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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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聖女アルメリアの思惑と皇室の控室



クロたちが皇室の控室へと向かった事で聖女アルメリアは後を追う事もできず、これから行われる新皇帝主催のパーティーに参加すべく足を進める。大聖堂とパーティー会場はひとつの長い廊下で繋がっており後ろにピタリと付き従う聖騎士たちを従えながら進み広いパーティー会場へと到着する。


「聖女アルメリアさま、お久しぶりにございます」


そう声を掛けてきたのは聖王国で幅を利かせている大商人の一人であり、サキュバニア帝国との取引もありこの場に呼ばれたのだろう。パーティー会場には大聖堂に入りきれなかった者たちも多くおり先ほどのあった奇跡についての噂話が飛び交い、体験した貴族や商人などが話を誇張しながら伝え多くの注目を集めている。


「ええ、お久しぶりです。オークの国での戦争も落ち着き物資搬入の協力、大変助かりました」


「これからも平穏な日々が続くと良いのですが……あの者たちが話す事は本当でしょうか? 死者のダンジョンを突破したクロが現れ愛の女神フウリンさまの像が輝き友人であると宣言される……俄かには信じられない奇跡……」


 眉間に深い皺を作りながら話す大商人に、聖女アルメリアは視界の隅に捉えた協力者を見つめ大きくため息を漏らす。


「やはり嘘なのですかな?」


 大きなため息に噂話は嘘であると勘違いする大商人だが、聖女アルメリアは首を横に振る。


「いえ、確かに愛の女神フウリン様の像が動き神託をお与えになりました。その証拠に像が取る形が変わり、一般的には両手を高く広げておりますが腕を前にして手でハートの形を作っておられます。ああいった姿を取る愛の女神フウリン様の像は他にないので、確かな事実として確認できるでしょう」


 別れ際に茶目っ気を出した愛の女神フウリンにクロが苦笑いし、アイリーンが肩を揺らしたのは仕方のない事だろう。


「おおおおお、それではクロと名乗る英雄は愛の女神フウリンさまに認められし英雄なのですね!」


 テンションを上げ大きな声で口にする大商人の言葉に他の商人や貴族も集まり話の花が大輪へと変わり、聖女アルメリアはどうしたものかと頭を悩ます。


 本来なら協力者が先にクロ殿と接触し交渉する予定でしたが、それが拒否されたとしても聖騎士の女を与え……はぁ……こうも上手くいかないとは……強引に動いてはそれこそ悪手になりかねない現状を考えると協力者だけでも引き合わせ印象を良くし次に繋げるべきですね……


 多くの商人や貴族がクロの事を英雄として話す姿に聖女アルメリアは聖王国から与え垂れた自分の使命を果たせないだろうと思案し、事態が悪くならない方へと導くべく動き出す。大商人たちとの会話を切り上げた聖女アルメリアは料理を口にしている協力者の元へと向かう。


「この鴨の串焼きは凄いぞ! 仲間たちにも食べさせてやりたかったな」


「柔らかな肉質にあふれ出る肉汁が堪らないね! ん? 聖女さま?」


 着慣れない聖騎士の制服を着たヨシムナという男と、もうひとりは赤毛を軽くまとめた聖騎士の制服を着るライナー。二人は召喚された勇者と面識があり、ヨシムナはクロと仲が良く、ライナーはアイリーンの転生前である愛理の師として聖騎士に所属している。聖騎士の鎧を着ていないのは聖女アルメリアの護衛ではなく、クロを自国に引き入れるため顔がわかるよう制服を着せ近づかせる方法を取ったのだ。


「聖女さま、この鴨肉は絶品ですよ!」


「おい、ヨシムナ! 空気を読め! どう考えても今は料理よりも……聖女様?」


 骨付きの鴨料理を勧めて来るヨシムナとそれを止めようと動くライナーの姿に、眉間に深い皺を作っていた聖女アルメリアは思わず吹き出す。


「いえ、あはははは、こんなに笑ったのはいつ振りでしょうか……私がこんなにも悩んでいたのが馬鹿らしく……いえ、あなた達二人はそのまま食事を続けなさい。ですが、例の件を忘れずね」


 笑いながら話す聖女アルメリアに顔をキョトンとさせるライナー。聖女アルメリアとの接点はあまりないが怒られると思っていたのに笑われ脳内が軽くフリーズし、ヨシムナは「お任せ下さい」と声に出し鴨肉に齧り付く。後ろの聖騎士たちからは何としても成功させろというオーラを向けられるが天性の空気の読めなさからか理解する事はなく、隣の魚を使った串焼きに手を出して齧り付き笑みを浮かべる。


 この二人はクロ殿と接点があり恨まれていない唯一の者たち……聖王国が行方不明のクロの探索を早々に切り上げた事実は変わらない……ふぅ……異世界の勇者たちに巻き込まれたクロ殿が、今や英雄として祭り上げられるとは何という皮肉でしょうか……


 当時の事を思い出しながら聖女アルメリアは料理を美味しそうに食べるヨシムナの手にした魚の串を自身でも手に取り口にする。パリパリと音を立てる皮とその先にある身はホロリと崩れ、適度な塩加減に魚の脂が旨味となって押し寄せる。


「確かに美味しいですね。あなた達も少しは食べておくといいでしょう」


 後ろで警備する聖騎士たちに言葉を添えると魚の串を上品に食べ続け、これから現れるだろう英雄を待つのであった。









 その英雄は皇族の控室に運ばれてくる料理を皆と共に口にしていた。


「この鴨料理は本当に美味いな! 隠し味にワインビネガーと醤油を使っている?」


「先日頂いた醤油を使い仕上げております。他にも味噌を使った料理やマヨを使った葉野菜のサラダもありますのでお口に合えば幸いです」


 クロたちがキュービラの国との貿易の際にお土産代わりに置いて行った調味料を使い仕上げた鴨肉のローストを口にし、それを調理した料理長は説明をするとドヤ顔を浮かべる。誰もが鴨肉のローストに齧り付きその味で表情を溶かし、クロから美味しいという単語を引き出したのだ。ドヤ顔を浮かべても誰も嫌味として取るものはいないだろう。


「クロ殿に気にいって頂けたのは自信が付きますね。クロ殿の料理はどれも素晴らしくケーキに至っては作り方を教わり再現してみましたがあの軽さとコクが今でも不可能です。見た目は近づけることができましたが、肝心の味が只々甘いだけという……」


「ケーキは難しいですからね……特にスポンジをふっくらと仕上げるのは難しいですね。コツとしては空気を逃がさないのと手早くですかね。レアチーズケーキを使ったクッキー生地なら失敗もなく、ちょっと待って下さいね」


 魔力創造でレアチーズケーキをホールで創造するクロに目を輝かせる女性たち。キャスリーンの夫であるエルフのエルグランデもクロが使う魔力創造を初めて目にし、両目を見開き出現した未知の料理に驚きの表情を浮かべる。


「アイテムボックスのスキルだけでも驚いたのに魔力で料理を作り出すとか、それに死者のダンジョンを単独突破する実力があるのも……あんたはいったい何なのよ……」


 呆れた口調で話す第二皇女キュアーゼ。以前、大量の魔鉄を運んだ際に魔力創造で作られたケーキを口にしておりその味や凄さも体験しているが、シャロンが家出する切欠きっかけを作った張本人であり難しい顔をする。が、そのケーキの味を知っている事もあり切り分けられたレアチーズケーキを我先に手にすると口に入れ表情を蕩けさせた。


「うんうん、美味しいぜ~僕はクロの料理が大好きだぜ~」


「エルフェリーンさまが気に入る料理を魔力で作り上げるとか……クロは本当に凄いよ!」


「ママもクロの事を気に入っていたわよ! クロの作り出す白ワインは絶品なんだから!」


「クロ、クロ、チョコを使ったケーキも食べたい! チョコのケーキ!」


 第三皇女キョルシーのリクエストを受けチョコをふんだんに使ったクリームケーキを魔力創造するクロ。


 皇族専用の控室が甘い香りに包まれるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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