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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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魔道鎧の改造と夕食はカツカレーです



 カイザール帝国は五つの国に囲まれた国であり、北にサキュバニア帝国、東にクラブル聖国、南にポセイダル海王国、南西にカルサス王国、西にドロシー共和国が存在する。北のサキュバニア帝国以外は元カイザール帝国領土であり、帝都に巨大な火球が現れて城が燃やされると次第に勢力を失い、その地を収めていた領主や教会が独立を宣言し多くの領土がと帝国民が離反していった。恐怖に落ち入れられた当時の皇帝はそれを止める手段も人望もなく、自国を守る事を徹底させ現在に至っている。


 今から二百五十年も前の話である……


「なるほど……ゴーレムを使って畑を耕せば重労働だった農民たちにも楽ができますな!」


「ゴーレムを使った公共事業は河川の整備や道の整備に城壁の修理ぐらいだろ? それなら農具を交換して使えるこの魔道鎧なら農作業はもちろんのこと公共事業や新たな農地開拓にも使えるぜ~」


 中庭ではデモンストレーションが行われていた。エルフェリーンとルビーが魔道鎧の新たな可能性として回転する刃を付けた耕運機のような仕組みを取り入れたパーツを作り、それを左手のバスターソードと交換し畑を耕せるように改良を施したものを捕縛した襲撃者のリーダーに紹介している。

 後ろにはアイリーンがおり糸で繋がれてはいるがその者は気が付いていないようで、いつでも捕縛する準備ができている。


 できてはいるのだが、その者は食い入るように仕組みと刃を交互に見つめ、ターゲットであるエルフェリーンに向き直ると涙を潤ませた。


「これですよ……これこそが未来を作る技術です! 我々帝国の様な野心ではなく、民を思い暮らせる技術こそが必要なのです! これなら魔石と魔鉄さえあれば量産も可能で少ない労力で農地を運営できます! ああ、やはりエルフェリーンさまの暗殺など間違っていました……二百五十年もの月日を無駄にしてきた歴史……これからは新たな時代の幕開けです!」


 感銘を受けた様子を窺わせる男にエルフェリーンは笑顔を向け、ルビーは更に詳しい説明を口にし、見守っていたアイリーンはそれなりに緊張していたのだが涙する男の態度に何とも言えない表情を浮かべる。


「既存のバスターソードでも気を切れますが熱を持つと危険なのでノコギリ上の刃を取り付けて木を伐りやすくしました。他にも切り株を抜けやすくするためにフック状の部品や石を砕く杭なども装備可能です! どうですか! これが『草原の若葉』の発想と技術力です!」


 ドヤ顔を浮かべ自慢げに話すルビーに男はひとり拍手し、エルフェリーンもうんうんと何度も腕組みをしながら頷く。


「本当に素晴らしいとしか言えませんな。すでに量産体制に入っている魔道鎧は全てこの仕様に変更すれば農地改革が起きます! 帝国の農地は比較的少ない方ですが、隣のドロシー共和国やカルサス王国ならこの魔道鎧を高額で買い取ってくれましょう。これは新たな産業が産まれた瞬間です!」


 女神ベステルとの約束とは多少違うが魔道鎧を農地開発の道具にすり替えたエルフェリーン。もし問題があればクロのアイテムボックスや教会へ神託が降りるだろう。


「うふふ、あっという間に色々と作りましたねぇ」


 中庭で行われているエルフェリーンたちのデモンストレーションを家の中から見つめるメリリは、隣で同じく見つめるメルフェルンに話を振る。


「物作りが好きなお二人に掛かれば簡単なのかもしれませんが、あの畑を耕す刃はクロさまが魔力創造したらしいですよ」


 取り付け型の耕運機の刃はメルフェルンが言うようにクロが魔力創造で作り出し、それを溶接したものである。刃の回転には新たに魔石が使われゴーレムと独立した動力が使われ、異世界初の魔道式農機具の誕生である。

 着脱式であるこの刃を改良すれば地球産の耕運機も作る事が可能だろう。


「硬い地面でも簡単に掘り返せそうで便利ですねぇ。あれが普及すれば本当に困っている農家の方が喜びそうです。うふふ、それにいい香りもしてきましたね」


 メリリとメルフェルンが振り返るとキッチンでは夕食の準備を進めるクロとシャロンがおり香ばしさのある匂いが流れメリリの鼻腔をくすぐる。


「どうやらカレーのようですね。複雑でありながらも食欲をそそる香りは何とも言えません」


「あのカレールーを使えば私でもカレーを美味しく作る事ができましたからねぇ」


「具材を炒め煮て、カレールーを溶かすだけであれほどの料理になるのは本当に便利です。こちらの世界でも販売すべきかと思いますが……」


「ダンジョンの宝箱から出るとクロさまが言っておりましたよ。作り方もこちらの文字で記載され冒険者ギルドがどれほどの値段で売り出すかはわかりませんが、貴族や王族が買い占めそうですね……」


 貴族が権力を使いものを買い占めるのはよくある事で、その力が最も発揮されるのが冒険者ギルドへの圧力である。上級ポーションや高位の魔石などはその対象とされ強制的に冒険者ギルドが買い取る形になっている。魔石などはそれでも構わないだろうが上級ポーションなどはそれを求めて探索する冒険者もおり、手に入れた時は申告せずに隠れて持ち帰るのが殆どである。


「確かに高価な値段が付きそうですね」


「宝箱からどれほど出るかわかりませんが、オークションに掛けられれば一攫千金も夢ではありませんね……」


 流れて来るカレーの香りを感じながら話し合う二人。そんな二人の視線の先で料理するシャロンはクロに教わりながらカレーに添えるカツの準備をしていた。


「前から思っていましたが、このカツという料理は画期的な作り方ですね。肉や魚をパンの粉でコーティングして油で揚げることで、サクサクとした食感と中の肉の旨味が閉じ込められて美味しいですよね」


「カレー用だから用意しないが酸味のある味付けのソースでもサッパリ食べられて美味しいからな~ポン酢に大根おろしとかもたまにはいいよな~」


 ご機嫌に話しながら料理するクロは小麦粉と玉子を付ける係をし、その後にはシャロンがパン粉を付けバットに置き協力作業で下準備を進める。


「酸味のあるポン酢は僕も好きです。酸味のある料理といえばお寿司やちらし寿司も美味しかったですね」


「シャロンは酸味に対して強いよな。ルビーは酸味系が苦手なイメージがあるし、メルフェルンさんもあまり得意そうじゃなかったな」


「メルフェルンは酸っぱい果実に当たった時は面白い顔をしますよ」


 クスクスと笑いながら話すシャロン。話題に上がったメルフェルンは頬を染めながらも自分の話題を話すシャロンに少しだけ口角を上げる。


「私の話題も出ると嬉しいのですが……」


 話の話題に出たメルフェルンを羨ましそうな瞳を向けるメリリ。


「メリリさんぐらい何でもパクパク食べて貰えると自分は嬉しいですけどね」


「……………………」


 念願の話題になったメリリだがクロの言葉に固まり、横にいるメルフェルンは肩を震わせる。


「じゃあ、上げていくか」


「はい、楽しみです!」


 パン粉を付け終わった二人はカツを上げる作業へと入り夕食用のカツカレーを仕上げて行く。次第に外も暗くなり始め光の魔法で明かりを取りながらも寒空の下で作業するエルフェリーンたちにいい加減入るように声を掛けるのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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