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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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お正月



 大晦日だからといっても歌合戦や年越しを祝う事はなく過ぎて行く異世界生活では新年を迎えてもそれは変わらず、おせち料理やお雑煮に磯部餅が並ぶ炬燵には遅くまで飲んでいたエルフェリーンとルビー以外が揃い朝食を取っていた。


「うに~んと伸びるのだ!」


「キュウキュウ!」


「天界でも少し食べましたが甘い料理が多いですね」


「こちらの栗きんとんは見た目が鮮やかで黄金のようです」


「白いスープが美味しいわ! 味噌だけど味噌じゃないみたい! お餅が入ってて驚いたけど美味しいわ!」


「ううふ、炬燵という温かな装備を手に入れ、こんなに美味しい料理まで毎日食べられるのはクロさまのお陰です。ありがとうございます」


≪もう新年ですね~クロ先輩からお年玉を貰わないとですね~あっ、カレーが食べたいです≫


 おせち料理はそれなりに好評なようで物珍しさもあってか皆が口にし、京風の白みそで作られた雑煮や磯部餅を口にして炬燵で温まる一行。アイリーンだけはカレーが食べたいと漏らしているが食は進んでおり栗きんとんや伊達巻を口に入れ表情を溶かしている。


「くぅ~ん」


「小雪もいい子だよな~トイレも確りと覚えたし、走り回る事はあっても家具やソファーを噛んだりしないよな」


 クロが炬燵に入ると小雪が近づき見上げて小さく鳴き手を向けると膝の上に飛び乗り体を丸め、優しく体を撫でると大きな欠伸をしてゆっくりと尻尾を揺らす。


≪小雪は優秀ですからね~一種に寝ると温かいですよ~それに朝になるとペロペロと顔を舐めて起こしてくれる目覚まし機能まで付いていますからね~たまにはエルファーレ様の所に顔を出してパパとママにも元気な姿を見せないとですね~≫


「そうだな。エルファーレさんにはお世話になったし、海のダンジョンでは色々な料理に調味料が宝箱に入っているからな。その味も確かめたいよな」


「王都近くのダンジョンでも色々と出ているとハミル王女が言っていたわね。マヨはまだ発見されていないようだけどハミル王女が動きそうね」


 ハミル王女を思い出し苦笑いを浮かべるクロ。先日もスノーウルフをダリル王子に献上した時もハミル王女は元気いっぱいで食欲が増大している節があり、健康にダイエットも必要であると伝えた方がいいのかもしれないと真剣に悩んだほどである。


「マヨを求めてダンジョン攻略に向かう姿が浮かんだんだが……」


 クロの漏らした言葉にアイリーンとビスチェが吹き出し笑い声を上げシャロンとメルフェルンも肩を揺らす。白亜はあまりハミル王女の事を覚えていないのかお気に入りの磯部餅を口にし、キャロットも食欲優先でかまぼこと伊達巻を交互に食べ、メリリは会った事がなく顔を傾げながら会話の流れを読み微笑みを浮かべ、数の子を口にしツブツブ感が気に入ったのか細かく口を動かす。


≪あははははは、クロ先輩が変な事言うから黒豆が鼻から出てきたじゃないですか! でも、ハミル王女さまならやりかねないかも……ダリル王子さまが止めてくれるかな~≫


 自身が口にしようとしていた黒豆を取り皿に戻したクロは、このサイズが鼻から出てくるとか凄いなと思いながらお雑煮を口にし、遅く起きてきたルビーと目が合い小雪をメリリに渡すと立ち上がる。


「おはようございます……昨日は少し飲み過ぎました……」


 若干二日酔いなのか青い顔をするルビーにアイリーンから糸が飛びエクスヒールが糸を使い放たれ光に覆われ、光が治まるといつものルビーがアイリーンへとお礼を言い、クロはキッチンへと消えるとお餅を竈で焼き始める。


「ルビーもお餅食べるだろ?」


「はい! あの伸びるやつですよね!」


「今日は海苔で巻いた餅とお味噌汁に入れた餅よ!」


≪磯部餅とお雑煮ですね~おせちもありますから一緒に食べましょう≫


「神さまが求めたというおせちですね……綺麗な入れ物に料理が並んで美しさすらありますね……」


 漆塗りの重箱に入れられたおせちを見て目を輝かせるルビー。料理よりもお重のデザインや光沢のある漆塗りに興味があるのか、蓋を手に取りあらゆる角度から見つめる。


「入れ物に気を遣う料理はありますが、家庭料理でもここまで凝った容器に入れるのは珍しいですね」


≪重箱は福を重ねるという意味もあるんですよ~お婆ちゃんの家でもお正月は重箱に入れたおせちを買っていましたね~≫


 アイリーンが浮かせた文字に視線が集まりメルフェルンが口を開く。


「このように凝った料理と美しい入れ物だとおせちというのは高級品なのですね」


≪確かにお高いですよね。有名店のとかは何か月も前に予約をして数万円しますから銀貨数枚でしょうか≫


「一食に銀貨数枚……お高いというレベルじゃないですね……」


 おせちの蓋を手に取り見つめていたルビーがあんぐりと口を開けて驚きを露わにする。金銭感覚という意味では一番庶民なルビーからしたらおせちの値段は高価であり、シャロンやメルフェルンといった王族とその専属メイドではそれほど高価に感じないが、昆布巻きを口にしていたシャロンは目を閉じてその味を噛み締める。


「確かに高いが縁起物だし、一年に一度の正月料理だから高価でも買うんだろうな。ほら、ルビーこっちが磯部餅でお雑煮な。餅は喉に詰まる事があるからよく噛んで食べろよ」


「はい、ありがとうございます!」


 湯気を上げる磯部餅を「あちち」といいながら受け取り口にするルビー。するとキャロットが手を上げる。


「おかわりなのだ!」


 両手を上げキャロットがおかわりという次々と料理が運ばれて来る魔法の言葉を高らかに宣言すると、クロが「おう」と応えキッチンへ向かいお餅を焼き始め、その姿を見ながら笑みを浮かべる一同。


「うふふ、クロさまは本当に働き者ですね」


「メイドとして雇われているメリリも見習うべきだと思うけど……」


 ビスチェからの言葉に「春から頑張ります」と微笑むメリリ。彼女にとっては暖かな部屋の中でもそれなりに寒く、ラミアという種族的に雪が降る光景を見るだけでも悪寒が走り炬燵という温かな場所から動くのはトイレの時以外にあり得ないという考え方になっている。ここひと月ほど炬燵にりつかれた残念メイドへ成り果てていた。


「来年はもっと温かなメイド服を用意するように致します」


 正月だというのに来年から頑張る発言をするメリリに話を振ったビスチェはジト目を向けるが気にした様子はなく、おせちからミカンへとシフトチェンジしたメリリは皮を剥き口に入れ表情を溶かし、いつの間にか膝の上からいなくなっていた小雪に気が付き焦って炬燵を捲るが姿はなく辺りを見渡す。するとクロの膝の上で尻尾を振り犬用の骨ガムをガジガジと齧りながら尻尾を振っておりホッとするメリリ。


「ふぅ……小雪ちゃんはいつの間にか移動して炬燵に落ちたのかと心配しました……ですが、あんなにもクロさまに懐いていると思うと少しだけ悔しいですね」


≪悔しいのは私です! 寝る時は一緒でもすぐにクロ先輩の所へ走るんですよ。私が飼い主なのに~≫


「うふふ、私も小雪ちゃんを預かる事が多くて仲良くなれたと思っていましたが……やはり餌を与える者が上位者なのでしょう」


「キャン!」


 骨ガムに飽きたのかクロが食べていた角煮を見つめひと吠えすると、クロは紙皿を取り出すと角煮の比較的味が薄そうな中身を切り出し小雪へと与える。


≪完全に餌付けされていますね……≫


「うふふ、尻尾が吹き飛びそうですね」


 角煮を食べる小雪を見ながら正月というゆっくりとした時の流れを楽しむのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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