神々の前なのに少し食べ過ぎてしまいました……」


「私も……お恥ずかしい限りです……」


「お嬢さまが元気になられて良かったです……うぷっ……」


 クロが声を掛けると初参加の食べ過ぎた者たちは恥ずかしいのか頬を染め、専属メイドのオレリアは口を押え上がって来るものを塞き止める。


「なあ、アイリーンのエクスヒールは食べ過ぎにも効いたよな?」


≪当たり前ですよ~手足だって生えてくる高位の回復魔法ですからね~ハッ!? なるほど! エクスヒールを使えば限界以上に食事ができる! クロ先輩は天才かっ!!!≫


「いや、そうじゃなくて聖女さま方が苦しそうだからどうかと」


≪なるほど~それならエクスヒールですよ~≫


 細い糸を食べ過ぎたちへ飛ばしエクスヒールを掛けるアイリーン。三名は話を耳に入れていたが酒の席の冗談かと思い聞き流していた。が、体が淡く光り始めた事に驚き、中でも皇女ゼリールは先ほど教会で起きた奇跡を思い出して目を見開きながらアイリーンを見つめる。


「こ、この光は先ほどの……」


 絞り出すように声にした皇女ゼリール。聖女ジュリアスはエクスヒールと呼ばれる世界にも使用できるものが少なく、自身がそれさえ使えればもっと早くゼリールを元の体に戻せたと悔やんでいた高位回復魔法を自身の体に受け軽いパニックを起こし、専属メイドのオレリアは苦しかったお腹の具合が治まりデザートも食べられるとポジティブな発想でクロに視線を向け、何が出てくるのかを期待する。


「デザートはそうだな……ゼリールさまがいるからゼリーにしましょうか」


 おやじギャグ的な思い付きでアイテムボックスに入れてある果物を使ったゼリーにコーヒーを使ったものやコンニャクを使ったものなどをテーブルに広げると、我先に手を出す女神ベステルとメリリ。ゼリールの専属メイドのオレリアは主が手を出してからという暗黙のルールに則り手を出せずにヤキモキしている。


「アイリーンさまが私を癒して……ああ、私は神々の奇跡だと誤解しておりました……アイリーンさま、ありがとうございます……」


 席を立ちゼリーを取ると思われた皇女ゼリールだったがアイリーンの前に立ち深く頭を下げ、慌てて立ち上がったオレリアも頭を下げながらも減って行くゼリーを思い手を力強く握り締める。


≪いやいやアレは神さまのお力で奇跡ですよ~それよりもゼリーを食べましょうね~お勧めはミカンの入ったオレンジのゼリーですよ~メリリさんはコンニャクで作ったゼリーにした方がいいですね~またダイエットする羽目になりますよ~ウィキールさまは蜂蜜で付けた梅が入っているゼリーがお勧めです≫


 感謝され恥ずかしいのか長文の文字を浮かべ、それを確認したメリリは急ぎコンニャクで作られたゼリーを確保する。ウィキールもクロに聞きながら梅のゼリーを手に取りご機嫌な表情で封を開け口にし、皇女ゼリールはゆっくりと顔を上げ浮かぶ文字を確認して微笑みながらも再度頭を下げ、それに続くため専属メイドのオレリアも頭を下げる。


 この時、オレリアはメイドでありながらも騎士として育てられた動体視力を使い、頭を下げながらもテーブルに残るゼリーを視認する。


 オレンジのゼリーが美味しいと言っておりましたが、もうないだと……くっ! 残るは赤い果実が入っている物と小さい物に真っ黒い物……アイリーンさまの回復魔法でお腹は問題なく食べられます! ゼリールさま、どうか早くゼリーを手にして下さい! 残りが僅かです! 先ほどもう食べられないと言っていた者たちもゼリーを口にしておられまするぞ~~~~~


 専属メイドのオレリアの心の声が届くこともなく顔を上げたゼリールは感謝で胸がいっぱいになり食欲は既に失せていた。そして、その後ろでヤキモキを募らせるオレリアは最後に残ったコーヒーゼリーをクロが手にすると心の中でへたり込む。


 終わった……私の分が……終わった……


 凛とした姿で主の後ろに立つオレリアだったが心の中では涙を流し膝を折り、視界の隅でゼリーを口にする者たちの幸せそうな表情にどんな味か想像が止まらず口内には涎が溢れる。


「あの、ゼリールさまも如何ですか?」


 気を利かせクロがアイテムボックスからゼリーを取り出して声を掛けると、折れていた心が活力を取り戻し瞳に輝きが戻り心の中では歓喜の叫びを上げるオレリア。


 しゃっ! しゃっ! しゃっ! クロさまナイスです! 私はそのオレンジ色のゼリーが食べたいです! 皮の剥かれた果実が入っているそのゼリーは私の物です! ヒャッフォー!!!


「いえ、私は胸がいっぱいで……」


 その言葉に崩れ落ちる専属メイドのオレリア。心ではなくその場に崩れ落ち皆の注目を集める中、素早く駆け寄ったアイリーンは小さく呟く呪詛を耳にする。


「ゼリー……ゼリー……私の……ゼリー……オレンジ色した私のゼリー……」


 一瞬悲鳴を上げそうになるがオレンジのゼリーを渇望している事に気が付き、クロが手にしているゼリー各種からオレンジのゼリー目がけて糸を飛ばす。主人であるゼリールも後ろに倒れたオレリアを心配してしゃがみ込み呪詛を耳にし顔を引き攣らせるが、目の前を高速で通り過ぎたオレンジ色の物体に驚き体を後ろへと倒し、傍にいたクロが手を差し伸べる。


「大丈夫ですか?」


 差し伸べた手には数種類のゼリーがあり尻もちをついたゼリールはいっぱいだった胸も収まったのか赤い果実の入ったゼリーをひとつ手にして微笑みを浮かべ、その微笑みに頬を染めるクロに対してビスチェが口を尖らせる。


「これをどうぞ……」


 アイリーンが耳打ちしてオレンジのゼリーを手渡し視界に入ったそれを両手で受け取り涙するオレリアは思う。


 この人は神かと……


 主さまを癒した高位の回復魔法を自慢することなく神々の奇跡といった事といい、私が欲していたゼリーを差し出してくれた事といい、この人は神かっ! いえ、神々はあちらの席でゼリーを口にしておられますので……神以上の存在!!! ああ、願わくばこのお方に使える事ができれば……


 オレリアは多少思い込みが激しい所があり暴走する事もしばしばあるのだがキラキラと輝くオレンジのゼリーを手にし、涙で更に輝いて見えるそれを大事に抱えると立ち上がり頭を深く下げる。


「アイリーンさま、ありがとうございます……」


≪いえいえ、冷たいうちに食べた方が美味しいですよ~ゼリールさまも早く食べて下さいね~≫


「はい、オレリアの事といい回復魔法の事といい、ありがとうございます」


 二人揃って頭を下げる姿にアイリーンは先に席に付くと、糸を飛ばしクロの手に収まっていたコーヒーゼリーを手に取ると封を開け口にする。


「おいこら、さっきから糸を飛ばして盗み取るなよ。言えば渡すから糸で盗るな!」


≪乙女には色々とあるのですよ~≫


 浮かせた文字を手に取ろうとするが手は空を切り上へと逃げ、アイリーンへと視線を向けると悪戯っ子な笑顔を浮かべ舌を出すのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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