聖騎士たちと王族たち
「ホーリーアロー!」
「聖なる剣よ! 今こそ、その力を解放せよ!」
王都の地下には無数の水路があり長い歴史の中で何度か悪用されてきた。そういった事がない様に教会が管理し巡回している。
暗くジメジメとした水路を進み足音を鳴らすのは三名の聖騎士と聖女である。
「思っていた以上にレイスの活動が活発化しています……」
戦闘を終えた聖女が呟き、赤く光り輝く聖剣を鞘に収める。
「これで十五体は浄化しましたが……」
「物理攻撃が通らない相手は切っている実感がないから嫌いです」
「怖いこと言わないで下さいよ……はぁ……」
聖女の名はレイチェル・セイラール。聖剣に認められた聖女であり、五本ある聖剣の主人である。
自身の身長よりも大きな盾を軽々と担ぐ薄毛の男は聖騎士団長であるサライ。左手には大盾、右手にはメイスを手に盾となり殴る頼れる男。
その後ろにはギラギラと輝く瞳と、それと合わせる様に輝く魔剣を握る女性。現剣聖の娘であるレーベスが不敵な笑みを浮かべる。
最後にランタンを持ち身を振るわせるやせ形の男。ランタンの光がその特徴的な前歯を照らし、魔剣よりも輝く白い歯が印象的な男はレコール。聖騎士の中でも下っ端なのだが霊感が強く、この度の調査に強制参加させられていた。
「やっぱりこの魔剣はいいね。レイスだろうが罪人だろうが差別なく切り伏せられるよ」
剥き身のまま肩に担いだ魔剣は日本刀の様な片刃で、柄には魔石が込められ青白く輝いている。
「何だか、その剣の方が悪霊感ありま、ひぃぃぃぃ、剣を振り上げないで下さいよ」
「くだらない冗談が言っている暇があったら、早くレイスを探しな! 私はこんな所を早く出たいんだよ!」
「確かに、ここに長いしたくありませんね」
「レコール、お前の並はずれた霊感に期待しているぞ」
「はぁ……持って生まれなきゃ良かったですよ……」
意識を集中しながら足を進めコツコツと響く足音と、下水特有の悪臭に顔を歪めながら進むと開けた場所へと辿り着く。
「何だいここは……」
「まるで教会……」
「祭ってあるのは……悪魔かよ……」
下水道の施設とは思えないほど開けた場所があり奥には教会の礼拝堂を思わせる様な造りで、逆さまになった十字架や蝋燭が設置されている。そして、広場のどの位置からも見える様に羊角に二本の大鎌が飾られ、いかにも邪教だといった雰囲気が漂っていた。
「がっ!? 何だこれ! 震えが、手の震えがっ! こりゃ逃げた方がいい。何か解らないが……ひぃぃぃぃぃ」
その場に腰から崩れ落ちるが彼も聖騎士の一員であり、振り絞った勇気を手にカンテラを掲げるレコール。
「嘘……」
小さく呟くと顔が歪み聖剣に手をかける聖女レイチェル。
「リッチは本当に金持ちだったのか。まるで貴族の装いじゃないか」
「あの赤と青の礼服はガルドバルド家の……粛清されたばかりの貴族がアンデット化したのかよ……」
聖騎士たちの前には礼服に身を包んだ骸骨が見え、瞳があったであろう場所が静かに赤く輝きを増す。
「相変わらず教会は嗅ぎつけるのが早いな……ああ、面倒だ……本当に面倒だ……私はただ王家に復讐がしたいだけなのに……はぁ……今の王家は腐っているとは思わないか?」
ゆっくりと歩を進めるリッチは両手を広げ対話を求める。
「アンデッドにそう言われちゃあなぁ……」
「寧ろ綺麗になったと思うけど?」
「そうですね。あなた達アンデッドが心配する様な事ではないです! 聖剣よ! 今こそ、その力を解放せよ!」
鞘から抜かれた聖剣は赤く輝き聖女は一気に距離を詰める。レーベスも地を滑る様に移動するが、目の前を黒い刃が通り過ぎ慌てて体を捻り反応し体勢を崩しながらも魔剣を構える。
「新手か!」
ゆらりと揺れるレイスと頭を手に持った全身鎧の騎士にサライは声を上げる。
「デュラハンだ! 呪いをかけてくるぞ!」
ガチャリと音をたて左手で握る剣を振り下ろし、それを受ける事なく避け床に音をたてて亀裂が入り顔を引き攣らせるレーベス
「あんな力で剣を合わせたら刃こぼれ所が折れちまうよ! くそっ!」
悪態をつきながらも魔剣は青白く輝きを放ちデュラハンと向き合う事に決めたのか一直線に走り出す。
「聖剣よ!」
赤い一閃が煌めくがリッチの前には黒い闇が現れ、聖剣の赤い光と火花を散らす。
「マインドシールド! ホーリーウェア!」
サライの声が響き精神体勢を上げる魔術と、聖属性の付与するアーマーが聖騎士と聖女へと付与されると体が薄らと輝きはじめる。
「光よ! 我が手に集いて一筋の槍となれ! ホーリージャベリン!」
連続で魔術を唱えたサライの力ある言葉に反応し魔方陣が展開され光の槍がリッチへと向かう。が、新たなリッチが姿を現すと聖女が後ろに飛び距離を取る。
「まさかリッチがもう一体!?」
「これは分が悪い! 一度引くぞ!」
「それが良さそうだね!」
レーベスが魔剣を横に薙ぐとデュラハンも後ろへと飛び去るが、胸の鎧には横薙ぎの傷が入り血液とは違う黒くドロドロとしたものが流れ、左手に持つ頭からは鋭い眼光がレーベスを捉える。
「くっ!? 呪われたか……」
「それよりも早く逃げるぞ!」
レコールが手にしていたカンテラを投げ、弧を描くそれはリッチの生み出した黒い矢に射ぬかれ炎を撒き散らす。
「逃げてくれるのは好都合! それよりも早く戦力を整えるぞ……」
リッチの言葉が地下に響き静かに頷くリッチとデュラハンに多くのレイスたち。
逃げ帰った聖女と聖騎士が教会に報告へ上がる頃には、空がオレンジ色に輝いていた。
一方、クロたちは王家から熱烈な歓迎を受けていた。
ロマンスグレーの王様に二人の美しい王妃やその兄妹と同じ席に付きお茶を飲んでいた。
自己紹介を済ませ第一王妃と第三王妃からお茶に誘われテンションを上げるハミル王女はクロにお菓子を求め、第二王子のダリルはクロの兄貴と慕う姿や、まだ五歳と幼い第一王妃の娘であるアリルは白亜とアイリーンに興味がある様でキラキラした瞳を向けている。
「お菓子は駄菓子よりも洋菓子の方が似合うかな?」
「洋菓子とは何かしら?」
「ハミルが自慢していたフワフワの雲かしら? それとも甘くて蕩ける白いケーキというものかしら?」
グイグイくる第一王妃と第三王妃にクロは後ろに下がりながらも、少しお高いフィナンシェを人数分魔力創造で作りだすとハミル王女の目が輝く。
「それは見た事がありません! 始めて見るお菓子です!」
「レンガの様な色ですわね」
「それにまわりを包むこの透明なものはいったい……」
「こうやって開けるのよ。それと中に入っている小さい物は気を付けなさい。水気を取る為の物で食べると死ぬわ!」
ビスチェがドヤ顔で開封の仕方とシリカゲルの危険性を教えると、手にしていたフィナンシェを落とす王妃たち。
「死ぬ事はないと思いますが、危険なのには変わらないので口にしないで下さいね。この透明な物はビニールといって物を入れてある袋で、これは自然に帰りずらいので回収しますね」
「美味しいですぅ~まわりが少しサックリして甘くてふわりです~美味しいですぅ~」
クロの説明を聞く事なく口にしたハミル王女に、母である第一王妃は眉間にしわを寄せるが、ダリル第二王子も口にして頬笑みを浮かべる。
「うむ、本当に美味いものだな。ハミルが自慢する菓子というのも頷けるというものだ」
「でしょ。クロは凄いんだよ。僕のお勧めは芋羊羹だけど、これも美味しいね」
「芋羊羹を王族に出すのは見た目的に、ちょっと躊躇われたので……」
クロからしたらあからさまな外国人相手に芋羊羹という和菓子が絵的に似合わないと思ったのである。
「あれはまったりと甘くて、お芋の風味が最高なのになぁ~」
「それは今度食べてみたいものだな。気が向いた時にでも出してくれるとありがたい」
そう国王に言われたクロは手に魔力を集中させ芋羊羹を魔力創造すると「やった!」と声を上げるエルフェリーン。素早く手に取り慣れた手つきで開封すると口に入れる。
「これこれ、この甘さに芋の風味が最高だよ!」
「では、わしも頂くぞ。あむあむ……」
目を閉じて芋羊羹に噛り付く王様を見てクロはこれでいいのだろうか? と疑問に思いながらもハミル王女やダリル第二王子やその母である王妃たちが笑顔で食べる姿に、呪いが蔓延っていたのが嘘の様に見え、胸を撫で下ろすのであった。
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