第一王子と聖騎士たち
「失礼する! ここにエルフェリーンさま方が来ていると聞いたが、居られるだろうか!」
お茶会会場へ現れたのは恰幅の良い成人男性であり、目鼻立ちが芋羊羹を食べ目を瞑る王さまと瓜二つであり王さまが少し太ればこの顔になるのかなと思うクロ。
「エルフェリーンさま! 先日は申し訳ありませんでした! 私は自分が情けなく……これからは迷惑をかけた民や国民の為にこの力を、剣技を使い守って見せると誓います」
入ってきた男はエルフェリーンの前で腰を折り頭を下げ叫ぶ。それはまるで謝罪というよりは宣誓するかのようであった。
「ああ、ランダル王子だね。その気持ちは大切にするといいよ。迷惑をかけた事を悔やむのはもちろんだけど、これからも君の人生は続くからね。誰かを守り歩むのは大変だけど遣り甲斐のある事だ。一生懸命精進するといいよ」
優しい笑みを浮かべ頭を下げ続ける第二王子ランダルを見つめるエルフェリーンに、王さまは目から涙を流し、王妃たちもハンカチを片手に涙を拭う。
「ランダルお兄さま、頭を上げて下さい。これは芋羊羹というお菓子です! これを食べて頑張って下さい!」
「えっ、ああ、ハミルか。ずっと不憫な生活をさせて申し訳なかった。私がもっとまわりを見て行動していれば……」
「いえ、そんな事は良いのです! 今は元気になりましたし、クロさまと出会えた事を今では喜ばしく思っておりますわ」
いい笑顔を向けるハミル王女に少し困った顔を浮かべるランダル第一王子。クロも何だか申し訳なく思いながら席に座り紅茶を口にする。
「感動のタイミングだったのに、ハミルがぶち壊したわよ」
「ギギギ」
「キューキュ」
ビスチェの言葉にそれを口に出すなと思うクロ。追いうちの様にアイリーンと白亜が肩を揺らし笑いを堪える。
「ランダルはそれを食べて見るといいよ。クロからの贈り物だと思ってありがたく食べる様にね」
エルフェリーンからそう言われた第一王子ランダルはクロへと視線を向け丁寧に頭を下げる。
「ハミルから色々と聞いている。ダリルやハミルの為に力を尽くしてくれたと……本当に感謝している。もし、何かしら力が欲しい時は頼ってほしい。私ひとりの力は小さいかもしれないが、少しでも役に立てるよう努力するつもりだ」
「えっと、本当に気にしないで下さい。それよりもハミル王女の呪いを解いたのはこの蜘蛛の魔物であるアイリーンですから、そちらにお礼をいって頂ければ」
「ギギギギギィー」
クレームでもつける様に声を上げたアイリーンは糸を使い宙に文字を浮き上がらせる。
≪それよりも早く芋羊羹を食べなさい≫
お礼を述べる前に文字を読み上げた第一王子は芋羊羹の封を開け口にする。
「甘い……何と甘い芋……以前の私の様はこの芋菓子の様に甘かったのだな……アイリーン殿、私への戒めとしてこの甘い芋菓子を、どうしたハミル?」
ハミル王女はランダルの前へと出て謝罪の言葉を中断させた。
「まったく違いますわ! この芋菓子はエルフェリーンさまのお気に入りで、元気を出して欲しくて私の分を差し上げたのです! ランダル兄さまは剣に生きると決めたのですから、甘い物を食べて早く元気になるといいのです!」
言い終わるとハミルはぷいと顔を背け頬を膨らませる。彼女がまだ食べた事のない芋羊羹を差し出し元気付けようとした事に王様や王妃さまは涙する。が、アイリーンだけは「ギギギ」と小さく声を漏らし口元に手を当て鼻息を荒くしていた。
「どうした?」
≪妹のツンデレ加減にハァハァです≫
聞かなきゃよかったと思うクロであった。
下水から出た聖騎士と聖女は四カ所に分かれ走り出し、予め決めてある緊急事態を想定した通りに行動に移す。
聖騎士団長であるサライは教会本部へと走り、現状の報告と真っ先に動ける聖騎士を集め緊急の鐘を鳴らす様に指示を出す。
副団長であるレーベスは冒険者ギルドに向かい事の説明と緊急事態である事を知らせ、腕に覚えるある冒険者に依頼を出し頼るのだが、丁度い合わせた冒険者ギルドマスターと鉢合わせをすると苦笑いを浮かべた。
下っ端であるレコールが駆け込んだのは警備を担当する詰所であり、地下水道の封鎖と緊急配備についてもらうため聖騎士の紋章を見せながら説明する。
事前にこういった緊急事態を想定はしているが実際に配備される事は滅多になく、最後に緊急事態が発動されたのはもう五十年も前にネズミの大量発生が起こったきりであり、警備隊の隊長が詰所の前で困っていると大ベテランの大工である初老の男が話を耳に入れ、当時の初動の遅れを語り出し多くの人が無くなり警備隊の隊長が悔やみ亡くなって行った事を伝えると重い腰が上がる。それと同時に王城へと報告する様に人を走らせ長い夜が始まるのだった。
最後に聖女は王城へと向かうが人通りが激しい中央通りを全力で走る訳も行かず、聖剣の力を使い赤く輝かせ緊急事態である事を伝えながら道を開けさせ避難するように叫びながら王城へと走る。途中、警備隊の者が現れ静止する様に求められるが危機迫る表情と聖剣の光に止める事ができず腰を抜かす者も現れ、新たな混乱を生むが王城の巨大な門を聖剣の力で飛び越えた所でエルフェリーンに捕縛された所で緊急事態であるという事を伝えることには成功する。
「エルフェリーンさまがいてよかった……地下には大量のレイスとリッチにデュラハンの姿があります! そのうちにリッチが先日処刑されたガルドバルド家の礼服を着ており何かしらの関係があると思われます。仲間を走らせ聖騎士と冒険者に警備隊を使い、水路の封鎖と避難に尽力しているはずです!」
捕縛されたまま話す聖女にエルフェリーンは何らかの手で操られている可能性がある事を思い浮かべるが、真剣な瞳と一切の抵抗なく話をする聖女の言葉を信じる事を決めたようで、話を聞きながら中庭から王家とクロたちのいるお茶会会場へゲートを繋ぐ。
「不審者は聖女だったよ~一応はバインドで捕まえてあるけど近衛は警戒してね」
手をひらひらさせ現れたエルフェリーンの姿と光りの魔術の鎖で縛られたままの聖女を見て、目と口を見開きあんぐりと開けたままの王家の者たち。近くにいたメイドが硬直する中、第二王子の前に壁になる様に瞬時に動くメイドと、王の前に動く王妃たちと近衛兵。
ちなみに逸早く動いたメイドは以前、呪われていたメイドである。
「一応って拙いだろ……」
「それよりも地下の水路でレイスやデュラハンを目撃したようだよ。聖女がその場で倒せないほどの力を持ったアンデットだとしたら危険だし、貴族がリッチになっている可能性を考えると何か危険な感じがするね」
「そうです! 逃げる際もまったく追って来なかったですし、何やらまだ準備している様子がありました! 私の聖剣の力を完璧に抑え込む力を持っていましたし、どうすれば!」
エルフェリーンの言葉に加勢するよう訴える必死な聖女に、ビスチェは胸を張り自信満々で口を開く。
「そんな奴は倒せばいいのよ! ねえ、クロ!」
クロは椅子に座ったままその発言を聞かなかった事にしたらしく、近くで我関せずという顔で葡萄を口にする白亜の頭を撫でながら、自身でも葡萄をひと粒口に入れる。
「うわ~懐かしい味……適度な渋みだけど甘みが強いな。うちの爺ちゃんが趣味で作ってたけど、」
「そんな奴は倒せばいいのよ! ねえ、クロ!」
言い直すビスチェは更に胸を張り、葡萄の渋みとは別に顔を歪ませるクロ。
「ビスチェはクロのシールドに期待しているんだよ」
「ああ! クロの兄貴が使う女神さまの肖像画が浮き出るシールドですね!」
「何っ!? それはいったい!」
「聖属性を付与したシールドね! 純魔族であろうが女神シールドの前じゃ敵じゃないわね! どうよ!」
第二王子がキラキラした瞳を向け、ビスチェが胸を張り、エルフェリーンが微笑み、まわりの者たちも期待した瞳を向ける中、アイリーンが宙に文字を描く。
≪俺に任せろ!≫
クロの頭の上に描かれた言葉を見た聖女までもが潤んだ瞳をクロへと向け、救世主の登場に心躍らせる。
≪ここから先は俺の戦いだ!≫
新たに現れる言葉に気が付いたクロは面白がっているアイリーンの頭を押さえ、こいつも純魔族と同じように女神シールドを使った空間に放り込んでやろうかと思うのであった。
二章の終わりまでを予約投稿しました。四十話までは毎日十一時に更新予定です。
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