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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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聖女アルメリアの帰国



「英雄様、いつの日でも構いませんので聖王国へと足を御運びください。本来であれば私が道中お守りするのが道理なのですが、この度の愛の女神フウリン様からのお言葉を報告する義務がありますので不本意ながら聖王国へと戻りたいと思います」


 深々と頭を下げる聖女アルメリアにクロは心の中でホッとしながら頭を下げる。


「はい、ヨシムナとも話しましたが、いつかの日か聖王国へと足を運び美味しい料理を食べたいと思います」


 その言葉に目を丸くする聖女アルメリアと眉間に手を押さえ天を仰ぐヨシムナ。ライナーは肩を震わせ、聖騎士たちもカタカタとフルプレートを揺らす。


「で、では、急ぎ報告に戻りますので失礼いたします」


 継承の儀と夜会を終えたクロは翌日の昼、挨拶に訪れた聖女アルメリアからの別れの言葉を受けていた。大方の予想通りにクロを聖王国へと招待したいという聖女アルメリアからの願いを断ると聖騎士たちから殺気を向けられたが、元皇帝のカリフェルからそれ以上の殺気が放たれ逆に震え上がる聖騎士たち。聖女アルメリアも冷朝を流し謝罪をし、ヨシムナやライナーからのフォローもあり和やかな空気に変わり別れと相成った。


 退出する聖女アルメリアたちを見送ったクロは豪華な貴賓室のソファーに腰を下ろし、うっすら涙を浮かべるアイリーンへと視線を向ける。別れのぎりぎりまでライナーに抱き着いていたアイリーンに対して急に仲良くなり不思議な顔をしていた聖女アルメリア。アイリーンの前々前世が勇者愛理だということは伏せる事になっており、昨日のパーティーで意気投合した事になっている。


「今頃はヨシムナとライナーさんが質問攻めにでもあってそうだな」


≪そうですね……ライナーさんは大雑把な性格ですが秘密を漏らすような人ではないので安心ですよ≫


「ヨシムナは………………大丈夫だといいな……」


 やや上を向きながらヨシムナの性格を思い出していたクロ。すると背中に衝撃を受け前方へと倒れそうになるが何とか踏み止まる。


「クロ! お別れできましたか?」


 背中から聞こえる声に第三皇女キョルシーだと推測し、膝を曲げ足が届く姿勢を取るとシャロンとメルフェルンが慌てて部屋へと入り声を上げる。


「キョル! お城の中は走っちゃダメし、クロさんにくっ付くのもダメだよ!」


「そうです! キョルシーさまは皇女なのですから淑女として行動しなくてはいけません!」


 その声を受けしゃがむクロの背中にギュッと捕まるキョルシーは、クロという盾で身を守る心算なのだろう。


「クロ! 逃げよう!」


 キョルシーの提案という名の命令を背中に受け立ち上がるクロ。元女帝カリフェルはその言葉に肩を震わせ、シャロンとメルフェルンも笑い声を上げる。


「キョルシーさま、ここはおとなしく捕まって下さいね」


「く、クロが裏切ったのです!?」


 おんぶしながら拘束されたキョルシーはメルフェルンに御用となり淑女教育へと連れ去られ、シャロンと二人で手を振りソファーに腰を下ろす。


「キョルシーは随分とクロさんに懐きましたね」


「そうか?」


「そうですよ……キョルシーは人見知りする子で普段なら僕かキュアーゼの後ろによく隠れています」


「前に会った事があるからじゃないか? キュアーゼさんにはまだまだ睨まれているが……」


「ふふふ、キュアーゼはシャロンを取られたと思っているからね~クロをライバル視しているのよ」


 紅茶を手に持ち微笑むカリフェルからの言葉に、ライバル視されるような事はしていないだろと思うクロ。しかし、向けて来る視線を思うとその可能性もあるのかと眉間に深い皺を作る。


「シャロンが女性嫌いなのと同じでキュアーゼさまが男性嫌いという可能背は?」


「ないわね」


「ないですよ。キュアーゼは前に聖騎士団の方に一目惚れしていましたし、その事で相談に乗った事もありますから……」


「そんな事もあったわね~まだキュアーゼがこんなに小さくてキョルシーと同じぐらいの年だったかしら、聖騎士の方に褒められてコロッと好きになったのよね~ふふふ」


 手を肩幅に広げて話すカリフェルにシャロンが頷きキュアーゼの初恋話を口にし、するとメイドの数名が肩を揺らし何らかの思い当たる節があるのだろう。


「僕から見たら凄いおじさんに見えましたが、好みは人それぞれですから」


≪素敵なおじさんに憧れるのは理解できますね~ちょっと危険な感じがして、人生経験が豊富で、ヒゲが生えていれば満点です!≫


 アイリーンの浮かせた文字に数名のメイドは思い当たる節があるのか、うんうんと頷きそれぞれに異性の好みの話へと発展してゆく。


「私はもっと筋肉が付いていた方が……」


「やはり大商人の息子で性格もよく頭も切れる方でないと」


「クロさまもいい線行っていると思います! あのケーキを生涯食べられると思うと候補としては十分では?」


 サキュバスのメイドたちが一斉に振り向き身を震わせるクロ。違った意味で恐怖を受けるなか、遅く起きてきたエルフェリーンが目を擦りながら部屋へと入りメイドたちは頭を下げる。


「クロ~頭痛いよ~」


「また二日酔いですか……ポーションはまだありますけど……」


≪エクスヒールです! これで元気ですね~≫


 回復魔法を受け体が輝き青かった顔色に血の気が差すエルフェリーンはアイリーンに抱き着き笑顔を向ける。


「一家にひとりアイリーンがいれば二日酔いも怖くないぜ~」


「回復魔法や状態回復ポーションを必要とする生活を送らないで下さいよ……」


「昨日は祝いの席だったし二日酔いは仕方ないよ~カリフェルだって酔い潰れるまで飲んだんだぜ~」


「あら、私はエルフェリーンさまよりもお酒が強く、朝からちゃんと起きて朝食を食べましたわ。昔からエルフェリーンさまは朝が弱く、というかお酒に溺れていましたもの」


 目を細めて口にするカリフェルに、ぐぬぬと歯を食いしばりながら悔しそうな表情を浮かべるエルフェリーン。


「確かに僕はお酒が弱いかもしれないけどアイリーンが味方してくれるぜ~僕の弟子は思いやりがあるいい奴が多いんだぜ~」


「ですが、飲み過ぎるのは体に悪いと思われます。主様の師であるエルフェリーン殿はもう少しお酒を控えた方が宜しいかと……」


 クロの肩に乗るヴァルからの軽い説教にぐうの音も出ないエルフェリーン。カリフェルは肩を揺らし、クロも笑いながらアイテムボックスからおしぼりを取り出すと涎の跡が残る顔を拭き始める。


「あうあう、クロ、クロ、もっと優しく、優しく拭いてくれよ~」


「痛くする心算はないですからじっとして下さい。目ヤニもありますから目を閉じて下さいね」


 慣れた手つきでエルフェリーンの顔を拭くクロに、カリフェルは更に笑い声を上げ「これじゃ弟子というよりも介護じゃない」と肩を揺らす。


「綺麗になりましたよ。もうすぐお昼ですが何か食べたいものはありますか?」


「僕は軽いものでいいかな~前に食べたお茶漬けとかまた食べたい!」


≪それなら私は鯛茶漬けがいいです! 白身の魚を漬けにしてお茶漬けにすると美味しいですよね!≫


「塩漬けの鮭を使ったお茶漬けも美味いけど、シャロンもそれでいいか?」


「はい、昨日は油っぽい料理が多かったのであっさりした料理がいいですね。漬物が食べたいです」


「なら、調理場を借りるか、外でお湯だけ沸かせれば作れるな。お茶漬けだけだとキャロットが文句をいいそうだから余っている肉料理も出せばいいとして……」


 ゆっくりと流れる時間をみんなで過ごすのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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