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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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新たな出会いと涅槃像



 聖女に連れられ宮殿の内部にある教会へと足を踏み入れたクロたちは壮大で精錬な造りの内部に驚きの声を上げる。


「エルファーレさまのお城も見事でしたが、こちらの教会のステンドグラスや彫刻はすごいですね」


「ありがとうございます。英雄様がお褒めになったあのガラス細工はこの国が誇る技術の粋を集めたものですから。他にも叡智の女神ウィキールさまの彫刻や、柱に施された美しい風景などはこの近くにある山々がモデルとなっております」


 褒められた事が嬉しいのか早口で捲し立てる聖女ジュリアス。


「この国は知識を大切にして後世へと繋ぐため多くの書があるからね。今度暇な時にでも大図書館へ行こうか」


「その際はどうぞ私に案内させて下さいませ」


「それならお願いしようかな~あまりに大きな図書館だから目当ての物を探すだけでも迷子になるからね~最近は紙を使った書物も多いから読みやすくて助かるよ」


 紙自体はあるがまだまだ品質が安定しておらず、ざらつきのある紙で作られた本は読み難くインクが本から剥がれ落ちる事もあるほどである。


「こちらの大聖堂でお待ち下さい。エルフェリーンさまにどうしても会わせたい者が居りますので……」


 深々と頭を下げた聖女ジュリアスは大聖堂横にある通路へと姿を消し、クロたちは大聖堂の彫刻や叡智の女神ウィキールの石造を見て時間を潰していると、カタカタという音が奥から響き木製の手押し車に座る女性とそれを押すメイドを連れ戻って来る聖女ジュリアス。


「エルフェリーンさま方、このお方をどうしても会わせたかったのです」


 聖女ジュリアスが連れてきた者は酷い怪我をしているのか包帯に巻かれ素顔が解らず、左手と右足を失っているのか痛々しい姿をしながらも頭を下げて口を開く。


「このような姿で申し訳ありません……私は、えっ!?」


 自己紹介の最中だったがアイリーンから視認できないほどの糸が飛び痛々しい姿をしていた女性が淡い光に包まれる。


「ああ、何と温かな光が……私はここで天に召されるのですね……」


 自信が淡く輝いている事と大聖堂の美しさからか勝手に天国へと行くと勘違いしたが、光が治まると命が尽きているという事もなく頬を染める女性。ただ、頬を染めながら微笑むエルフェリーンたちと後ろで泣き崩れるメイドの嗚咽を聞き振り返る。


「もう、オレリアったら何を泣いているのかしら。エルフェリーンさまにお会いして感極まるのは理解できますが……えっ!?」


 振り返りながら差し出した左手がそこにはあった。


「何で、手が……足も……」


 失ったはずの手足がそこにはあり、体中の痛みさえもなくなった事に気が付き流れ落ちる涙。二年ほど前に酷い事故に遭い瀕死の状態で救助されたのだがあまりに酷い怪我で完全に治すことができずにいたのだ。それが一瞬のうちに癒され元の状態へと戻った事に驚き、感情が抑えられずに涙する。一早く気が付いたメイドが涙を流し、聖女ジュリアスも両手を重ねて膝を付き目の前の奇跡に感謝している。


「元気になってよかったね~いや~神の奇跡かな~」


 適当に話を誤魔化しているエルフェリーンにツッコミを入れる者はおらず、エクスヒールを掛けたアイリーンは音の鳴らない口笛を吹いている。


「神さまの軌跡なのですか……ありがとうございます……叡智の女神ウィキールさま……」


 両手を合わせる女性は涙を拭くのも忘れ叡智の女神ウィキールの石造へと手を合わせる。すると叡智の女神ウィキールの石造が淡く輝き首を左右に振り否定するのだが涙を流している聖女ジュリアスやメイドも確認する事ができず、ただ、『草原の若葉』たちにはその姿が見え、心の中でコントかよ! とツッコミを入れるクロとアイリーン。


「うんうん、元気になったけど彼女はどうしてこんなにも酷い怪我を負ったのかな?」


「はい、実は……」


 本人の口から語られた話は酷いものであった。


 彼女の名はゼリール・フォン・カイザール。カイザール帝国第一皇女であり、現皇帝の実の妹であるのだが、公務としてここクラブル聖国へと向かいその時に馬車ごと渓谷へと落ちたのだ。しかも、それを実行したのは護衛の騎士たちで最初から仕組まれていた事らしい。馬車ごと落下した皇帝陛下と皇后はその場で息を引き取り、運よく無傷だった専属メイドのオレアナと数名の傷ついた味方の兵士でクラブル聖国へと辿り着き一命を取り留めたのだ。

 この事実はゼリールを心配するオレアナと聖女ジュリアスによって隠され、帝国では皇帝と皇后と皇女三名の事故という事で話がまとまり公表され現在に至っている。


「うん、やっぱり帝国を滅ぼそう!」


「それがいいわ! 私も全力で潰すわ!」


 説明を聞き終えたエルフェリーンとアイリーンが拳を握り帝国を本気で潰す宣言をし、メリリはニヤリと口角を上げて嬉しそうに口を開く。


「うふふ、私も是非ともご協力させて頂きます! ええ、させて頂きますとも! あの時の恨みは忘れておりません!」


 メリリも因縁があるようで復讐できる機会を受けやる気を出している。


≪もしかしたらゼリールさまや皇帝陛下方が亡くなった事故をこの国に擦り付けて戦争を仕掛けるとか……ないですかね?≫


 アイリーンが浮かせた文字を見つめ泣きながら話していた皇女ゼリールはハッとして聖女ジュリアスへと視線を向け、向けられた聖女も黙って頷き、控えていた専属メイドのオレリアは拳を握り締める。


「このような事でこの国に迷惑は掛けられません。今すぐにでも兄を討伐し罰を与えなければ!」


 手押し車から立ち上がったゼリールだったが二年振りに立ったこともありバランスを崩し、素早く糸を飛ばして体を支えるアイリーン。


「あら、これは……糸?」


≪まだ病み上がりですので気を付けて下さい。まずはリハビリからですよ~≫


 浮かんだ文字を読み御礼を言うゼリール。専属メイドのオレリアが手を貸し手押し車に戻され糸を回収するアイリーン。すると足元が輝き『草原の若葉』を加えた三名が大聖堂から姿を消し、目を開けた先で驚愕する三名。


「こ、ここは……」


「嘘……」


「…………………………………………」


 今いる場所が信じられず自身の頬を抓る聖女ジュリアスとゼリール皇女。専属メイドのオレリアは只々立ち尽くし目の前の光景を見て固まっている。


「こちらからも色々と思う所があり呼ばせてもらったが、ベステルさまは少し雰囲気という物を大切にして頂けませんか?」


 後ろから光が差しそうなほど神々しい姿で話す叡智の女神ウィキールに対して、その場で横になりながらお尻をボリボリと掻く女神ベステル。


「そうは言うけど、ここのところ忙しくてクロからの貢ぎ物を食べる暇もなかったじゃない。ねぇ、フウリン」


「そうですよぉ。ダンジョン神が作り出した新種の調味料や宝箱のチェックが忙しかったりぃ、次元の隙間に落ちた島を引き上げたりぃ、不倫するどこぞの国王の監視が大変でしたぁ」


「最後のは趣味でしょうに……はぁ……クロ、お願いだから疲れが取れそうなお酒プリーズ!」


 涅槃像ねはんぞうの姿勢で手をクイクイさせる女神ベステルに、信仰とはと思いながらも、叡智の女神ウィキールが好きな梅酒とニラをたっぷりと使ったもつ煮を魔力創造で作り出すのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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