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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十章 帝国の意地と闇ギルド
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魔道鎧


 

 二月も中旬になり、雪と強風が舞う外での雪合戦が恒例行事となると、誰もがテンションを上げて雪玉を投げ合い正月に溜めたカロリーを消費している。


「うふふ、こんなに楽しい冬は人生で初めてかもしれません」


「メリリに同意だわ! 雪は冷たくて家に籠るのが当たり前だと思ってたけど、投げ合うだけでこんなに面白いのね!」


「運動不足の解消にぴったりなのだ! 今度爺さまが来たら一緒に雪をぶつけてやるのだ!」


「キュウキュウ~」


 雪合戦の終わりにはクロが予め作っておいた温かいスープかお汁粉を振舞うのが恒例となっており、妖精たちも含め誰もが笑顔で雪合戦を楽しみ食事で体温を上げている。中でもお汁粉や豚汁が人気で妖精たちは料理の準備から手伝いを申し出てクロの料理を覚えつつある。


「前に作ったサツマイモのお汁粉も美味しかったけど、僕はシンプルなお汁粉が好きだぜ~」


「なかのお餅がウニィ~ンと伸びるのだ!」


「抹茶を使ったお汁粉も香りがよくて美味でしたね」


「僕も抹茶を入れたお汁粉でお餅じゃなくて白玉だっけ? あれが好きです!」


≪お汁粉がこんなにも多くの種類多あるとは知りませんでしたよ~クロ先輩! 次はチョコのお汁粉にチャレンジしましょうよ~≫


 好みの違いはあれど好評なようで、誰もがお汁粉を食べ冷えた体を温める。

本日はサツマイモを使ったお汁粉で、甘さを生かすべく蒸かしたサツマイモを潰し少量の水と水あめと塩を入れ煮込み裏ごしし、炭火で香ばしく焼いた餅を入れたものである。彩に皮ごと角切りにしたサツマイモが浮いている。


「クロ殿のお陰で新しい料理が振舞えております。どうお礼を言ってよいやら……」


 丁寧に頭を下げる妖精たちのリーダーにクロも頭を下げて口を開く。


「いえいえ、ご近所同士の助け合いですから、それに今度はチョコを使ったお汁粉を考えないとですし……ちょっと、無理ないか?」


≪そんなことないですよ~クロ先輩なら作れますって!≫


「キュウキュウ~」


「白亜さまもチョコを使ったお汁粉が食べたいといっているのだ! 私は肉を使ったお汁粉がいいのだ!」


「そっちの方が無理だろ……」


 アイリーンの浮かせた文字を見つめ白亜とキャロットからのリクエストに顔を引き攣らせるクロ。すると、ビスチェの体のまわりに光が集まり幻想的に輝き、視線を奪われたクロたちは次に口にする言葉に緊張が走る。


「こっちに何か向かってくるわ!」


 ビスチェが視線を向けた先を皆で見つめ、クロも目に魔力を集める。


「大きな帆馬車? 馬を八頭で引くほどの馬車って」


「車輪ではなくソリを使っているぜ~車輪をソリに乗せてここまで引いてきたようだね」


「真冬に馬車でここまで来るとは何かあったのでしょうか?」


 『草原の若葉』たちの工房は魔の森と呼ばれる危険地帯であり、普通の冒険者や商人では来ること自体が難しい。専属冒険者の『若葉の遣い』でも真冬に来ることはなく、春を待ち雪が解けてから依頼に来るほどである。

何らかの緊急事態かと頭を傾げるエルフェリーンやビスチェたち。


 結界の外にいる事もあり妖精族やシャロンに小雪を工房へ戻らせやって来た馬車と対峙するエルフェリーンとビスチェにクロ。アイリーンは気配を感じたのか糸を飛ばし宙に上がり、キャロットも白亜をシャロンに預けると翼を広げ空に登る。


 御者の男が馬車から降り深くかぶった厚いコートのフードから顔を出し、頭を下げて口を開く。


「錬金工房草原の若葉さまはここでしょうか?」


 白い息が漏れ声が伝わりエルフェリーンが天魔の杖を片手に頷き、ビスチェのまわりには精霊が集まっているのか光の点滅を繰り返す。


「うん、そうだけど君たちは? 遠くにも気配があるけど、それは君の仲間かな?」


 エルフェリーンの言葉に体をビクリと震わせた御者は数歩後ろへと下がる。


「我々はポーションを売って頂きたく……」


「真冬に態々ここまで来るほどのポーションが買いたいのかい? そうなると上級ポーションかな? エルクサーかな?」


「嘘が下手過ぎて笑えないわね。精霊たちも手に染み込んだ血の匂いを感じて不快になっているわよ」


 エルフェリーンとビスチェの言葉に顔を引き攣らせた男は帆馬車の二台へと走り高笑いを上げる。


「精々馬鹿にすればいい! これを見ても笑っていられるのならな!」


 メキメキと音を立てて歪む帆馬車。天井から見慣れる黒い物体が顔を出しアイアンゴーレムの様な無機質な黒い腕が現れ立ち上がり、驚いた馬たちが走り出し前後に崩壊する馬車。


「おおおお!? 何だい何だい! この興味を引くゴーレムモドキは!!!」


 エルフェリーンがテンションを上げ叫び、結界内に避難しているルビーも目を輝かせる。


「まるでロボットだな……」


 クロが口にしたように黒光りしたボディーは人型をしており立ち上がったそれは三メートルほど、右手にはダガーのような鋭い刃があり左手にはショットガンを思わせる大きな穴と弾倉があり魔石が埋め込まれている。


「ふははははははははは、これは魔道鎧と呼ばれる最新技術で作られた操作型ゴーレムだ! こいつの宣伝も兼ねてエルフェリーンを殺せば、これ以上ないデビューになるだろう?」


 魔道鎧には先ほどの御者が乗っているのか籠った声が木霊し、ニヤリと口角を上げるエルフェリーン。


「僕を殺すだって? それなら古龍ぐらい連れてこないと無理だと思うぜ~」


「恐らく魔鉄を多く使ったから調子に乗っているのよ」


「ああそうだ! このボディーは全て魔鉄で作り魔法に対する耐性を上げている。他にも左手からは風の魔石を使い炎や石を放出し攻撃できるからな! 見ろ、この黒光りした美しい姿を! こっちの刃は魔鉄にミスリルを混ぜ込み高熱を発するバスターソードだ! 斬られた直後にはステーキの出来上がりだぞ!」


 籠った声が響き魔道鎧の刃がゆっくりと熱を帯びオレンジ色に変わり顔を引き攣らせるクロ。


「理屈はクロのナイフと一緒ね。どの道、当たらなければ関係ないわね」


「うんうん、どんなに強力な攻撃も当たらなければ関係ないね~足元を見る限り早く動けるとは思えないぜ~」


 雪でぬかるんでいる足元を一歩前に出る魔道鎧。


「この程度は想定済みなんだよ!」


 一気に間合いを詰めに動き出す魔道鎧に、エルフェリーンが魔術を発動し数十本の光の矢が襲う。


「こんなちんけな矢! この装甲は貫けないね!」


 防御も取らずに突っ込んで来る魔道鎧に光の矢が当たるが矢が四散し、そのボディーに多少の凹みができるが止まる事はなく大きく一歩踏み出す。


「なあ、あれって転んだら起き上がれるのかな?」


 シールドを展開したクロの言葉に、ビスチェはずんぐりとした体形の魔道鎧を見つめニヤリと口角を上げる。


「風の精霊よ! アレの足元を崩しなさい! クロは転がったらシールドで捕獲よ!」


 ビスチェが手を翳すと光の粒子が走り魔道鎧の足元の雪と土を吹き飛ばし、クロが駆け出すと足元を崩された魔装鎧はバランスを崩しうつ伏せに倒れ、慌てて伸ばす両手。左手がバスターソードな事もあり柔らかな雪の地面に突き刺さり、ショットガンの様な右手もその重量で斜めに突き刺さりバランスを保つが、クロが後ろへと回りこみ上から五重のシールドで押さえつける。


「な、何をっ!?」


 予想外の行動だったのか驚きの声を上げ、エルフェリーンがその隙を逃すはずもなく天魔の杖をアイテムボックスに入れ、新たに魔剣を掲げる。


「まずは両手の武器を破壊しようか」


 魔剣が輝き走り出したエルフェリーンは瞬時に威厳のある大人モードへと変化し、輝き振り下ろされる魔剣は魔鉄のバスターソードとショットガンの様な腕を切り落とす。


「ば、馬鹿なっ!? 魔鉄が一瞬で切り落とされるなどぉぉぉぉぉぉ」


 驚きの声を上げながら支えを失った魔道鎧は完全にうつ伏せに倒れ、クロのシールが完全に抑える蹴る事に成功するのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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