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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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メリリのダイエット



「く、クロさま、ほ、本当に、こ、これで痩せるのでしょうか?」


 ルームランナーを与えられたメリリは小一時間ほど走り自身の鈍った体と心に驚いていた。


 三十分も走っただけで息切れを起こし、一時間も走ると汗が止まらなくなり、変わらぬ風景と痛む脇腹に苦痛を覚える……これが本当に双月と呼ばれ恐れられた冒険者メリリの姿……今の私……

鏡をできるだけ見ないように手を洗っていましたが現実とは恐ろしいものですね……昔の私なら山の中を二時間は汗もかかず走り続けたものですが……体が重い……


「摂取するエネルギー量と運動量を考えないとですが、痩せると思いますよ」


 ルームランナーが設置されたリビングで走る姿に誰もが驚き、興味を持ったキャロットと白亜にビスチェが五分もしないうちに飽きるとメリリが本格的なジョギングを始め、分解したいというエルフェリーンとルビーにもう一台魔力創造をして提供すると鍛冶場に運び、今頃はバラバラになっている事だろう。


「水分補強もしながら走りましょうね」


「はい………………」


 クロからスポーツドリンクを受け取り口にしながらも足を止める事はなく、ゆっくりとだが確実に足を前に動かし続けるメリリ。


≪夕食はダイエットメニューですかね~低脂肪高タンパクなササミや胸肉を使ったサラダとかですか?≫


「そうだな……胸肉は低温調理で柔らかく食べられるようにして、野菜多めのスープにコンニャクを使ったライスとかもあったな」


≪そうだ! クロ先輩は丈夫なビニールとウールかダウンコートを出せますか?≫


 何やら思いついたアイリーンがいい笑顔を浮かべクロへと尋ね、魔力創造でダウンコートにレインコートやブルーシートなど、リクエストに応えられるだろう品を創造するとそれを持ち天井へと糸を飛ばすアイリーン。


≪私もダイエットグッツを開発してきますね~≫


 文字だけを残して消えるアイリーンに多少の不安を感じつつも汗だくになりながらも走り続けるメイドを応援するクロ。隣ではビスチェがムッとした表情を浮かべているがシャロンも応援しており何か言いたげな表所を時折するが口を出さずに見守っている。


「クロさま、これで効果的に体重を落とするとができるのですか?」


 ダイエットに興味があるのか質問してくるメルフェルンにクロが口を開く。


「体重の落とし方は色々あると思うのですが一番は水泳ですね。ただ、水泳をするほど広い場所はありませんし真冬で寒いですから室内で運動ができるルームランナーを用意しました。痩せるのに大事なのは筋肉を付ける事と動き続ける事で、ジョギングのような動きでも二十分以上動き続ける事で効果が出始めますね。後は無理をしない範囲で楽しめる事が大切ですね」


 そう口にしたクロは魔力創造を使い体重計を創造すると床に置く。


「あの、それは?」


「これは体重計ですね。メリリさんの体重を計り減って行く数字を見ればダイエットのやる気も沸くかと思って……」


 スリッパのまま体重計に乗ったクロはメーターを確認する。


「七十二キロか……昔よりも筋肉が付いた分多くなったな……」


「筋肉が付くと重くなるのですか?」


「脂肪は筋肉よりも密度があり重いですね。キャロットとかは角や尻尾もあるから普通の人族よりも体重が多くなるかな?」


 ソファーで白亜とじゃれているキャロットへと視線を向けメリリへと視線を戻す。


「ハァハァハァハァ、私が乗っても、ハァハァ、構いませんか?」


「そうですね。乗って見て下さい」


 荒い息のままルームランナーを降りたメリリが体重計に足を乗せるとメーターがぐるりと回りカチンと音を立てて止まる。


「あの、クロさま? メーターが一周して止まったのですが……」


 クロが魔力創造した体重計は百十五キロまで計れるアナログなものでありそれ以上になるとメーターを示す針が一定の場所で止まる。メリリの体重が百十五キロ以上ある事が確定した瞬間である。

 ただ、メリリは身長も高く元から筋肉質なラミア族な事もあり百キロ越えは当たり前な数値である。


「こ、これは、私が太り過ぎだからでしょうか?」


フルフルと震えながら話すメリリにクロは口を開く。


「えっと、これはあくまでも人族用ですから、メルフェルンさんやシャロンも乗って見てくれるか?」


「お断りまします」


「えっと、じゃあ僕が乗るね」


 メルフェルンが食い気味に拒否し、シャロンが体重計に乗ると六十キロであった。


「わ、私の半分……」


 体重計の数値を覗き込んだメリリが愕然とその場にへたり込み、更に気まずくなった所でビスチェがドヤ顔をしながら体重計に乗り四十八キロという数字に針が止まる。


「どうよ!」


 腕を組み完璧なドヤ顔を浮かべるビスチェ。


「ビスチェは少し痩せ過ぎかもな……食も細いがエルフなら普通なのか?」


「痩せ過ぎ? 私は普通だと思うけど………………胸かっ!」


 へたり込むメリリと自身を比べて見るビスチェが叫びクロは素早く顔を背ける。メルフェルンが口を押えて肩を震わせ、シャロンが何とも言えない表情を浮かべる。


「胸が痩せすぎって事かしら?」


 眉間に深い皺を作り目を吊り上げたビスチェ。クロは話題を変えようとキャロットと白亜に向けて声を掛ける。


「白亜とキャロットも計ってみろよっ、おおおおおおおおう、いてて……」


 体重計から舞い上がりドロップキックがクロへと炸裂し床を転がるクロはキャロットたちが寛ぐソファーまで転がり、それを見て目を丸くするキャロットと白亜。


「凄いのだ! クロは転がるのが上手なのだ!」


「キュキュウ!」


「不本意だけどな……それよりもキャロットと白亜も体重計に乗ってみろよ」


「わかったのだ!」


「キュウキュウ!」


 キャロットと白亜が体重計へと向かい、ドロップキックの際に肩から素早く飛び去ったヴァルが舞い降りクロへ回復魔法を掛けるとキャロットから「一周したのだ!」と嬉しそうに叫ぶ声が聞こえ、希望を耳にしたメリリが顔を上げる。


「よかった……私だけじゃない……」


 薄っすらと涙しながらも心底安心した表情を浮かべるメリリ。次に乗った白亜が数字を見るが読み方が分からず鳴き声を上げ、クロは立ち上がり体重計へ向かい数字を読み上げる。


「六キロだな。白亜も最初に出会った時よりも大きくなったよな~」


「キュウキュウ~」


「もっともっと大きくなるといっているのだ! 私もいっぱい食べて大きくなるのだ!」


 白亜の通訳をするキャロットの言葉に、目を見開いて口をあんぐりと開け固まるメリリ。


 体重計を一周して止めたのに女子としての自覚がないのですか……


 メリリが驚愕していると天井から音もなく舞い降りたアイリーンはモコモコしたブルーの上下の服を手にメリリへと笑顔を向ける。


≪ダイエットスーツの完成です! これを切ればいっぱい汗が掛けますよ~≫


 三重構造で作られたダイエットスーツは防水性のブルーイートを羊毛で挟み縫い合わされており、少し運動しただけでも大量の汗をかくこと間違いなしだろう。


「アイリーンさま……ありがとうございます!」


≪いえいえ、メリリさんには………………特に何もされた事はありませんが、仲間ですから~≫


 沈黙を挟み素直に文字を浮かせるアイリーン。確かにと思う一同。


「では、早速着させて頂きますね~」


 メイド服の上から上下のダイエットスーツを着込むメリリ、その間にアイリーンが体重計に乗ると≪四十二キロですか≫と文字を浮かせる。


「わ、私の三分の一……」


 この日、何度も驚愕し走り続けたメリリは、リビングに設置されたルームランナーを春が来るまで使用し続けるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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