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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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シャロンの実家へ



 翌日の昼、転移魔法を使いサキュバニア帝国の中庭へと転移した『草原の若葉』たちは巡回の兵士に驚かれるがシャロンの帰還を大いに喜ばれた。


「うふふ、お帰りなさい。シャロンと会わない日が続いたけど少し男らしく見えるわね」


 すぐに現れた女帝カリフェルがシャロンの帰還を祝い嬉しそうに声を掛け、シャロンはひと月振りに合う母の元気な姿に微笑み、メルフェルンは二人の再開に瞳を潤ませ、中庭を見つめる多くの兵士やメイドたちはその二人の再会よりも一人の男へと視線を向けていた。


「あれが英雄……」


「死者のダンジョンを単独突破した英雄……」


「クロさまが謎に包まれた英雄だったとは……」


「カリフェル閣下と親しくされているだけはあるってことね……」


 ダンジョンの単独突破という偉業は今や世界中を駆け巡っている。ダンジョン入り口脇の碑石に刻まれたクロという名を巡り多くの国や貴族たちがその詳細を求めたが情報がなく、クロを知る一部の冒険者と『草原の若葉』を知る者ぐらいであった。

 サキュバニア帝国でもクロの名はそれほど知られていないが、イナゴ騒動の時にアイテムボックスを使い大量の魔鉄を運び込んだ事を知る者や、第二皇女キュアーゼが「クロが英雄な訳がない!」と半狂乱に叫ぶところを目撃したメイドぐらいだろう。

 ただ、魔鉄を運び込んだ時に多くのメイドや兵士に生クリームを使った今までにないケーキを差し入れた事や、エルフェリーンの弟子という絶対的なネームバリューにダンジョン単独突破者と結びつける者もおり、多くの視線がクロへとロックオンされている。


「メルフェルンもよく帰って来たわね。年明けぐらいゆっくりとして両親に会って来るといいわ」


 女帝カリフェルからの労いの言葉に膝をついて頭を下げるメルフェルン。


「はっ! 顔だけは出したいと思います」


「ええ、そうして頂戴ね。新年は多くの貴族が帝都に顔を出しているから貴女の両親も来ているはずよ。それと……クロが死者のダンジョンを単独突破したのよね?」


 目を細めクロへと色気のある視線を向ける女帝カリフェル。その視線に背中にぞくぞくと悪寒が走り鳥肌が立つクロは顔を引き攣らせながらも頭を下げる。


「は、はい……ですが、それはもう五年も前の事で……今更その事を蒸し返されてもというのが本心です……」


「あら、今まで誰も成しえなかった偉業じゃない。胸を張ってその功績を受ければいいのに欲がないわね」


「自分はゴリゴリ係として師の元で錬金術士として生活ができればと思うので、その、まわりの歓声が……」


 いつの間にか中庭を見下ろすサキュバスたちの声は歓声に変わり、多くの兵士たちからは英雄というコールを上げている。


「弟子が英雄と呼ばれるのは嬉しいぜ~クロは優秀だし、他の弟子も優秀だからね~ダンジョンの単独突破は凄いけど、それ以上にいつも優しいクロが僕は大好きだよ~」


「クロは英雄という器じゃないわ! ゴリゴリ係だものね!」


 エルフェリーンに褒められビスチェから謎のフォローを入れられるクロはまわりからの英雄コールに苦笑いを浮かべたまま早く帰りたいという気持ちのなか袖を引かれ視線を下へと移す。すると袖を引く目を輝かせた幼女の姿が視界に入り膝を付いて頭を下げる。


「キョルシーさま、お久しぶりです」


「はい! クロさま。シャロン兄さまをありがとっ!」


 お礼をいった第四皇女キョルシーはシャロンへと抱き着き、抱き返すシャロン。シャロンの女性恐怖症も幼いキョルシーでは発症する事はなく、他にも実の母であるカリフェルには抱き着かれても発症はしない。どこかに線引きがあるのかもしれないがそれはまだ検証中であり、ルビーやアイリーンと手を繋ぐことができるようになったが、メリリやビスチェと手を繋ぐことが未だにできていないのが現状である。


「キョルも少し大きくなったかな?」


「はい! お兄さまも大きくなりました!」


 仲の良い兄妹の抱擁に微笑むクロやエルフェリーン。中庭を見つめていたサキュバスのメイドや兵士たちもその姿にほっこりしたのか英雄コールも次第に小さくなり、今がチャンスとばかりに女帝カリフェルへと視線を送るクロ。


「ええ、そうね。ここじゃアレだし中に案内するわね。うふふ、英雄から居心地が悪いと思われてはサキュバニア帝国の恥になるわね」


 口に手を当てて笑いを誤魔化す女帝カリフェル。察してくれたクロは頭を下げ城へと続く道をメイドに案内され進み貴賓室へと到着する。到着までも多くのメイドから興味がありますという視線を受けその度に会釈していたクロは貴賓室のソファーに腰を下ろすと大きなため息を吐く。


「キュウ?」


「白亜さまはクロが心配なのだ! 私はお腹が空いたのだ!」


 キャロットに抱かれていた白亜がクロの膝の上に着地し顔を覗き込むと、クロは優しく頭を撫でながら自身が癒されるのを感じているとノックの音が響きカリフェルと同じような威厳を放つ第一皇女キャスリーンと、ツインテールに眉間に皺を寄せた第二皇女キュアーゼが姿を見せる。


「エルフェリーンさま方、お久しぶりです。ようこそサキュバニア帝国へ」


「ふんっ! クロが英雄だとは信じられないけど……シャロンはよく帰って来たわ!」


 丁寧な挨拶をするキャスリーンとは違い、キュアーゼはクロからシャロンへと視線を移すと微笑みを浮かべ走り出しメルフェルンが素早く盾になり抱き着かれると顔を赤くし硬直する。どうやら以前、メルフェルンが男へと変わった際の事を体が記憶しているのか同性というよりも異性として捉え顔を赤くし硬直する体。


「め、メルフェルンもよよよよ、よく帰って来たわ」


「はっ! キュアーゼさまは一度落ち着かれた方が宜しいかと……」


「そ、そうね……ちょっと落ち着くから、落ち着くから」


 抱擁から逃げるように距離を取ると大きく深呼吸するキュアーゼにクロは思う。今度はこっちが女性恐怖症になるのではと……


「まったく……客人の前での奇行は抑えろとあれほど……はぁ……それはそうとクロ殿、ダンジョンの単独突破おめでとう。貴殿の偉業を心より尊敬する」


 第一皇女キャスリーンからの惨事にクロは慌てて立ち上がり頭を下げる。


「あ、ありがとうございます。ですが、先ほどカリフェルさまにも言いましたがもう五年も前の事なのであまり実感がなく……本当に気にしないで頂けたらと……」


 頭を下げながら発言するクロの言葉に目を丸くする第一皇女キャスリーンと息を整えていた第二皇女キュアーゼ。他にも紅茶を入れていたメイドたちも目を丸くして驚きの表情のまま固まりカップから溢れる紅茶。


「ふふふ、クロは本当にダンジョンの単独突破を誇らないのね。ダンジョン史において初の偉業なのにもったいないわ~」


 妖艶な笑みを浮かべた女帝カリフェルの言葉に顔を上げるクロは、そんなに変な事かなと思いながらも「目立つのは苦手で……」と口にする。


「ふわぁ~可愛い子犬さんです!」


 クロとカリフェルのやり取りの中、可愛い声でアイリーンが抱き締めていた小雪を見つめ声を上げる第四皇女キョルシー。いい意味で空気が読めないタイミングにクロは心の中で話題が移った事に感謝しながらアイテムボックスから個包装されたキョルシーの好きなチョコを取り出しテーブルに広げるのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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