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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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捕虜と女神の小部屋産アイテム



「お~い、アイリーン」


 朝食を食べ終えたクロは天井に向かって叫びアイリーンを呼び出す。


「悪いが手伝ってくれ」


≪看守役ご苦労様です!≫


「ほらほら、ふざけてないで何かあったら頼むからな」


 クロは女神の小部屋を使い入口に顔を入れ安全確認すると内部には四人の男がおり、すでに起きている隊長と思われる男と目が合い互いに会釈をし、他の男たちはまだ寝ているのか支給された毛布に体を包み寝息を立てている。


「食事をお持ちしましたのでテーブルに置きますね」


「襲撃犯なのにすまないな……」


 隊長と思われる頬がこけた男は立ち上がりクロへと近づこうとするがアイリーンに睨まれ足を止める。

 昨日、襲撃犯たちを熊撃退スプレー使い安全に魔道鎧から出すことができ、アイリーンとヴァルから浄化魔法と回復魔法を掛け回復させて捉えたのだ。その際にキャロットが頭を潰した魔道鎧の中の人がちょっとピンチで、急ぎエクスヒールを掛けたのだ。

 その囚われた男たちは女神の小部屋に押し込まれ一夜を明かしたのだ。ただ、以前から女神の小部屋に入れ実験していたアイテムたちが聖属性を帯びておりポーションや酒に長期保存できる食料などがダイニングの隅で薄っすらと白く輝いている。


「いえ、師匠からも生きて帰すといわれていますから。苦手な食べ物とかありますか?」


「苦手な食べ物はないが……」


 話しながらもテーブルに料理を広げていくクロ。焼きたてのパンに温かなスープと生野菜を使ったサラダにオムレツが人数分並べられ、それを見ていた捕虜の隊長はお腹を鳴らしながら口を開く。


「俺たちはエルフェリーンを暗殺に来たのに、この持て成しはどうなのだ?」


 その言葉に一瞬手を止めるもフォークとスプーンをテーブルに添えるクロ。


「そうかもしれませんが空腹はきついですし、どうせ食べるなら美味しいものの方がいいじゃないですか」


「確かにそうだが……」


「では、食べ終わった頃に回収にきますから暖かいうちに食べて下さいね」


「お、おう……助かる……助かるが……」


 何とも言えないような表情を浮かべ呟く男。


≪折角クロ先輩が作った料理ですからね~残したら罰ゲームですよ~≫


 文字を浮かべるアイリーンは真剣そうな顔で笑いを堪え、その浮いている文字を見た男は小さく言葉を漏らす。


「残したら罰ゲームとか軍に入った頃を思い出すな……丈夫な体を作るために無理やり食わされたっけか……はぁ……おいっ! お前ら起きろっ! 有り難い朝食の時間だぞっ!」


 その声に反応して瞬時に立ち上がり一瞬で状況を判断する兵士たち。ただ、ひとりの中年男性の男だけまだ夢の中なのか起きる気配がなく、もぞもぞと動きを見せるが隣の立ち上がった兵士に足で突かれ眠い目を擦り状況を把握したのか顔を青ざめる。


「あいつは軍人だが技術者でな。ちゃんと起こして食わせるよ」


 頭をボリボリと掻く隊長だと思われる男にアイリーンが浄化魔法を掛けると一瞬身構えるが頭皮の痒みがないと解ると頭を下げる。


「こりゃ浄化魔法だろう。助かるよ……無詠唱で浄化魔法を使うとかどれだけベテランな聖職者なんだか……」


 その言葉に気を良くしたのか残りの男達にも視認できないほどの細い糸を飛ばし浄化魔法を使い驚かれながらも、笑顔を浮かべ手を振りながら女神の小部屋を後にするクロとアイリーン。


「顔色も良さそうだったし大丈夫そうだな」


≪私的には少しぐらい怯えているかと思いましたが、そんな気配もありませんでしたね≫


 リビングに戻って来たクロとアイリーンの言葉を耳にしたシャロンは口を開く。


「それはわかりますよ。あの小部屋は心が不思議と落ち着きますよね。巨大なイナゴが迫って来る時に避難の為に入りましたがすぐに心が落ち着きました。まわりの壁が女神ベステルさまなのも関係あると思うのですが、薄暗い割に空気も澄んでいて不安がなくなって、」


「それにお酒やお菓子も美味しかったですね」


 一緒に避難したメルフェルンがお茶を入れ会話に参加し、クロとアイリーンに紅茶を渡す。


「あの部屋に入れていたアイテムもあっちで輝いているし、何らかの効果がある事は間違いないよな。下級ポーションが中級ポーションぐらいになったし、今回は中級ポーションが上級ポーションになったりウイルキーや日本酒が光っていたりするし……」


≪あれって飲んでも大丈夫ですか? おしっこまで光るとか嫌ですよ……≫


 浮かぶ文字に紅茶を吐き出しそうになるのを堪えるシャロンとメルフェルン。


「多分大丈夫だとお、」


「大丈夫なんかじゃないわよ!」


 クロの言葉にかぶせるように叫ぶビスチェは先ほどからリビングの一角で淡い光を放つそれを見つめており、クロへ向き直ると眉間に深い皺を作って声を荒げる。


「見なさい! その辺の野良精霊が寄ってきているわ! 師匠の契約精霊である地脈の大蛇も降りてきているし、私の契約精霊だって私から離れて酒瓶に頬をずりしているわ! どうしてくれるのよ!」


 話の中盤からはクロの襟首を掴みガクガクと揺らすビスチェ。クロも日によっては魔力が高まり精霊を見ることができるが、今日は見えるほどでもないために酒瓶に頬を擦り付けているビスチェの契約精霊が見られない事を残念に思いながら、そろそろ解放してくれと願う。


「あ、あの、ビスチェさん、そろそろ離して下さいませんか?」


「もうっ! 馬鹿、阿呆、クロ! 私の精霊が酒に溺れたらあんたのせいだからね!!」


 掴んでいた手を離し淡く光るリビングの一角へと足を走らせるビスチェ。それを目で追いながらアイテムボックスに収納するかと思い立ち上がるクロ。


「精霊たちも何らかの効果を感じ取っているのですね」


 メルフェルンの呟き、シャロンも立ち上がりクロと一緒にリビングで仄かに輝く一角へ足を運び、アイテムボックスへ収納するクロを手伝いながらどこに精霊がどこかにいるのだろうと目を凝らす。


「シャロンも目に魔力を集めれば見えるかもしれないわよ。白い大蛇が師匠の精霊で、二匹の可愛い鳥とモグラが私の契約精霊よ。どう、見えた?」


「いえ、ですがキラキラしたものが見えるだけで……」


「そのキラキラが精霊よ。魔力がもっと高まれば姿も見えるようになるわね。って! こらっ!! 精霊がクロに集まっているわよ! 何々………………キラキラを返せって? ダメよ! あれはクロのものなの! それに契約したいとか! ほらほら、自分たちの巣にでも帰りなさい!」


 アイテムを回収し終えたクロのまわりを精霊たちが飛び交っているのかシャロンの瞳にはキラキラと光の粒子に包まれるクロの姿が見え思わず呆けて見つめ、ビスチェはその中の多くの精霊たちがクロとの契約を望み声を掛けているのを気にして叫び、アイリーンは腐った文字を浮かべる。


≪おやおや~シャロンくんがクロ先輩を見つめて呆けていますよ~ここは肩に手を置いてグッと抱き締めるのがマナーですよ~≫


 浮かんでいる文字を手で掴み丸めるクロはアイテムボックスのゴミ箱に入れリストを確認する。すると先ほど入れていたアイテムの詳細が目に入り思わず苦笑いを浮かべる。


 女神ベステルの威光を宿した中級ポーション。上級ポーション並みの回復力がある。

 女神ベステルの威光を宿した日本酒。身が清められ飲めば精神攻撃や呪いに対しての効果があり、振りかければアンデットも浄化する。

 女神ベステルの威光を宿したウイスキー。これは奉納すべき一品。早く奉納しなさい。おつまみは唐揚げとマグロのユッケが食べたいわ。あと、日本酒も奉納すれば魔道鎧に関する情報も横流しするから早くしなさい。


「……………………………………」


 アイテムボックスからの情報というより女神ベステルの介入に驚き呆れるクロだったが、キッチンへと向かい奉納する料理の準備を始めるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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