女神ベステルからの手紙と魔道鎧
予想外の奉納を済ませたクロは遅く起きてきたエルフェリーンとルビーに朝食を用意し捕虜の現状を伝えた。
「うんうん、無駄に命を取らないのは大切な事だね~僕も帝国を潰した時は巨大な火球を城の上に一時間待機させてから落としたからね~どろりと融けた城はクロが作るチーズハンバーグみたいだったぜ~融けた後は結界を張って入れないようにしたからね~お宝は今でも眠っているぜ~」
自慢げに話すエルフェリーンの言葉に顔を引き攣らせるクロとルビー。アイリーンはテンションを上げ喜び、シャロンとメルフェルンは炬燵に入りながら驚きの表情で固まっている。
「うふふ、あの融けた岩はお城だったのですねぇ」
メリリは解けた城を見た事があるのか微笑みながらお茶を入れ皆に配り、食後の一杯を口にするルビーとエルフェリーン。
「そ、そういえば魔道鎧は面白いです! ゴーレムの魔石を使い体を構成し、透明な魔石が体を動かすための補助になっていましたね。どうやってその魔石を作ったのか解りませんが魔鉄の重さをカバーしてますよ! それに――――」
ドンドン早口になるルビーの説明は十五分ほど続き、うんざりとしながらも話を聞き終えた。
「それでですね! あの捕虜さんたちと話をしたいです! もっと洗練されたボディーにして見た目を良くして軽量化したいです!」
ルビーの言葉に苦笑いが加速する一同。但し、エルフェリーンだけは同じ意見なようで目を輝かせながらうんうんと何度も頷く。
「えっと、それは止めた方が……」
「何を言っているのですか! 新たな技術は更新されて更なる技術へと進化するのですよ! 私はあの魔道鎧を軽量化して、何なら腕を増やして持たせる武器の種類を増やしたり、腕を長くして安全な位置から攻撃ができたりとバリエーションを増やすべきです!」
「そうだぜ~僕は空を飛べるようにしたいぜ~そうすれば素早く移動ができ空から火の玉で狙撃すれば強力な兵器になるぜ~」
「はいはい! 私は背中にバーニアを付けて宇宙を駆けまわりたいです! 他にもホバー機能を付けてバズーカを持たせたり、私の新たな能力が開花して反応速度が異常に早くなったり、糸を使ったビットと呼ばれる遠距離兵器を操ったりと夢が広がりますね!」
ルビーとエルフェリーンに触発されたのかテンションを上げ早口で捲し立てるアイリーン。元ネタを知っているクロだけは理解できたが大半は首を傾げながら話を聞き、アイリーンが口を使って意思表示をする姿にポカンと口を開けるメリリとメルフェルン。
「うふふ、好きな話は普通に喋れるのですね」
「普通というか、かなり早口でしたが……」
そう指摘され顔を赤くしたアイリーンは素早く天井に糸を飛ばすと上へと姿を消す。
「もう普通に喋れるし、恥ずかしがらなくてもいいのにな。さて、師匠とルビーの話をまとめると、」
「クロクロ! その前にアイリーンが言っていた事が気になるよ! バーニアとかバズーカとか新たな能力が開花するとか! 詳しく教えてくれよ!」
隣に座っていた事もありクロの手を両手で掴みキラキラとさせた瞳を向けるエルフェリーン。ルビーも同じような瞳を向けており、これは説明しないと話が進まなくなると思い雑誌を魔力創造する。
「これを見て下さい。これがアイリーンの言っていたものですね」
アニメ雑誌に移った宇宙戦士的なロボットを見せ簡単に説明するクロ。すると目を輝かせていた二人の目が更に輝き、ひとつひとつを説明させられる。
「あのですね。これは本当にある物ではなくてアニメと呼ばれる映像作品ですね。本の内容を動く絵にして見せる娯楽です」
「娯楽?」
「動く絵に?」
「どういう原理か気になるぜ~」
エルフェリーンやまわりの食いつきにメモ用紙を魔力創造し、簡単な棒人間が歩いてジャンプするパラパラ漫画を描くクロ。それを凝視しながら見つめる一同。
「へぇ~面白いね。これがアニメというものなのだね!」
「歩いている姿を変化させて動いて見えるようにするのね! 凄いわ!」
「うふふ、走った人がジャンプして着地に失敗しましたよ」
「これは面白いですね。やっぱり異世界の文化は斬新で進んでいますね!」
メモ用紙に書いたパラパラ漫画に喜ぶ一同。クロはそれよりもエルフェリーンに伝えるべき事がありアイテムボックスに送られてきた紙を取り出す。
「師匠、それよりも先ほど女神ベステルさまから手紙が届きまして……」
「ん? 手紙?」
「はい、女神の小部屋で変質したお酒やポーションをアイテムボックスに収納していたのですが、その説明に女神ベステルさまが介入して光るウイスキーを奉納しろと、それと少しのおつまみも奉納したのですが、その時に魔道鎧の情報を教えてくれると書かれていまして、その事だと……」
アイテムボックス内に送られてきた蠟で封をされた手紙を出すクロ。封蝋には神と印が押され、宛名には可愛い娘へと書かれていた。
「これは間違いないね……母さんから手紙を貰うがくるとは思わなかったよ~何々………………う~ん、はぁ……」
乱暴に開けた手紙に目を走らせるエルフェリーンは読み終えたのか大きくため息を吐く。
「何て書いてあったのかしら?」
「母さん的には魔道鎧を完全に破壊して欲しいと書いてあるよ。この魔道鎧が帝国で量産されると世界を巻き込んだ戦争が始まるらしい……」
エルフェリーンの言葉に目を見開く一同。
「世界を巻き込んだ戦争……」
「ああ、そのせいで多くの種族が絶滅すると書かれているよ。まあ、それはもっと先の事だけどね~それにその原因を作るのは僕とルビーにアイリーンだからね~さっきの改造計画が原因で魔道鎧が恐怖の兵器として開発されるらしいね……えへっ!」
屈託のない笑顔を浮かべるエルフェリーンに呆れた表情を浮かべる一同。ルビーは自身の発想で多くの人の命が奪われると知り顔を青くし震えだす。
「や、辞めましょう! 魔道鎧の開発は辞めましょうね!」
震えながら話すルビー。横に座っていたビスチェが肩を抱き「そうね」と言いながら震える体を抱き締める。
「じゃあ、魔道鎧の改造はなしという方向でいいですね」
「そうだね~可能性はあるけど改造しない方がいいかもね……残念だ……非常に残念だけど……」
恨めしそうな顔を向けて来るエルフェリーン。それとは対照的に震えるルビーを視界に入れ、クロは師匠であるエルフェリーンの頭を優しく撫で口を開く。
「ほら、師匠はいい子なんですから諦めて下さいね。どうせなら農業が楽になる魔道鎧とかに改造して下さい」
「おや、それはそれで楽しそうだぜ~稲刈りが楽になるゴーレムとか、畑を多が焼かせるゴーレムとかもきっと作れるぜ~」
クロの提案にやる気を出すエルフェリーン。ルビーも顔を上げ「それなら私も参加したいです!」と声を上げる。
「うふふ、農作業もいいですが、メイドをしてくれるゴーレムがいてもいいと思いますよ」
「それなら紅茶を入れるゴーレムや、お掃除を手伝ってくれるゴーレムがいると便利です!」
メリリやメルフェルンも色々と思いついているようで意見を出し合い、魔道鎧の新たな改造計画が進行されるのだった。
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