魔道鎧3と闇ギルド狩り
「アレは恐ろしい武器だったのですね……」
アイリーンの浄化魔法とヴァルの回復魔法のお陰で咳と涙が治まったルビーがクロに恨めしそうな視線を送る。
「そりゃ、熊を撃退させるほどの威力があるからな。魔道鎧の隙間に流し込めば意識があるかどうかも解るし、意識があっても抵抗できなくなるからな」
「そうだとしても、もっと危険性を教えて下さい! ちょっと吸い込んだだけで咳が治まらないし、目が燃えたかと思いましたよ!」
キャロットとアイリーンが捕獲した魔道鎧にはまだ人が入っており安全確保の為にクロが熊撃退用のスプレーを持たせたのだ。その熊撃退スプレーの成分の殆どはカプサイシンであり、所謂唐辛子が霧状になって数メートル噴霧されるのである。それを魔道鎧の視界確保と吸気口の為の穴に噴霧したのだ。微量ではあるがルビーもそれを吸い込み涙と鼻水塗れになり痛みを訴え転げまわり、急ぎアイリーンとヴァルが浄化魔法と回復魔法を使い癒したのである。
「頼む、許してくれとは言わない! 一思いに殺してくれ!!!」
咳込みながらも訴えて叫ぶ声に完全に引いている一同。魔力創造したクロでさえ引いていた。しかし、エルフェリーンだけは目を輝かせ「このまま尋問しようか~」と前向きであり武装解除を申し出ると素直にそれに従うという言葉をせき込みながら発言し、魔道鎧の手足をアイリーンが完全に糸で固定し、クロもシールドを使って手足を完全に封じる。
頑丈な棘付きの蔓をナイフでカットすると魔道鎧の胸部が開き目を腫らし咳き込む男の姿が見え「すべて話すから殺してくれ!」と訴えるのであった。
暗闇の中に響く足音はゆっくりとしたものでありながらも確実に近づくそれに恐怖する男は足をもつれさせ地下道を転がる。
「ひぃぃぃぃぃ、た、助けてくれ! 俺は関係ない! 俺は関係ないんだ!」
命乞いだとわかる言葉を発する男は真っ暗な地下道を走り其処彼処に体をぶつけ体中に痣を作りながらも逃げ回り、息を切らせ仰向けになりながらも少しでも距離を取ろうと体を起こし腕と足を使い後退する。
「うむ……これでは我の方が悪役なのじゃ……」
暗闇に浮かぶ赤い瞳が左右に揺れながら男を見据える。
地下道には明かりがないが頭上には空気穴が開けられ、時折月明かりが差し込む場所があり揺らめく赤い瞳と白い肌が映りその度に悲鳴が響き渡る。
「俺は暗部ではない! 断じて違う! もう二十年も前に引退したっ!」
「ほぅ……なら、知っている事をすべて吐くのじゃな……」
赤い瞳が揺らめき手にしていたものが月明かりに照らされ銀の光を放つと男は更なる絶叫を上げた。
「ま、魔道鎧っ! カイザール帝国は魔道鎧を量産している! 魔道鎧は魔術士を殺すために地下で研究されていたが魔鉄が入手できなくて開発が停止していた。最近になって多くの魔鉄が輸入され、それを買い漁りプロジェクトが再開されたと耳にした! 俺が知っているのはこれぐらいだっ!」
「その魔道鎧とはどんなものなのじゃ?」
「し、知らんが、当時のままだとしたら魔鉄を全身に施し、風の魔石を使い放出される炎や石弓を使った遠距離攻撃。他にも取り換え可能な大型の武器を使い、ま、魔導士をこ、殺す兵器だ。帝国は元の領地を取り戻し二百年前の帝国へと復興させるのが目的で、魔道鎧を開発したと……どこまで開発されているか俺は知らない! 俺の知るスペックの魔道鎧が完成し量産されているとしたらカイザール帝国の復興も十分にありえる……」
すらすらと喋る男は闇ギルドに関与した男であった。
五歳で孤児になり教会で育ちながらも剣の腕が立ち冒険者へとなり色々なパーティーを経て闇ギルドに落ち着き頭角を現す。男は冒険者時代に慎重に行動する術を覚えたのも大きいだろう。
大成した時には複数ある闇ギルドのひとつを任されるほどに成長し、多くの依頼を遂行した。何度も死の淵から生還した事もあり闇ギルド内では『幸運の死神』と呼ばれ信頼も厚く部下や他の闇ギルドからも一目置かれる存在になり、五年前に引退すると小さな宿屋を始め冒険者や闇ギルドの者たちの憩いの場を経営していた。
「お、俺はただの宿屋の店主だ! 闇ギルドとはもう関係ない! 頼む……助けてくれ……」
両手を合わせ拝む仕草をする男に赤い瞳は困った表情を浮かべる。
「うむ……知っている事を話してもらったしのう………………」
迷っているのか、その言葉に恐怖していた感情が薄れ、もしかしたら助かるかもしれないう幸運が頭にチラつく男。
「じゃが、お前は今、自身が同じように口にした者たちをどうしたのじゃ?」
一瞬にして噴き出る汗と早まる鼓動。ほんの一瞬でも安堵した自分を殴りたい気持ちでいっぱいになる脳内をフル稼働させる男は口を開く。
「お、俺には妻も子もいて、子供が二日前に立ったんだ! これからは子供の為にも俺が今死ぬわけにはいかない……俺と同じような人生を歩ませたくはないんだよっ!!!」
その叫びは魂から発せられたかのような気さえする狂喜にも似た感情が乗っており、思わず一歩後退る赤目の女。
「珍しく感情に流されているな……妻を取り子供が生まれその成長に喜びを感じ、自身の境遇を不遇と思うか……はぁ……確かにそれは理解できる……が、私の妻は闇ギルドに殺されましてな……」
新たに現れた赤目の男はゆっくりと月の光が漏れる場所まで歩みを進め、男はその異常なまでに冷めた視線を受け背中に冷や汗流れるのを感じ高まっていたテンションも同じように冷めガクガクと震えだす。
「『豊穣のスプーン』か……ヴァンパイヤ族のラルフとロザリア……」
逃げる事だけに意識を向けていた事もあり二人の姿を初めて視認した月の光の下。男は自身を抱き締めながら震える体を奮い立たせる。が、次第に脱力感が訪れすべてを投げ出すほどの虚無感が訪れる。
「うむ……『豊穣のスプーン』で間違いないのじゃ」
「闇ギルド潰しの『豊穣のスプーン』かよ……通りでやばい予感だけしか感じられなかった訳だ……はぁ……俺は死ぬのか……」
諦めたように腕をだらりと下げ手を広げる。すべてに諦めがついたような表情を浮かべ震えさえもなくなった男は静かに目を閉じる。
「ふふ、それにしてもカイザール帝国が魔道鎧なる兵器を開発し、隣国に戦争を仕掛けると……」
「ああ、魔鉄が手に入ったのなら確実に完成させ量産するだろうな……そんなことはもうどうでもいいが、頼む! 妻と息子にはターベスト大国に避難するよう伝えてくれないか! サキュバニア帝国は魔鉄を大量に売るほど潤っているが信用ができない。オークの国も同じだし、元カイザール帝国領土はどの国も戦火になる! ターベスト王国なら帝国潰しがいるはずだ! きっと何とかしてくれるっ!!!」
自身の命さえも諦めた男が見せたのは家族への心配であった。
「断る!」
ラルフの言葉に目を見開いて歯を噛み締めた男は立ち上がり、腰に添えられた護身用のナイフに手を掛ける。
「私はこれでも忙しい。自分で伝えろ……」
その言葉だけを残し踵を返したラルフはニシシと笑うロザリアとその場を去り、男はその場に崩れ落ちる。
「生きてるのか……生かされているのか……」
男はしばらくその場から立てずにいたが、立ち上がると自身の宿屋へと足を急がせターベスト王国へと亡命する決意を固めるのであった。
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