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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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料理の神と



 クリスマスという建前の飲み会でパカパカと酒を呷る神とエルフェリーン。ビスチェやシャロンは酒のペースを間違える事はなく頬を染めながらもクリスマス会を楽しみ、聖女や教皇も最初は緊張していたが叡智の女神ウィキールのお陰か楽しそうに会話をしながら酒を飲み料理を楽しむ。

 アリル王女にキャロットや白亜はケーキと料理を堪能するとお腹がいっぱいになり部屋の隅で仲良くお昼寝し、そこにテンションを上げ走り回っていた小雪も加わり寝息を立てる。


 クロはというと料理の女神ソルティーラに拉致され、クリスマス会場とは違う別室に案内されお正月料理を一緒に製作していた。


「えっと、黒豆は水に丸一日浸し……」


「では、鍋の中の時間を加速させましょう!」


 両手を合わせ微笑む料理の女神ソルティーラ。すると鍋の上に魔法陣が現れ発光し、その光が治まるとお玉で黒豆を確認する。乾燥していた黒豆は水気を帯び本当に丸一日水分を吸ったかのようで次の工程へと移る二人。

 ちなみにクロはおせち料理を作ることができなかったが、勤め先のコンビニで売っていた雑誌の中からおせち料理が乗っている雑誌を思い出しそれを参考にして料理している。


「次は下茹でですね。この時に重曹を入れると皮が破れにくくなるみたいですね。あと、鉄鍋で煮れば黒く美しい黒豆になるそうです」


「鍋は鋼鉄製なので問題ないですね。重曹はどれ程入れましょう」


 二人で料理を進め、更には煮込み時間なども強引に進め三十分ほどで完成する黒豆の蜜煮。プロでも二日以上掛かる工程を鍋の中の時間を進めるという強引な方法を使い三十分ほどで仕上げたのだ。


「少し破れたものもありますが殆どは綺麗に煮えましたね」


「甘すぎる気もしますが、これはこれで美味しいです。次は栗きんとんを作りましょう!」


「栗きんとんならアイリーンも好きですし、皆さん喜びそうですね」


「ふふ、久しぶりに誰かと料理するはとても楽しいです。天界では料理を作ってまで食す者は私ぐらいですから……今日は本当にありがとうございます」


 丁寧に頭を下げた料理の女神ソルティーラにクロは「いえいえ、料理は楽しいですよね。栗きんとんの材料は……」と口にしながら雑誌に視線を走らせ必要な栗やサツマイモを魔力創造する。


「栗きんとんは金運アップらしいですね。見た目も金色で重箱の中でも映えますね」


 何気ない話をしながら二人で料理を続け数品のおせち料理が完成し、ふと視界に入る部屋の隅にある複数の大きな樽。


「あの、随分と大きな樽がありますが、あれは?」


「ふふ、お気づきになりましたか!」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべる料理の女神ソルティーラは両手を合わせ嬉しそうに微笑み大きな樽へと足を進めて蓋を開けるとクロを手招きする。


「おお、味噌ですね! しかも白みそだ!」


「他にも赤みそや信州みそに八丁味噌も作りました。最近ではダンジョン神が色々と調味料や料理をダンジョンの宝として放出していますが、やっぱり自分で作って見たいじゃないですか」


 微笑みながら自身で作った各種味噌を少量小皿に取りクロへと差し出し、クロは「味見をするのならキュウリかな」と口にして魔力創造する。


「どれも美味しいですね。この信州みそや赤みそは専門店で売っているものと遜色ないですよ。これなら朴葉ほおば味噌やネギ味噌でも美味しく食べられますね」


「それはどのような料理なのですか?」


 キラキラした瞳を向けて来る料理の女神ソルティーラにクロは簡単な作り方を口頭で教えると「作りましょう!」と口にし、魔力創造で食材を用意する。


「ネギ味噌が簡単ですから、それから作りましょうか。ネギを細かく切って鰹節と味噌で和えれば完成です。少し寝かした方が美味しくいただけますね」


 二人でネギの細かく切り鰹節と和え味噌を入れ更に混ぜ合わせ完成するネギ味噌。


「ネギ味噌はシャキシャキとしたネギの食感と鰹の風味が強い味噌なので炊き立てのご飯の上に少量のせて食べてもいいですし、お湯で溶くだけでも簡単なお味噌汁ができますね。個人的には焼きおにぎりに塗るのが好きですよ。

 朴葉味噌は朴葉という殺菌作用がある大きな葉を乾燥させた物の上にキノコや肉を入れ味噌で焼いたものです。これも炊き立てのご飯の上にのせて食べると絶品ですね」


 魔力創造で朴葉を作り水で浸し水気を切ると、味噌に砂糖を加え朴葉に塗りマイタケと和牛の霜降りをみじん切りにし置きネギをたっぷりと乗せ、アイテムボックスから七輪を取り出して火を入れる。


「葉を器として使う事はありますが鍋として使うのは驚きです……良い香りがしてきましたね……」


 食い入るように七輪で焼けて行く朴葉を見つめる料理の女神ソルティーラ。


「こうやってゆっくりと炙ると味噌の香りが立ちますので軽く混ぜながら焼いていきマイタケと肉に火が入ったら完成です。好みで七味を掛けると美味しいですよ」


「確かに美味しそうだわ!」


「この香りは溜まらないね~」


「お味噌汁よりも香ばしい匂ね!」


 いつの間にかドアから顔だけ出して覗き込み鼻をスンスンと動かす女神ベステルとエルフェリーンにビスチェ。その後ろにも多くの神が居るようでざわざわと声が聞こえ、クロと料理の女神ソルティーラは顔を見合わせ笑い出す。


「これはもうご飯を炊いた方がいいですね」


「ネギ味噌と朴葉味噌を食べて頂きましょう!」


 クロが米を研ぎ料理の女神ソルティーラが竈に火を入れて米を炊き鍋の中の時間を加速させていると、女神ベステルが室内へと進入し焼けた朴葉味噌を軽く味見をして表情を崩し、エルフェリーンもそれに続きビスチェも口に入れ手にしていた白ワインを飲み干す。


「ほらほら、つまみ食いをしない! ご飯と一緒に持って行きますから宴会場で待っていて下さい」


「ベステルさま方もですよ。ネギ味噌は焼きおにぎりに致しますので楽しみに待っていて下さいね」


 二人の言葉に女神ベステルたちは笑顔で「頼むわね!」「待ってるぜ~」「お願いね!」と言葉を残し退出し、他の神々もその言葉に安心したのか場を離れ部屋には米の炊ける音とネギを刻む音だけになりネギ味噌と朴葉味噌を量産するクロと料理の女神ソルティーラ。

 途中、魔力切れを起こしそうになるが料理の女神ソルティーラが魔力を与え、お礼を言い魔力創造で食材を追加するクロ。


「米が炊きあがりましたね。片方はネギ味噌の焼きおにぎりで、もう片方は朴葉味噌を入れたおにぎりにしましょうか」


「では、私が朴葉味噌の方を担当しますね」


 二人で次々とおにぎりを作っているとほろ酔いのメルフェルンとシャロンにアイリーンが現れ作業を手伝い、完成するおにぎりと焼きおにぎり。それを持って会場へと向かい思い出すクリスマス。


≪クリスマスパーティーにおにぎりというのは場違いな感じがしますが……≫


 アイリーンの言葉とは裏腹に神々が待っていましたと立ち上がるとおにぎりに群がり、口にすると誰もが表情を溶かし満足気な顔に料理を作った三人とひと柱は嬉しそうな顔でその様子を見つめる。


「おにぎりなのだ!」


 焼きおにぎりの香りに目を覚ましたキャロットの叫びに隣で寝ていたアリル王女や白亜も目を覚ますと、皆で食べているおにぎりを視界に入れ立ち上がりクロの元へと足を走らせ抱き着く。


「アレは、アレは何ですか?」


「キュウキュウ~」


「おにぎりなのだ!」


 クリスマスパーティーの〆の焼きおにぎりをみんなで口にするのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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