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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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思惑のある再会



「新皇帝キャスリーンさまの入場!」


 大広間に現れた新皇帝キャスリーンと横に並び手を取るエルフの姿に招待客の殆どは驚き声を上げる。婚約の噂はあったが婚約者として紹介されることはなく、普段であればこういった会にも顔を出さないでいたのだ。それが優しそうなエルフの青年に手を取られ頬を染めての入場に誰もが驚くのは仕方のない事だろう。


 その様子を立ち入り禁止の二階席から見つめるカリフェル。手にはブランデーのグラスがあり、一口飲めば氷の音が心地よく微笑みを浮かべたまま娘の晴れ姿を目にしていた。


「やっと私も引退できるわね……」


「カリフェルが皇帝を引退する日がくるとはね~僕は生涯現役を貫くのかと思ったぜ~」


 隣にはウイスキーを片手に微笑むエルフェリーンやビスチェの姿があり、本来なら会場に参加する予定であったシャロンやキョルシーの姿もあった。


「キャス姉さまがとても幸せそうです!」


「そうだね。皇帝陛下なるよりもエルグランドさまと一緒になる事の方が嬉しそうに見えるね」


 キョルシーとシャロンはケーキを口にしながらその光景を見つめ、ルビーはひとり緊張を解す為にウイスキーを口にクロから魔力創造されたスモークチーズとスモークサーモンを肴にする。


「ルビーもあんまり飲み過ぎるなよ~」


「いえ、飲まないとやってられません! ただの鍛冶士なのにこんなお偉い人ばっかりの式に参加とか無理ありますよ! 私は一般人ですよ! それなのに貴族さまの前に座って式典を眺めるとか……クロ先輩が手を握ってくれてなかったら魂が抜けていましたよ! ええ抜けましたね! あんな豪華なパーティーとか本当に無理! 無理ですから、ここはもう飲んで寝ます!」


 一時間前まで皇帝であったカリフェルや第一皇太子であるシャロンに第三皇女キョルシーを前にズバッと言い切るルビー。足元には既に二本ほど空けたウイスキーの瓶を見え相当酔っているのだろう。


≪クロ先輩! 見て下さい! あそこにライナーさんがっ! それに吉村さんでしたっけ? その人も見えますよ!≫


「吉村じゃなくてヨシムナだからな。もしかしたら聖女さまと一緒に聖王国から来たのかもしれないが……何で鎧を着てないんだ?」


≪あれは聖騎士団が普段使いする制服ですよね……聖騎士の鎧は基本フルフェイスですから顔を見せるために?≫


「サキュバニア帝国の式典に顔を見せる意味ってなんだ?」


≪さあ? ああっ! もしかしたら婚活かもしれませんよ!≫


「ヨシムナはいい意味でもイケメンじゃないぞ……」


≪ライナーさんは赤毛美人さんですから……ん? サキュバニア帝国って男性の数が少ないですよね……≫


「婚活ではないな……」


 二人で食事をするヨシムナとライナーの姿に頭を傾げているとカリフェルが後ろから声を掛ける。


「そんなのは決まっているじゃない。英雄さまに気付いてもらう為よ」


「英雄さまって……げっ、俺か……」


 英雄としての自覚がないクロは苦笑いを浮かべ戸惑いながらも、「それならヨシムナが聖騎士の鎧のフルフェイスを被らずに俺から話をしに向かうか……」と声を漏らす。


≪だとしたらライナーさんがいる意味が……もしかして私の事も……≫


「いや、それはないだろう。転生とかが分かるアイテムがあれば別だけど、前にオークの国で会っただろ。ヨシムナが気を使ってアイリーンの知人との再会に連れて来たのかもな……あいつは良い奴だし、今度は聖王国で会おうと約束したからな……」


≪ヨシムナさんがイケメンに見えてきました!≫


 イケメンというよりも山賊の方がしっくりくるヨシムナの容姿にクロは吹き出し、アイリーンは普段よりも細い糸を飛ばしライナー開いた皿に文字を浮かべる。


≪ライナーさん、お久しぶりです! こちらへどうぞ~≫


 次の肉を取ろうとした所で皿の文字に気が付いたライナーは辺りを見渡しある人物に気が付き小さく頷くとヨシムナに視線を飛ばし、その視線に気が付いたヨシムナは生姜焼きの様な料理を皿に乗せ親指を立て、自身の皿にも盛りフォークを手にして口に運ぶ。


「あんたは……美味しそうな料理だけど……はぁ……ちょっとこっちに来な」


 ライナーと共に場所を変える二人。聖女アルメリアや聖騎士たちも立食形式の料理に夢中で二人が離れた事に気が付かず、こっそりと奥まった席のあるエリアへと向かうのであった。








「おいおい、こりゃどういう事だよ……クロ……」


 ヨシムナはライナーに誘われるまま移動する。座って落ち着いて食べたいのかと思っていたがあれは前に会ったアイリーンだよな? それにありゃ皇太子さまじゃね? そんな風に思っていると関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアを開けて中を進み階段を上がる。


「ようっ!」


「ようっ! じゃねーよ! ようっ! じゃねーよ! 何だよここはっ! 元皇帝陛下に皇太子さまに皇女殿下さまだろ! 何でこんなに濃い面子が……ああ! 英雄さまがいるからか!」


 クロたちのいる二階へと案内されたヨシムナは聖騎士であっても一般人と変わらない程度の役職であり、こうしたパーティーの機会があってもお偉方と話すことはなく、今回の継承の儀後のパーティーは聖女アルメリアから直々に頼まれ参加している。そして、クロの説得という役目を受け、それならとライナーを連れて行けば心強いとうその報告をして恩師であるライナーとアイリーンと引き合わせようとしたのだ。


「こっちの思惑通りに事が運んだと喜ぶべきか、それとも……」


 クロの顔を見て愚痴を漏らすヨシムナだったが、ライナーを連れてきたアイリーンは互いに抱き締め合い再会を喜ぶ。


「愛理、また会えたね!」


「はい……やっぱりライナーの大きな胸は落ち着きますね……」


 ライナーは頭一つ分ほど背が高くアイリーンを抱き締め自然とその大きな胸に顔を埋める形になり冗談を言いながら抱き締め合う二人。


「あれを見れば乗って良かったと思うが……俺としてはもっと気軽に会いたいものだがな……」


 ジト目を向けるヨシムナにクロは両手を広げるが抱き合う気には慣れず大きくため息を吐き、それを見ていた第三皇女キョルシーはパッと笑顔を咲かせてクロの胸に飛び込む。


「キョルシー!?」


「ふふふ、幼いキョルシーも女の子ね~クロが気に入ったのかしら……」


「キョルシー様!? クロさまは英雄かもしれませんが男の方に抱き着いては!?」


 シャロンが驚き、カリフェルが微笑み、メルフェルンが注意し、メイドたちから注目を集め、ビスチェの目がキラリと輝き放たれるローキック。スパンと気持ちの良い音が響きクロはお尻を押さえながらゆっくりと床に蹲り、キョルシーは幼いながらも空気を察してクロから離れシャロンの後ろへとまわり隠れる。


「こりゃ、天罰だな……」


 腕を組み頭を何度も縦に振るヨシムナ。お尻を押さえ涙目になったクロはそんなヨシムナを睨むが、アイリーンから飛んできた腐った文字に怒る事もなく部屋の隅から飛んできたヴァルに回復魔法を掛けられ薄っすらと輝き、ゆるキャラに心配されるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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