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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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農作業用ゴーレムの試作



「このスピードで荒野を耕すことができるのは素晴らしいです!」


 果樹園近くでは試作した農作業用ゴーレムの試運転が行われていた。猪を参考に作り上げたゴーレムの鼻先には螺旋状の刃が取り付けられており、それが回転し土を攪拌することで柔らかい土壌を作り出している。額にはゴーレムの赤い魔石が埋め込まれ、背中には操作を補助する為の魔石が埋め込まれており、それを触ると緊急停止する安全装置も付け加えられている。


「うんうん、声で停止や全身に後退、左右への移動もできるからね~これなら便利に活躍してくれるぜ~」


「一度も掘られていない荒野の様な土がこうも簡単に掘り返すとは……それにこの柔らかな土……確実に農民の助けとなりましょう」


「ねぇねぇ、あれは私も欲しいわ! 春になったら薬草畑をあれで耕したいわ!」


 試作機を見ながら満足気に頷くエルフェリーンに捕虜というよりは技術者として扱われ始めた男たち。ビスチェはクロの袖を引っ張りながら自分の薬草畑に使いたいと懇願し、他の見ていた者たちもそのスペックに驚いている。


「五月蠅いと思って起きたら面白そうな物を作っているのう。土を掘り返して柔らかくするのかの」


 棘付きの蔓の中から上半身を出し傍にいたアイリーンへと話し掛けるアルー。アルラウネと呼ばれる蔓芋が進化した植物人族である。


≪まだ試作らしいですけどね~もしよかったらアルーさんの足元も柔らかくしましょうか?≫


「我はいらんな。それよりも前にクロがくれた肥料を貰ってほしいぞ。地面に刺して使うやつじゃ」


≪ああ、前に使っていたやつですね~普通の肥料じゃ否なのですか?≫


「いやと言うわけではないが、何というか、あっちの方が決まった感があるのじゃ! ババッキバキに気合が入るといえばいいのかのう。そんな感じじゃな」


≪やばいお薬を求められているようで困りますね……≫


「ある意味やばいな。あれはゆっくりと浸透して長く楽しめるからの……」


 両手で頬を押さえる表情は妖艶で一歩下がるアイリーン。


「どれ、我自ら交渉しようではないか」


 試作機を見ていたクロへ音を立てずに蔓を伸ばすアルーだったが、ビスチェが逸早く察知し地を這う蔓を足で踏みつける。


「アルーはどんな悪い事しようとしていたのかしら?」


 ジト目を向けるビスチェの言葉と踏みつけている蔓を見て、傍にいたクロやシャロンが慌てて距離を取る。


「むぅ……悪い事など考えておらん! 我はクロにお願いしてバッキバキになる肥料を分けて貰おうとしただけじゃ! ほれ、その汚い足をどけよ」


「誰の足が汚いですって……」


 互いに視線をぶつけ合い眉間に深い皺を作る二人。その間にアイリーンの文字が浮かび上がる。


≪ビスチェさんもアルーさんもそこまですよ~クロ先輩、アルーさんに肥料を分けて下さい。それとシャロンさんを瞬時に庇う姿はグッときました!≫


 距離を取ったクロはシャロンの盾になるべく動き、守られたシャロンは嬉しそうな表情でクロの背中にくっ付いているのだ。それを弄られたクロは後頭部を掻きながらもアイテムボックスに入れてある肥料を取り出すと、アイリーンに向かい全力で投げつける。


≪ナイスストライクですよ~ほらほら、アルーさんは一発決めちゃって下さい。ビスチェさんは蔓を開放してあげて下さいね~≫


 受け取った土壌へ指すタイプの肥料を足元に差し込むアルーは身を震わせながら歓喜し、ビスチェは渋々足を上げて蔓を逃がしながらもムッとした表情は収まらず口を尖らせる。


「俺が師匠に農作業用のゴーレムを交渉するから期限直せよな~」


「怒ってないし……それよりも、そろそろ帝国を潰しに行かないと春になっちゃうわよ」


「春はいいのう~温かく日差しも緩やかで花を咲かせたくなるの~」


≪私も春になったら狩りへ行きたいですね~春は獲物が豊富で狩りがいがありますよ~≫


「うふふ、私も春になればこのダイエットスーツからも解放されますね~細くなった私のデビューももうすぐです!」


 ビスチェが春を危惧しているのはカイザール帝国が隣国へと戦争を仕掛ける可能性がありからであり、下半身が根と蜘蛛と蛇にはその言葉の行間が読めず、春=楽しいという楽観的な考えを口にする。


「潰すかどうかは知らんけどさ、それも込みで師匠しだいだろ……俺は平穏無事がいいがね……」


「僕もクロさんと同じですが、帝国に魔鉄を売ったのは恐らく母さんだと思うので……その責任は取らないとですね……」


「そういえば魔鉄が市場に多く流れて購入していたとか言ってたな……そうなると俺が原因かも……」


 巨大イナゴ討伐の際に魔力創造で東京〇ワーを創造した事を後悔するクロ。その魔鉄はクロが回収しサキュバニア帝国へと運ばれたのだ。


「それこそ筋違いじゃない。誰が売って、誰が買って、誰が作ったかよりも、使い方次第よ! どの道、師匠の命を狙ったんだから報いを受けさせないとだわ!」


 ビスチェが腕を組みドヤ顔をする先では試作型の農作業用ゴーレムがプールサイズの畑を作り上げ、それを見ていた妖精たちは嬉しそうに飛び回る。


「ここでチョコを作ろうぜ~」


「私たちのチョコ畑~」


「クロ、クロ! チョコのタネ頂戴!」


「チョコ畑作るぜ~」


 妖精たちがクロのまわりを飛び交う姿に、チョコのタネって何だよと思いながらもカカオの身を作ればいいのかと思案するクロは魔力創造を試みるがカカオの実を魔力創造することはできず、代わりに種の形をしたアーモンド入りのチョコを魔力創造して配り始める。


「悪い、チョコのタネは無理だった。代わりにこれを食べて……そいうやエルファーレさまの所にはカカオがあったよな? 今度、師匠にお願いして分けて貰いに行けばいいかな」


「これうまっ!? 中の種うまっ!」


「カリカリのが入ってる~」


「この種は? この種は?」


 アーモンド入りのチョコを食べテンションを上げ飛び回る妖精たち。ビスチェはシャロンたちも口に入れ表情を溶かし、その後ろでは上半身を左右に揺らして喜ぶアルーの姿がありバッキバキに決まっているのだろう。


「試運転はこんなもんかな~魔道鎧よりもこっちの形の方が農作業には向いているね~」


「魔道鎧では足が大きく耕した土も踏み固めてしまいますからな」


「耕すという意味ではこれが最善でしょう」


「後は種を植え、水を撒き、雑草を取り、収穫する……」


「完全なゴーレム農業を確立するまでは頑張らないとですね!」


 試作機を見ながら感想を言い合うエルフェリーンと捕虜たち。会話だけを聞けば農作業の効率化を図っている気もするが、元は暗殺者とターゲットであり、五日ほど試作を続けどちらにもその自覚が既にないのかもしれない。


「そうだ! クロの知っている野菜のタネを出してよ! 新しい畑にはそれを植えましょ!」


 ビスチェは先日の薬草の話から異世界の野菜を育てる事を提案する。


「俺は構わないが、何月に何が育つとか……いや、気候も若干違うから色々な種類を植えて育てればいいか。そうなると雑誌を創造してからの方がいいかな?」


 声に出しながら魔力創造を使い家庭菜園が乗っている雑誌を創造すると、瞬時にビスチェに奪われシャロンやアイリーンにメリリが集まり、ああだこうだと口にしながら選び始める。


「クロがいた世界の植物には興味がのう。私ぐらい美しい植物あるかの?」


 身をくねらせるアルーの言葉に園芸雑誌を魔力創造して手渡すクロ。それをペラペラと捲りながら次第に震える姿に「どうした? 大丈夫か?」と声を掛ける。


「こ、これは……この白く連なった花や、大きく黄色い花は……何と美しい……むふぅ~クロ! この花を育ててはくれないかの?」


 鼻息荒く頼み込むアルラウネのアルーの言葉に、胡蝶蘭と向日葵を魔力創造するのであった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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