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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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怖がられるメリリとクラブル聖国へ



 農作業用ゴーレムの試作も完成した事もあり、クロたちはクラブル聖国に向かっていた。クラブル聖国はカイザール帝国の東にあり女神ウィキールを主神とした宗教国家である。


「ここから更に東に行けばオークの国で南に行けば聖王国だね~」


 エルフェリーンの説明を耳にしたクロたちはイナゴ騒動を思い出しつつ、城門の兵士に身分証となる冒険者証を提示する。


「え、エルフェリーンさまっ!?」


「こ、こっちは死者のダンジョンを単独突破した英雄さまだぞっ!?」


 門番は解りやすく驚き数歩後退りガタガタと身を震わせ、困った顔をするクロと笑顔を浮かべるエルフェリーン。


「あははは、そんなに驚かなくてもいいじゃないか~まあ、僕の弟子が英雄と呼ばれるのは悪い気がしないぜ~」


「そうね! クロが英雄と呼ばれるのは姉弟子である私も悪い気がしないわ!」


≪クロ先輩は英雄ですね~すごいな~すごいな~≫


 褒める一同からの声に複雑そうな顔をするクロ。クロ的には平穏無事な一般人であり、錬金術士見習いという立場で目立たない以前の生活が楽でいいと思っているのだ。


「うふふ、クロさまは英雄としての自覚を持った方が宜しいですね~これは私の冒険者証です」


 メリリから恐る恐る受け取った冒険者証に目を通す門番は膝から崩れ落ち、そのままの姿勢で必死に後ろへと下がりながら口をパクパクと動かし声にならない声を上げる。


「そ、そ、そ、双月っっっっっっ!!!」


 絞り出した声を聴いた門番たちは逃げるように距離を取ると、一人は転がりながら門番が集まっている部署へ急ぎ、もう一人は腰に差していたショートソードを構えるがガタガタと震え続けている。


「………………………………………」


≪帝国潰しや英雄よりも、いいリアクションが貰えましたね~≫


 アイリーンが浮かべた文字に頷くクロとビスチェ。肝心のメリリはそろそろ忘れられただろうという淡い期待をしていたがそんな事はなく、震える兵士の態度に無言の圧力を与え、後ろで並んでいた商人や冒険者などは適度な距離を保ちつつ成り行きを見守る。


「双月が出たと聞いたが……ああ、本物のようだな……それにエルフェリーンさま、ようこそクラブル聖国へ」


 大柄の男が数人の兵士を連れ現れるとメリリとエルフェリーンを視界に入れ深く頭を下げ、それに続き連れてきた男たちも頭を下げるが、鎧を着ている事もありカタカタと音が響き震えているのがわかる。


「やあ、耳寄りな情報と悪い情報があってきたけど、怯え過ぎじゃないかい?」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべるエルフェリーンと威嚇を止め笑顔を浮かべるメリリ。ただ、数歩後ろへと下がり、しれっとクロの後ろに隠れシャロンと共にクロを盾にして守られている感を楽しむ。


「お前ら、エルフェリーンさまに失礼だろう! ビシッとしろ!」


 大柄の男が激を入れるとガチャガチャとした音が消え背筋を正す兵士たち。


「うんうん、クラブル聖国の兵士は立派だね。さっきも言ったけど今日は耳寄りな情報を届けに来ただけだぜ~お城まで言ってもいいかな?」


「はっ、すぐに馬車をご用意致します」


「それには及びませんわ!」


 兵士とのやり取りのなか大きな声が木霊し豪華な馬車が急停止する。停止したのだが、豪華な馬車から箱乗りするシスターの姿に口をあんぐりと開ける大柄の兵士とその後ろに控える兵士たち。


≪異世界にも暴走族がいるのですね~≫


 アイリーンから飛ばされた文字をクロが握り潰すと、箱乗りするシスターが窓から飛び降りエルフェリーンの前に跪く。


「先ほど叡智の女神ウィキールさまから神託があり参上いたしました。クラブル聖国で聖女を名乗らせていただいておりますジュリアスと申します。以後お見知りおきを……」


「うん? 神託があったのかい?」


「はい、エルフェリーンさまと英雄さまが来られるのでエスコートするようにと……」


 頭を上げることなく話す聖女ジュリアスにエルフェリーンは手を差し伸べ口を開く。


「そんな所で膝を付いたら服が汚れちゃうから、ほらほら立って案内してくれよ~」


「は、はい、直ちにっ! 兵士の皆様、ここは私に任せて頂きます」


 手を取る事なく立ち上がった聖女ジュリアスは兵士たちに声を荒げ、馬車で控えていた御者は馬車のドアを開けいつでも入れるよう動き出す。


「それじゃあお願いするね~兵士の皆もお仕事ご苦労様~」


「はっ! クラブル聖国をよろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げる兵士たちに手を振りながら馬車へと案内される『草原の若葉』たちはクラブル聖国の宮殿へと向かうのであった。







 町中を馬車で駆け辿り着いた王宮は砂漠が似合いそうな宮殿であり、この国の紋章になっている聖書と杖を掲げる叡智の女神ウィキールの石造が正面に飾られた謁見の間へと通された。


「よくぞ参られた。エルフェリーンさまにはこの国の誕生に関わって頂き、感謝しかありません」


 深々と頭を下げるのはこの国のトップである国王兼教皇のクラトニー・クラブル。まだ二十代であるこの男は高速サインというスキルを持っており、この世界の誰よりも早く自身の名を書くことができる。逆に言えばお飾りの国王と教皇でもあり、国の運営は国議会と呼ばれる組織が行っておりサインだけを担当している。


「それも昔の話じゃないか。それよりも伝えたい事があるんだぜ~この情報はこの国にとって朗報となるし、もう片方は最悪国が滅びかねない情報だね」


「そ、それは……」


 嬉しそうに話していたクラトニーの表情が曇り、同じように謁見の間にいる国議会の面々や司祭や聖女ジュリアスも同じように不安そうな表情へと変わる。


「不安になるのもわかるけど、まずは話をしようじゃないか」


 エルフェリーンが魔道鎧の事を伝え、更には改造し農作業用ゴーレムの試作をクロがアイテムボックスから取り出すとクラトニーは目を輝かせ、聖女ジュリアスたちも同じように歓声を上げる。


「民を思い御造りになった農作業用ゴーレムは是非とも購入したいと思います。これがあれば新たな畑を作る事もできましょう」


 国議会の面々からもお墨付きが付き購入の予約を取り付けるクラトニーは、立ち上がり農作業用ゴーレムへと向かおうとした所を隣にいた近衛騎士に止められ渋い顔をする。


「まだまだ改良の余地があるからね~それと悪い報告だけど、カイザール帝国がこの魔道鎧を使った侵攻を起こそうとしている事かな。現物はクロが持っているからここに出すよ」


 エルフェリーンの指示通りに魔道鎧をアイテムボックスから取り出すクロ。


「これは……このような大きな鎧を着て動くことが……」


「何と禍々しい……それにあれほどの大剣を振り回すと考えれば脅威か……」


「右手の腕につけられた筒状の物はいったい……」


「いつから侵攻が開始されるかわかれば対応も……」


 不安げな者たちにエルフェリーンが説明を始め、捕虜たちが情報を漏らしたことを説明し、早くても春を待ってから行われる事に危機感を募らせる。


「エルフェリーンさま、この場ではお話しできませんが伝えたいことがあります……後で教会へご足労願えないでしょうか?」


「この場で話せない事? うん、別に構わないよ」


 こうしてクラブル聖国のへ情報を流すエルフェリーンたちは名ばかりの国王と国議会に話を伝えると、聖女ジュリアスに案内され宮殿内の教会へと足を運ぶのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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