ライナーとヨシムナと
「んで、クロはどうするよ。聖王国には来ないんだろ?」
「ああ、聖王国に行く目的があるとしたらお前に会うためだからな。一緒に酒を飲もうと約束したが、今叶ったから行くメリットがないよな」
カリフェルたちとは少し離れた席に座りクロとヨシムナがよく冷えた缶ビールで乾杯し、その向かいにはアイリーンとライナーが同じように甘い酎ハイを飲みながら話をている。
それを心配そうに見つめるシャロンと笑顔でチョコを口にするキョルシー。エルフェリーンやビスチェにカリフェルはウイスキーと白ワインにブランデーに合うおつまみを口にしながらパーティー会場を見つめ新皇帝キャスリーンの振舞いにああだこうだと口にし、キャロットはメイドたちと一緒にケーキを食べながらマスコット的な白亜とヴァルにあ~んをして表情を蕩けさせ、小雪はメイドの膝に乗り大きな欠伸をして目を細めている。
「はい、クロ先輩! ビールなんかじゃ再会の喜びを味わえません! ヨティヌミャさんもこれを飲んで元気を出して下さいね!」
すでに出来上がっているルビーから差し入れられるウイスキーのストレートに顔を引き攣らせるクロ。ヨシムナもヨしか正解していない呼び名に戸惑うもグラス一杯に入れられたウイスキーを手に口にする。
「かぁ~~~~こりゃきつい、ドワーフ殺し並みに強い酒だな。でも、この塩漬けの肉と、あむまう、よく合う」
「生ハムは白ワインと合うというが、どうせなら俺が作ったどぶろくを飲んで欲しかったがな」
「クロが作った酒とか飲めるのか? 腐ってないだろうな?」
「神さまにも奉納した酒が腐るかよ。そのせいで教会関係者から使徒さまだの勘違いされて……はぁ……俺の平穏はどこへ行ったのかね~」
そう口にしながらアイテムボックスからどぶろくを入れた壺を取り出すと目を輝かせる酒飲みたち。追加でもう一壺増やして特に目を輝かせていたカリフェルのいるテーブルへと運び、ついでに塩辛や白菜の漬物にアジのなめろうを魔力創造し置き戻る。
「ちょっ!? クロ先輩! 私もなめろう欲しいです! どうせならお刺身と焼き鳥もあると嬉しいです!」
余程欲しかったのか声に出すアイリーンに、クロは魔力創造をしてリクエストに応えテーブルに広げると「これが故郷の料理です!」とライナーに説明して口にして表情を溶かす。
「生の魚を使った料理ですが安全ですので、この黒い醤油を付けて食べて見て下さい。飲み物もこちらのどぶろくの方が合うと思いますよ」
「確かに甘めのカクテルだと後味が少し合わないですね……私もどぶろくを頂きますね~」
「何というか、愛理が幸せそうで良かったよ。それに奇抜な料理や美味い酒が多いんだね……」
「故郷の料理なので奇抜なのかは解らないですね~島国だったので生で魚を食べる習慣があるのだと思いますけど、異世界的に見ると珍しいのかもしれないですね~」
「肉と魚は火を通せって言われているからな。どれどれ、あむあむ……うまっ!? 何これ美味いぞ! 魚の味とかはよくわからなかったが、この黒いのが美味い!」
マグロの刺身に醤油を付け口にするヨシムナの感想に、ライナーも同じようにマグロを口に入れ表情を緩めどぶろくで流し込むと目を見開く。
「こっちはスッキリしていて美味しいね。私はこっちのどぶ何とかの方が好きかも……それにヨシムナがいうように黒い液体が美味しいね……」
「醤油ですよ! クロ先輩にお願いすれば醤油の一つや二つ分けてくれますからね~」
「分けてもいいが最近だとダンジョンの宝箱に入っているはずだぞ。死者のダンジョンの宝箱からも出ると思うが……」
「ん? ああ、思い出した! 最近ダンジョンの宝箱に変な汁が入った瓶が出てきて噂になったな! 誰だか忘れたが冒険者が飲んで毒だと言い触らしていたが……それか?」
「飲んだのかよ……醤油は魚と一緒に似ても焼いても美味いし、そうだな……前に作ったステーキとかはバター醤油で作ったから……あったあった、ほら、この肉も食べて見てくれ」
アイテムボックスから以前料理したギガアリゲーターのステーキを取り出すと湯気が上がり目を見開く両名。それをナイフで切り分け楊枝を添える。
「熱いから注意しろよ」
「おいおい、アイテムボックスから出したのに湯気が上がるとか……クロは何でもありだな……」
「熱々のまま保存できるとか……愛理や勇者たちでも無理な事を……はぁ……まぁ、報告するのはヨシムナだし、あむあむ……醤油とバターに肉汁が合わさると本当に美味しいね。こりゃ馬鹿な冒険者に感謝してショウユを買い集めるべきね!」
「あっちち、あむあむ……買い集めるのは無理だろ。宝箱からショウユが出ても持ち帰る奴はいないからな……俺からショウユの有能性を報告すればいいが、クロから教わったと言ってもいいのか?」
クロの目を見て話すヨシムナに頷くクロ。アイリーンもお刺身やステーキを口にしてどぶろくを飲み頬を染める。
「ああ、広めてくれると嬉しいよ。俺の故郷じゃなくてはならない物だからな。料理の幅も広がるだろうし、美味い料理が食える店も増えるだろ」
「違いねえ。この肉とかパンに挟んで食べても美味いだろうからな!」
バター醤油のステーキを口にして笑い合うクロとヨシムナ。目の前のアイリーンがライナーに耳打ちし顔を赤く染め両手で顔を隠す姿に腐った臭いを感じたクロは眉間に深い皺を作り、それを察したアイリーンは笑みを浮かべながら話題を変える。
「小雪ちゃんの紹介もしないとですね~小雪ちゃんは幼いですがフェンリルですよ~おいで~」
アイリーンの声を耳にするとメイドの膝から飛び起きた小雪は一直線に向かい素早く胸に飛び込むとへっへとしながら尻尾を振り、顔を隠していたライナーも微笑みを浮かべる。
「フェンリルと聞いて驚いたが、これなら可愛いね」
ゆっくりと手を差し出して頭を撫でるライナーは優しい笑みを浮かべ、ヨシムナも昔犬を飼っていた話をしながら小雪を眺める。
「俺も昔犬を飼っていたがこんなに白く美しい毛皮は珍しいな。フェンリルとかいったか?」
「そうですよ~大人になるとこの部屋ぐらいに大きくなりますね~」
エルファーレの島での事を話しながら時が過ぎ、下のパーティー会場では多くの者が社交ダンスを興じておりその中心には本日の主役であるキャスリーンとエルグランドがゆっくりとしたダンスをしながら視線を集める。
「ふふ、あの子も大きくなって……」
「サキュバスとエルフならこの先も互いに長く生き上手くやっていけるよ~キラキラと眩しい世界だね~」
着飾った二人が踊る姿を見つめるカリフェルとエルフェリーン。キョルシーと白亜はいつの間にか寝息を立てソファーに横になり、ルビーも飲み過ぎたのかウトウトと前後にリズムを取る。ビスチェはシャロンと一緒に白ワインを飲みながらクロとヨシムナのどうでもいい会話を盗聴し、メルフェルンはメイドたちと一緒にケーキを食べ終えると余韻に浸りながらも何かしら起こった際には動けるように辺りに意識を向ける。
「ライナーさんはこのまま聖王国で聖騎士をします? もしよかったら……」
「ああ、聖王国は私が育った国で親も仲間もいるからな……愛理はエルフェリーンさまの元にいたいのだろ?」
「はい……」
「なら、今度は愛理が愛に来いよ。またクロの美味しい料理と美味い酒をご馳走してくれ。私も聖王国の美味い料理を紹介するからさ」
「はい、そうですよね! 遊びに行きます!」
二人で抱き締め合う姿を視界に入れたクロは、日本の美味い料理を思い浮かべながら次はどんな料理と酒を用意しようかと思案するのだった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。