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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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鍋の〆は好みが分かれる



 女神ベステルが涅槃像から起き上がりもつ鍋に食いつくと、愛の女神フウリンと叡智の女神ウィキールも席に付き熱々のもつ鍋を口に入れビールと梅酒を口にする。

 エルフェリーンやビスチェにメリリも席に付きニラたっぷりのもつ鍋を取り分け口にし、クロがアイテムボックスから出したビールやワインを飲み始める。


「あの、ゼリールさま方も、どうぞこちらに。これはもつ鍋と呼ばれる故郷料理で元気が出ますよ」


 クロに誘われたゼリール皇女を含めた三人だったが首を横に振り、聖女ジュリアスが口を開く。


「そ、そんな畏れ多い……神々と席を共にするなど……」


「そそそ、そうです! 神々と同じテーブルに付くなど不敬です!」


 聖女ジュリアスに続きゼリールが口を開き専属メイドのオレリアは何度も上下に頭を振る。


「まあ、そういうな。こんなにも美味い料理と酒の前では神も人もない。只々美味い料理を堪能すればいい」


 もつ鍋を口にして梅酒のロックで流した叡智の女神ウィキールからの言葉は重いようで、頭を下げた三名はゆっくりとテーブルに付く。


「我らが崇める女神ウィキールさまと席を共にできる事を、」


「ああ、そういう話はどうでもいいから、まずは一口食べて酒を飲むがいい」


 聖女ジュリアスの言葉を遮り器に入れたもつ鍋を振舞う叡智の女神ウィキール。隣では愛の女神フウリンが「こちらの方が飲みやすいですよぉ」と言いながら梅酒を炭酸で割りグラスに注ぎ入れ渡してくる。それを振るえる手で受け取るゼリール皇女と専属メイドのオレリア。


「神さま方にメイドのような事をされては、」


「いいのですよぉ。神だから人だからと小さな事に拘ってはダメですよぉ。誰であっても思いやる心がなければぁ寂しいですぅ。それよりも早く食べて見て下さいねぇ」


「そうよ。せっかく、英雄であるクロが用意した料理とお酒なんだから美味しく召し上がりなさい!」


 指をビシッと指す女神ベステルの言葉に三名は料理を口にする。ただ、クロは弄られているという感が否めない。


「これは……何とも温かで活力に満ちた料理ですね……」


「プルリとした食感が楽しいです。それに食欲の湧く香りがします」


「肉だという事はわかるのですが初めて食べる食感ですね……美味しいです」


 三名とももつ鍋が気に入ったのか口にして、梅酒サワーで喉を潤し目を見開く。


「これは何とも香りのよい。それに喉を刺激する気泡……」


「神々の下を満足させる料理と酒……」


「ぷはぁ~これは料理も酒も進みますね!」


 梅酒のお陰かほんのりと頬を染める三名にウィキールは数度頷きもつ鍋を口にする。


「梅酒もいいけどもつ鍋にはビールね! あまり個性が強いビールじゃなくて、すっきりとしたドライ系のビールが合うわよ!」


「いえいえ、もつ鍋にはこの芋焼酎ですぅ! サツマイモから作った芋焼酎の方が絶対に合いますよぉ」


 女神ベステルがドライ系ビールを勧め、愛の女神フウリンが芋焼酎を勧め、それにムッとした顔をする叡智の女神ウィキール。


「やはり一番は梅酒だろう。梅酒は甘いが香りがよく合わない料理はない!」


 そんな三柱の話し合いを耳にしたクロはこちらに話が飛んでこない事を祈りながら、もつ鍋を口にして〆を思案する。


 やっぱり〆は中華麺にするべきかな。でも、聖女さまや皇女さまはフォークを使って食べているから中華麺だと食べ辛いよな。雑炊か、チーズを入れてパスタにするのもありかな……醤油ベースの味付けだからうどんとも相性がいいけど、フォークで食べるならパスタだよな。野菜を全部食べて残ったスープにパスタを入れて火を切ってから生卵を落として絡め、釜玉うどん風パスタにしてもいいか。それならフォークで食べられるし、ってどうした?


 急に体を揺さぶられ意識を戻すと目の前には女神ベステルがおり、胸ぐらを掴まれている状況に驚くクロ。


「こら、無視するな! で、クロはどのお酒が一番もつ鍋と合うと思うのよ!」


 実にくだらない言い争いを続けていたらしく最終的にクロの意見を求め胸ぐらを掴んだのだ。


「えっと、たまにはウーロン茶とかにしませんか?」


 普段から飲み過ぎを心配するクロの言葉に神々と女性たちからは白い目を送られ一気に場の空気が冷め、胸ぐらを掴んでいた女神ベステルは手を放し席へと戻る。


≪クロ先輩は真面目ですね~ここでビールか焼酎か梅酒を選べば神さまだって攻略対象になったでしょうに……≫


 アイリーンから飛んできた文字を掴みアイテムボックスに収納したクロは、いい感じに減って来たもつ鍋を確認するとアイテムボックスからパスタを取り出す。


≪〆にパスタとかオシャレさんですね!≫


「同じ麵なら中華麺の方がもつ鍋の〆には合うんじゃないかしら?」


「中華麺でもいいと思いますけど、たまには変わった食べ方もいいかと思いまして。それに箸が使えないとラーメン系は食べ辛いですから」


 新たに招待された聖女ジュリアスや皇女ゼリールに専属メイドのオレリアがフォークを使いもつ鍋を食べる姿に「そうね」とそっけなく答える女神ベステル。


「向こうで麺を茹でてきますけど厨房は借りられますか?」


「それは構わないけど、ソルティーラも誘わないと拗ねるわよ」


「それなら一言掛けて貰ってもいいですか?」


「そうね。〆だけでも呼んであげましょうか」


 ニヤリとする女神ベステルにクロはもつ鍋を魔力創造で作り出しテーブルに置くと、口を尖らせながらも手を払う仕草をする。すると手を払った先に料理の女神ソルティーラが現れ数度目をぱちぱちさせ現状を把握し、もつ鍋の香りに気が付くと素早く席に付き自身の分を取り分け口に運ぶ。


「うまっ!? これは内臓……それも牛の腸を使った鍋料理……臭みがなくニラとニンニクにショウガと鷹の爪……鶏ガラを使った出汁に醤油を入れて煮込んだのですね。キャベツとモヤシがいい感じの甘味を出しています。プニプニとしたモツの食感が堪りませんね」


「呼んであげたのにお礼もなく真っ先に料理を口にするとか……はぁ、あなたの厨房を借りたいのだけれどいいかしら?」


「フゥフゥ……はい、それは構いません。〆のパスタを茹でるのですね? 私は中華麺が合うと思うのですが……」


「私もそう思ったけどね~クロはこの子たちの為にフォークでも食べやすいパスタにするっていうのよ」


「なるほど、それでしたら生卵を入れてカルボナーラ的な味付けにしてみるのはどうですか? 醤油ベースですので釜玉うどん的な味でこのスープにも合うと思いますよ」


 まさにそれを作ろうとしていたクロは無言で頷くと席を立ち、案内するために愛の女神フウリンが付き添い部屋を後にする。


「英雄さまは我々の為に料理を選んで下さっているのですか?」


「ほら、僕たちは箸と呼ばれる二本の棒で食べているだろ。これだと麺と呼ばれる小麦を伸ばした料理も食べやすいんだよ」


「箸は練習がいるわ。私も慣れるまでひと月は掛かったからね」


「うふふ、私はまだ練習中ですが汁気の多いラーメンと呼ばれる料理は箸の方が食べやすいですね。慣れれば箸で魚の小骨も分けることができますよ」


 自慢気に語る『草原の若葉』たちの言葉を耳に入れながらも聖女ジュリアスは自身たちの為に神々の意見を曲げて料理するクロの存在を嬉しく思いながらも恐ろしく感じていた。


 英雄であるクロさまは神々の意見さえも跳ねのけ、我々の為に食べやすさを選んで下さるとは……もしかしたらいつの日か神々の逆鱗に触れる可能性も……


 そんな事を思案している間にも麺が茹で上がり戻ってきたクロは鍋の底に残った具材をすべて取り除き、アイテムボックスから携帯用コンロを取り出すとスープと硬めに茹でた麺を合わせひと煮立ちさせもつ鍋の出汁を吸わせると、生卵を入れ和えながら火を止め万能ネギを振りかける。


「これで完成かな。味が薄いと感じたら麺つゆか塩コショウを掛けて下さい。味変で具沢山のラー油を入れても美味しいと思うのでどうぞ」


 アイテムボックスから取り出した瓶にアイリーンが歓喜したのは生前の大ブームを思い出しての事だろう。


「うまっ!? もつ鍋よりもこっちの方が美味しいとか、どういう事よ!」


「うんうん、僕は辛くない方がいいぜ~弾力のある麺に玉子ともつ鍋の旨味が入ってこれは絶品だぜ~」


「クロ先輩! 今度これをご飯にかけて食べたいです! ちょっとだけ醤油を入れて食べるのが好きで、こっちのスパも美味しいですけど、やっぱりご飯にかけて食べたいです!」


 テンション高く早口で捲し立てるアイリーンに、夕食は具沢山のラー油と白米を用意しようと思うクロであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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