マルメルの森のエルフ
「クロと一緒にいると退屈しないというエルフェリーンさまの言葉は間違いなかったわね………………」
元女帝カリフェルの言葉にエルフェリーンが笑い声を上げクロが苦笑いをする。他の者たちも同じ感想なのかうんうんと頷き、白亜に至ってはキャロットの膝の上で楽しそうな鳴き声を上げ尻尾を揺らす。
「えへへへ、クロは凄いだろ~愛の女神フウリンの石造に神気が宿りゴーレムのように動いだんだぜ~神が世界に干渉してまで聖女アルメリアへ声を届けたかったという証拠だぜ~」
愛の女神フウリンの石造の光が治まった大聖堂に響き渡るエルフェリーンの言葉を耳にした聖女アルメリアと聖騎士たちは祈るのを止めるとクロに向き直り頭を下げる。
「愛の女神フウリンさまのご友人であるクロさま、先ほどの無礼をお許し下さい」
聖女アルメリアからの謝罪に引きつらせた頬が痙攣するクロは「気にしていませんので頭を上げて下さい」と口にする。
が、愛の女神フウリンが態々地上へと自身の石造を依り代にして顕現しクロを庇い、況してや謝罪したのだ。その事実はこの場にいた聖王国の者たちやサキュバニア帝国の皇族や貴族、他にも招待された近隣の貴族などもその光景を目にしたのだ。
「本当にもう顔を上げて下さい。愛の女神フウリンさまに庇って頂きましたが、友人というよりも料理やお酒を集られているだけですから……」
クロの本心であった。
しかし、聖女アルメリアは顔を上げ薄っすらと涙する瞳をクロへと向ける。
「ありがとうございます……愛の女神フウリン様がご降臨され声を聴けた事こそが……事こそが……」
涙が溢れ嗚咽交じりに口にする感謝の言葉。聖女アルメリアは神託を受ける事があってもその姿を目にすることはなく、顕現した愛の女神フウリンの姿に感銘を受け感情が爆発中であり溢れる涙が抑えられず、それは聖騎士たちも同じなようでフルフェイスから漏れ聞こえる声はやや不気味で、もう帰って寝たい気持ちが爆発しそうなクロ。
『草原の若葉』たちからすれば神々との付き合いは先日もあり、クロからしたら恒例行事の様なものなのだが、サキュバニア帝国が信仰する愛の女神フウリンが顕現し声を聞かせクロを庇うという事実を突きつけられ誰もがクロへと視線を向けながら片膝を付いた姿勢で崇拝しておりますという態度を見せる。
「えっと、そろそろ解散しませんか?」
誰もが膝を付き静まり返った大聖堂に響くクロの声に、エルフェリーンとカリフェルの笑い声が木霊するのであった。
「はぁ………………少し神さまとの距離を開けた方がいいですかね……」
大きくため息を吐いたクロが本音を漏らしたのは大聖堂から大広間へと向かう長い廊下での事だった。
継承の儀が終わりこの後はお約束の大宴会があり既に婚約しているキャスリーン新皇帝のフィアンセもこの場に参加する予定である。他にも継承の儀に参加した者や大聖堂に入りきれなかった招待客なども加わり多くの人々が参加する事になっている。
「あははは、距離を開けるのは構わないけど、それこそ神託が降りると思うぜ~」
「女神ベステルさまとか女神シールドを発動するたびにお酒を要求しそうね!」
≪クロ先輩は神々にもモテて羨ましいですね~≫
「クロの料理が美味しいのが悪いのだ!」
「キュウキュウ!」
揶揄われながら長い廊下を進む『草原の若葉』たち。クロは大きなため息が止まらず足を進めると、一人のメイドが隣を歩くカリフェルへと近づき耳打ちをする。
「あら、うふふ、そりゃ大事になるわね」
歩きながら用事を伝えたメイドは素早く一礼するとカリフェルが口を開く。
「大広間へ行く前に少し寄り道をするわね。エルフェリーンさま方もご一緒して下さい」
微笑みを浮かべたカリフェルにエルフェリーンたちは頷き、メイドの案内で長い廊下から外れ進みサキュバスの兵士が並び警護する一室へと辿り着く。
「母さま、皆さま、お待ちしておりました」
ドアを開けた先には新皇帝とその家族たちが控えており「クロ~」と走り寄るキョルシー皇女がクロに抱き着きキラキラとした瞳を向ける。
「こら、キョル! 使徒様に馴れ馴れしくするでない!」
「使徒さま? クロですよ?」
キョルシーへ注意する新皇帝キャスリーンだったがカリフェルが手を払うような仕草をする注意する口を閉じ、キョルシーはクロに抱き着いたまま口を開く。
「クロのチョコが欲しいです!」
笑顔でチョコをリクエストするキョルシーにキャスリーンは眉間に手を当てて天を仰ぎ、クロはアイテムボックスから個包装されたチョコを取り出し手渡すと嬉しそうに開封して口にする。
≪こうやって神々も手中に収めたのですね~≫
「人聞きの悪い事をいうなよ……」
「でも事実ね! 神もそうだけどクロが美味しいものをポンポン出すからあんな事が起きるのよ!」
ビスチェからの指摘にぐうの音も出ないクロは眉間に深い皺を作る。
「それなら白ワインや甘味を出すのを控えた方が、」
「それは違うわ!」
≪そうですよ~クロ先輩の特技じゃないですか~≫
手の平を反す二人にジト目を送るが効果はないらしく、キョルシーがチョコを配り始めそれをひとつ受け取ると口に入れ表情を溶かすビスチェとアイリーン。他にも皇族やメイドたちにもチョコを配り終えたキョルシーは一仕事終えた顔になり、クロへとお礼を口にするとシャロンへ走り抱き着く。
「我々は見ていなかったのですが大聖堂で起きた事は事実なのですね?」
ソファーへと腰を下ろしたクロへと視線を向け口にするキャスリーン。その横には見慣れないエルフの青年がおりイケメンオーラを出しながらクロの言葉に耳を傾ける。
「えっと……はい……どう伝わったかは解りませんが愛の女神フウリンさまの像が輝き神託? を話されましたね……」
「そうか……クロ殿は使徒であり愛の女神フウリンさまのご友人だと……」
「これは凄い事だね! 神様が友人だとか僕は尊敬するよ!」
キャスリーンの横で笑顔を浮かべるエルフが興奮気味に口を開き、ビスチェは同じエルフの言葉に目を細める。
「私はペルチの森の長の娘ビスチェ! あんたはどこのエルフかしら?」
「おおお、ペチムの森のエルフ! 僕はエルグランデ! マルメルの森のエルフだよ! キュロットさまの子かな? エルフェリーンさまも御元気そうで、今日は素晴らしい日ですね!」
空気が読めないほどに元気なエルグランデはビスチェに自己紹介をしてエルフェリーンに頭を下げる。
「マルメルの森のエルフ……ああ、サキュバニア帝国の東の森に住むエルフだね!」
「はい! 我が森は自然豊かで精霊も多く、キャスリーンも凛々しいでしょ! 僕はキャスリーンと一緒になれて幸せ者だよ!」
空気が読めないエルグランデの言葉に頬を染めるキャスリーンだったが咳払いをして話を戻す。
「おっほん、すまないがエルグランデは少し言葉を控えてくれ」
「ええ~僕はエルフェリーンさまと会うのは久しぶりだし、クロともお話をしたいよ~神さまを友人に持つような人がどんな人が知りたいよ~」
まったくもって空気の読めないエルグランデに困惑する一同だったが、キャスリーンに手を握られると頬を染めて口を閉ざす。
「これで少しだけ大人しくしてくれ……」
「うん……えへへ……」
どうやらバカップルらしいことだけは伝わるのであった。
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