現行犯逮捕
サキュバニア帝国で継承の儀に参加したクロたちが帰宅し数日が過ぎ、シャロンはクロと一緒にどぶろくを製作していた。作り方自体は簡単などぶろくを二人で量産し、地下の貯蔵庫に運び寝かせている。
「思っていたよりも簡単に作れますね」
「使う米と寝かせる時間で味が多少変化するけど簡単に作れて美味いよな。飲みやすさもあるけど料理に合うのがいいよな~ん?」
発酵前の段階まで仕上げたどぶろくをアイテムボックスに入れ運び樽を並べていると、ある違和感に気が付くクロ。シャロンはクロの手が止まり何かあるのかと視線を向ける。
「色々と無くなっているな……」
「ど、泥棒ですか!?」
「泥棒は言い過ぎだけどここに置いてあったチーズと乾燥させたイカに小さいワイン小樽がひとつ……他にも保存食が減っているかな……ん? こっちの樽に入れたどぶろくもはん分ぐらい減っている……」
地下の貯蔵庫には多くの保存食と酒が保管されその管理をしているのはクロである。置き場にはわかりやすく酒や乾物などのプレートが置かれ見やすくしている事もあり、泥棒にも解りやすく取りやすい環境なのだろう。
「ど、どうします……」
心配そうに見つめて来るシャロンにクロは床や棚に何かしらの痕跡がないか辺りを調べ始める。すると、コツコツと音が響き視線を合わせるクロとシャロン。
「シャロン隠れるぞ」
小声でシャロンに話し掛け腕を引き二人は棚の影に身を隠し、足音が近づき何かを手に取り慌てて飛び出すクロ。
「キャッ!?」
小さな悲鳴が保管庫に響きクロの体当たりで拘束され、その手にはやわらかな感触があり慌てて手を離し若干頬を染め……
「メリリさんが犯人!?」
シャロンが叫びクロは拘束していたお腹の脂肪から手を離し、メリリが手にいていた物へと視線を向ける。
「メリリさん、その芋焼酎と干したイカを持って、どうする心算だったのですか?」
床に座り手にしていた芋焼酎の瓶と干したイカを手にしているメリリを問うクロ。メリリは半泣きになっており潤んだ瞳からは大粒の涙が零れ落ちそうになっている。
「いえ、これは、あの……嘘です……」
ビックリするような言い訳をするメリリ。どうせならエルフェリーンから取って来てと言われていた方がよかったと思うクロ。シャロンは言い訳がツボに入ったのか肩を震わせる。
「あの、とりあえず立ちましょうか」
クロが立ち上がり手を差し伸べると片手で芋焼酎と乾燥したイカを手で持ちクロの手を握り立ち上がる。
「ここだと冷えますから俺の部屋で話しましょうか」
「はい……」
弱々しい返事を受け罪人を連行し二階のクロの部屋へと移動する。その際にビスチェから視線を受けるが特に気にした様子もなく部屋へと辿り着くと、アイテムボックスから座布団を取り出して絨毯の上に乗せ二人を座らせると魔力創造で温かいお茶を創造し二人に渡す。
「えっと、温かいうちにどうぞ」
「はい……ありがとうございます……」
目を赤くするメリリにクロはどうしたものかと思案しているとシャロンが口を開く。
「あの、メリリさんはどうして地下の食糧庫へ? 本当に盗みに入ったのですか?」
ストレートに疑問を口にするシャロンを頼もしく思うクロ。メリリは伏せていた顔を上げて下げる。
「すみませんでした。本当に出来心なのです……前に皆さまが出掛けた時にルビーさまと炬燵で一緒にお酒を飲むのが楽しくて、皆さまが帰って来た今日なら炬燵の上にお酒を置けば流れで一緒に飲めると思い……本当に申し訳ありません……」
以前ユキノシタ採取に向かいその先でスノーウルフの大群を発見しオーガの村に泊まった時の事なのだろう。留守番組のルビーとメリリは多くの酒を二人で飲み干し普段食べない様な珍味やお菓子を肴にし仲を深めたのだ。その事が忘れられず今回の犯行を行ったのだろう。
「素直に話してくれましたから今回の事は水に流そうと思います。シャロンもそれでいいか?」
「うん、僕はそれで構いません」
「あり、ありがどぅございまずぅ」
ダムが決壊したかのように涙するメリリに後頭部を掻きながら叱るのは苦手だなと思うクロ。シャロンは涙するメリリを見つめ、ふと気になる事が視界に入る。
「あの、メリリさん」
「はい……」
「こんな時に言うのはあれですが、スカートのフォックが外れていますよ」
メリリの着ているメイド服はワンピースタイプではなく、上下が分かれたクラシカルタイプであり着やすいようにクロがジッパーを魔力創造しアイリーンが手作りした特注品である。そのフォックが止まらずジッパーだけが上がっている状態を口にするシャロン。
「いえ、あの、これは、その……嘘です……」
「ぶふっ!?」
地下でツボに入っていた事もあり吹き出すシャロン。
そして、クロは改めて気が付く。
最近のメリリの顎が二重になっている事を……
「あの、嘘ではなくて、いえ、きっと嘘なのですが、少しだけ、ほんの少しだけ成長したというか………………嘘でいいです……」
両手で顔を隠し言い訳を重ねる炬燵太りのラミア族。炬燵から出ずに生活し、立ち上がるのはトイレと炬燵に使う保温石の交換ぐらいだろう暮らしをするメリリが太るのは必然だろう。
正月太りという言葉がぴったりなメリリにクロはラミアという特性から寒い所が苦手で運動ができない生活に太るのは仕方がないと思いながらも、頭の中ではある物を思い浮かべ試しに魔力創造を使い創造する。
「おお、できたな……」
「あの、それはいったい……」
「初めて見るものですね。手すりが付いていますが……」
「ああ、これはルームランナーといって部屋の中でも走れるダイエットマシンだ。使い方は簡単で上に乗って走るだけだから自分のペースで温かな室内でも運動ができますね」
クロの言葉に口をあんぐりと開けて固まるメリリは思案する。
お気遣いに感謝するべきなのですが、これは私が太ったという事実を認めろというクロさまからの思いなのでは……いや、もしかしたら炬燵で動かない事を気にしてかもしれませんし、クロさまほどの紳士な方ならそういった気遣いとも………………ふぅ、一度落ち着いて考えた方がいいかもしれませんね。
クロさまが私の為に室内でも運動ができる魔道具を、魔力創造を使い作って下さった。うん、クロさまはお優しいです! 運動不足だから健康の為に室内で運動できる………………あれ? そういえば、先ほど地下の保管庫でお腹を掴まれ慌てて手を放していましたが胸と勘違いされた? まさか私の胸とお腹を間違えるなどありえないと思いますが、今思い返すと顔を赤らめていた様な気も……
「メリリさん、メリリさん、大丈夫ですか?」
クロが肩を揺らし一緒に揺れる大きな胸と二重顎。
「はっ!? 私としたことが色々と考えて固まっていました。申し訳ありません」
「いえいえ、それよりも良ければ使って下さい。危なくないように説明しますね」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げて礼を口にするメリリは深く考えるのを止めルームランナーの使い方を教わり、炬燵以外の自分の居場所を見つけるのであった。
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