雪合戦!?
メリリの顔から二重顎が消え始め、もっとも寒くなる季節へと移り変わると、外の雪は腰までの高さになり果樹園の雪やキラービーたちの巣がある木の雪下ろしをする『草原の若葉』たち。
≪キラービーさんたちも変わりなくて良かったですね~≫
成人男性の腕ほどもあるキラービーの働きバチと仲良く話すアイリーンを心配しながらクロは果樹園の木に降り積もった雪を箒で払う。シールドを足場にして作業し、次々に雪を下ろし、下でキャッキャする白亜とキャロットと小雪に妖精たち。クロが除雪した雪の塊を受け楽しんでいるのだ。
「あははははは、キャロットの上に雪が落ちた~」
「白亜も雪塗れ~」
「キュキュウ~」
「冷たくて気持ちがいいのだ!」
キャッキャするキャロットと白亜に妖精たちの姿に、寒い外での雪かきも遊びに換えてしまう子供たちに軽く癒され作業を続ける。
「アイリーンさまが開発して下さったこのダイエットスーツは温かく、ラミア族である私も雪かきに協力できるというものです! ふんふんっ!」
クロのシールドの上に乗り木の雪を払うメリリ、アイリーンは空中に糸を固定し雪かきをし、ビスチェは風の精霊にお願いして木の上の雪を散らして行く。
「これなら早く終わりだね」
「みんなで協力すると作業も早く終わるからな~下で遊んでいるキャロットはどうしてやろうか」
「キャロットは白亜ちゃんと小雪ちゃんの面倒を見てくれていると思えば仕事かも」
シャロンが微笑みながら下の様子を窺い、クロも「確かに……」と呟きながら雪の上を走り回る子供たちを見つめる。
≪小雪も雪の中を走り回れて嬉しそうですね~≫
「小雪は白いから雪と一体化して除雪車みたいになってるな……」
≪小雪の走った所が迷路みたいになっていますね~私もたまには雪遊びしたくなりますた! クロ先輩、雪合戦しませんか?≫
「雪合戦か~子供の時以来だな……」
「クロさん、雪合戦とはどんなものなのですか?」
子供たちを見ていたシャロンからの質問にクロが口を開く。
「雪合戦は雪玉を投げ合う遊びだな。雪で壁を作って障害物にして隠れたり、旗を取り合ったりして勝敗を決めるかな」
≪本格的なスポーツだと敵全員に雪玉を当てるか、敵軍の旗を取ったら勝利ですね~≫
「何だか楽しそうですね」
「うふふ、それならダイエットの効果もありそうですし、何よりも楽しそうですね」
柔らかな笑みを浮かべるメリリから白い吐息が漏れ、寒い中での遊びとダイエット効果を期待しているのだろう。
≪そうと決まれば私は皆さんに声を掛けてきますね~≫
「師匠とルビーはルームランナーを魔改造するとか言っていたから、参加するかどうかわからんぞ~」
宙に糸を投げ飛び去って行くアイリーンに後ろから叫ぶと、下で遊んでいたキャロットたちが上を向き何やらやるのかと期待した瞳を向ける。
「何をするのだ?」
「キュウキュウ~」
「クロ、クロ、遊ぼう!」
「クロの考えた遊びやろう! かくれんぼやろう!」
妖精たちがクロのまわりを飛び始め、以前妖精たちと一緒に遊んだかくれんぼを提案するが真冬の寒空の下でのかくれんぼは死に繋がりそうだなと思ったクロは、妖精たちが食いつきやすいように口角を上げて口を開く。
「ふっふっふ、これから楽しい雪合戦をするからな~参加するか?」
「する~する~」
「雪合戦~~~」
「楽しそう! 楽しそう!」
ルールも聞かずに盛り上がる妖精たちにチョロイと感じながらも、下から「参加するのだ!」と叫ぶキャロットと尻尾の振りが止まらない白亜。小雪もシールドの階段を上り体に付いた雪をブルブルと身を振って落とすと大きな声で鳴き参加を表明するのだった。
ビスチェチームとクロチームに分かれ妖精たちが空から審判になり開始される雪合戦。果樹園近くの広い場所に雪の壁を数枚作り奥にはビと書かれた旗あり、その反単位はクと書かれた旗が立てられ、それを取った方が勝者となる。
もちろん全員が被弾した場合も勝負が付くのだが、所々に作られた雪の壁に隠れて進めば旗を取る事も可能だろう。
ビスチェチームはシャロンとメルフェルンにキャロット。クロチームはアイリーンとメリリに白亜と小雪が参加し、エルフェリーンとルビーは不参加である。何でもルームランナーの改造が忙しくエンチャントの処理さえ終われ合流するとアイリーンに伝えてある。
「それでは両者、宜しいですね」
妖精のリーダーからの言葉に両チームが頷き、他の妖精たちはヴァルを含め審判として雪玉が当たった者の判定員として参加し、宙を舞いながらクロから魔力創造された笛を肩に掛けている。
「うふふ、最近はだらしない姿しかお見せしていませんでしたが、双月と呼ばれた私の活躍を見せるいい機会がやってきましたね」
メリリは体を低く構えスタートダッシュを決めようと思案する。対してメルフェルンは主であるシャロンに良い所を見せようと同じくスタートダッシュの構えで早々に相手の旗を取る算段をつけておりメリリと全く同じ構えで風に揺れる旗を見つめ……
「それでは雪合戦、開始です!」
妖精族のリーダーの掛け声と共に足に力を入れ壮大にすっころぶメリリ。対してメルフェルンは魔化しサキュバス特有の蝙蝠に似た羽で空に舞い上がり相手陣地内で転ぶメリリの姿を視界に入れ何らかの作戦なのかと一瞬目を奪われ、次の瞬間には冷たい雪玉が顔面を捉えハッとする。
「ピッ! メルフェルン、アウト!」
笛の音と共にアウト宣言されたメルフェルンは唖然としながらも肩を落として場外へとゆっくり降下しその場に蹲る。
「アイリーンのコントロールは凄いな……」
壁に隠れながらそれを見ていたクロが呟き、アイリーンは糸にぶら下げた雪玉を見せる。魔力で作った糸を使い正確にメルフェルンに当てたのだ。
「キュウキュウ!」
白亜が叫びクロへと危険を知らせ、粉砕する雪の壁。雪を集めて作った壁は一・五メートルほどで簡単に崩れない様頑丈に作ったものなのだが、それが粉砕され思わず額から冷たい汗が流れ落ちるクロ。
「壁を壊せば簡単に見つかるのだ!」
粉砕された雪の壁から拳を突き立てたキャロットが出現し、ドラゴニュート特有の高い戦闘能力を垣間見せる。
「げっ、馬鹿力が……」
牽制の為にクロが雪玉を投げアイリーンも糸を巻きつけた雪玉を飛ばす。が、キャロットの動体視力と反射神経の前には軽くかわされる。
「そんな遅いのは当たらないのだ!」
そう叫ぶキャロットの頭に放物線を描き飛来する雪玉。高い位置から落ちてきた雪玉を頭頂部で受けたキャロットが唖然とするなか妖精リーダーのアウトコールに「冷たいのだ……」と口にして場外へと肩をとして捌け、蹲るメルフェルンの横に座る。
「うふふ、油断をするから視野が狭くなるのです」
キャロットを撃墜したメリリは開始当初に泥だらけになりながらも上に高く上げた雪玉を命中させたのだ。
「くっ! もう二人もやられたわ……シャロン! 私が敵を引き付けるから旗をお願いね!」
「は、はい! 全力で守ります!」
ビスチェの叫びに応えるシャロンだったがクロは思う。どうしてそんなに大きな声で作戦をばらすのだろうと……
宣言通りにビスチェが前に進み壁に隠れ隙を窺うクロたち。
「ふふ、私には風の精霊がついているわ! 私に向かって来る雪玉が当たる事はないのよ!」
風に包まれているのか周囲の雪が舞うビスチェ。
「うわぁ……遊びにそこまでするかね……」
精霊術まで持ち出したビスチェにドン引きなクロ。
「僕も援護します!」
後方からシャロンの叫びがあったと思うと雪玉が遠距離から飛来し、目の前に落ち肝を冷やすクロ。
「こっちからも行くわよ!」
掛け声と共に雪玉を持って走り出すビスチェにメリリとクロから雪玉が飛来するが風に阻まれ明後日の方向へと飛び去り、ビスチェが雪玉を投げるとそれも明後日の方角へ……
「おいおい……ビスチェが投げた球も弾かれているぞ……」
呆れ気味に話すクロだったがビスチェは何か閃いたようで、そのまま真直ぐ走り抜ける。
「クロさま! ビスチェさまは旗狙いです!」
メリリの叫びにクロは慌ててシールドを展開し風を纏ったビスチェと対峙する。
「私の狙いに気が付いたようだけど、この風の障壁を攻略できるかしら?」
「俺には風の障壁は攻略できないかもしれないが仲間がいるからな」
ビスチェとクロが対峙するなかアイリーンとメリリは瞬時に走り出しシャロンが守る旗へと向かう。シャロンが雪玉を投げるなかを最低限の動きで避けながら進み二体一と有利な状況を作り出す。
「くっ! 早くそこを退きなさい!」
「行かせるかよ!」
シールドで前方と上を塞ぎビスチェを抑え込むクロ。シャロンは雪玉を持ちながらアイリーンとメリリにフェイントを入れながら抑え、鳴り響くホイッスル。
「キュウキュウ~~~~~~~」
白亜が叫びその手には倒れた旗があり審判をしていた妖精族のリーダーが口を開く。
「クロチームの勝利!」
「はっあぁぁぁぁぁぁ!? 何で白亜がっ!」
「最初に白亜は俺たちのチームだと決めただろうに……白亜! よくやった!」
ビスチェが大声で叫びクロが白亜を褒めると、旗を投げ捨て大空に飛び上がりクロの胸を目指し滑空する。
「キュウキュウ~」
白亜を抱き締め喜ぶクロチームにビスチェは拳を握り締め再戦を申し出るのだった。
ここで九章も区切りです。次はどんな話になるかは考えてはいるのですが候補が多く、できれば土日に十章を始めたいと思います。
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誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。