冒険者ギルドへ
冒険者ギルドは二階建てだが敷地が広く取られて主に二カ所に分かれている。ひとつは事務処理を行ったり依頼内容が掲示されていたり装備や薬品などが購入できるブースのある一般エリア。もうひとつは討伐した魔物の部位や解体作業を行う解体場と呼ばれる施設である。
クロたちは一般エリアへと足を踏み入れるとドアが西部劇の様な軋む音を立てて開き、テーブルで作戦や会議を行う冒険者たちからの視線が一斉に集まる。
「おい、あれ……」
「暴風のビスチェ……」
「エルフェリーンさまは相変わらず可憐だ……」
「それより足元に蜘蛛……それにクロ……」
「背中のアレは蜥蜴か?」
「蜥蜴にしては顔立ちが凛々しいぞ?」
「子供のドラゴンを拉致してきたのか?」
「エルフェリーンさまに限って、それはないだろ……」
そんな声が耳に入る中を歩き受付へと到着する。
「これはこれは、草原の若葉の皆さまですね。お久しぶりです。本日はどの様な御用でしょうか?」
営業スマイルを浮かべる受付嬢にクロが口を開く。
「この蜘蛛とこいつの獣魔登録をしたいのですが」
「畏まりました……噛みませんよね?」
カウンターに自らよじ登ったアイリーンとリュックから顔を出し興味深げに辺りを見渡す白亜に恐怖を覚えた受付嬢は言いながら数歩下がる。
「噛まないと思いますよ?」
「あの、疑問文でいうのはやめて下さい……本当に怖いですからね……」
ピンと張っていたうさ耳を倒した受付嬢にエルフェリーンが口を開く。
「大丈夫だよ。もし噛まれてもすぐに手当てするからね」
笑顔で話すエルフェリーンに受付嬢が顔色を青く変えたのは仕方のない事だろう。
二匹の獣魔登録は簡単な質問と命令を聞きその通りに行動するかをチェックするという簡単なもので、クロがアイリーンに声をかける。
「アイリーンはその場で三回まわって可愛いポーズ!」
「ギギギ」
アイリーンはお尻から出した糸で文字を宙に浮かべる。
≪可愛いポーズは恥ずかしいので却下!≫
「それじゃ獣魔登録ができないだろ……そうだな……」
「あの、クロさま。文字で意思疎通ができるのならそれで十分ですが……それにしても文字を使う蜘蛛とは驚きですね……いえ、蜘蛛の時点で驚きですが……」
受付嬢の後ろには獣魔登録という事で呼ばれた冒険者ギルド職員が付き、メガネをクイクイしながらアイリーンを見つめる。
≪メガネが素敵な職員さんありがとう。私は悪い蜘蛛じゃないよ≫
中に描かれた文字を見た職員が頬笑み「合格です!」と声に出すと、アイリーンはお尻をフリフリしながら喜びを現わす。
「次は白亜だな」
そう言いながらリュックをテーブルに置き白亜を抱き上げると、微笑んでいた職員は口をあんぐりと開け固まる。他のギルド職員や受け付けたちも目の前の光景が信じられない様で目を見開く。
「この子は白夜の娘で白亜だ。七大竜王が一人白夜は有名だろ~その愛娘だからね~この子を狙う様な依頼をする貴族がいれば潰すし、手を貸す様な冒険者がいたら容赦なく潰すから君たちも覚えておいてくれ」
こちらの様子を窺っていた冒険者たちへ振り向いたエルフェリーンは口角を上げ、一人ひとりを見つめると顔を伏せる冒険者たち。中には尊敬の眼差しを送る者やうっとりと見返す者に手を振る者もいるが大半は目を伏せていた。
「はぁ……師匠はまったく……」
「どうせ噂されるなら最初から圧力を与えておかなくちゃ。それに……新しい魔道具を使ってみたいし、アイリーンの実力を試せる機会は欲しいだろ?」
「ギギギ」
アイリーンは自分はそんな気はないと言いたげに両手を上げ頭を左右に振る。
「この子は獣魔というよりも友達の娘を預かっているだけでね。それでも獣魔として登録できるかな? 聞き分けのある良い子だよね」
白亜に笑顔を向けるエルフェリーンに「キュウ」とひと鳴きすると二本足で胸を張る。
「では、こちらの方でそう処理をします。ちゃんと話を聞く様ですし、何かあればエルフェリーンが責任を取るという事で宜しいですね」
「うん、その時は任せてよ! 最悪の場合は王都を静めるし、白夜も現れるだろうから」
その言葉に顔を青くする職員と受付嬢。
「それじゃダメだろ……白亜は俺から離れるなよ。師匠が暴れ回るとか、それこそ魔王案件並に手が負えないからな」
「キューキュー」
クロに抱きつき頭を擦りつける白亜の姿に、受付嬢と職員の二人と奥で様子を見守る同僚たちはホッと胸を撫で下ろす。
「王都の未来はクロさまに掛かっています。何卒宜しくお願い致します」
「獣魔登録は受理されましたので、後日、獣魔カードを取りに来て下さい。こちらは仮登録証になります。これと引き換え致しますので失くさない様にお願い致しますね」
木製で作られた二匹の獣魔仮等力カードを受け取ったクロはアイテムボックスへと入れると、白亜をリュックへ入れ担ぎお礼をいって冒険者ギルドを離れる。
「何で師匠はあんな挑発的な事をいったんですか……」
「冒険者は冒険するのが仕事だろ。無謀な冒険はしないように釘を指しただけさ」
「何名かは目を光らせていたし、そいつらは今の警告で心が折れたでしょ」
エルフェリーンとビスチェはさも当たり前のように警告した事を口にし、これも異世界だからかなぁと思うクロ。
「クロさま! エルフェリーンさま! ビスチェさま!」
冒険者ギルドからでるとクロたちの名を叫ぶ声が耳に入り、声の主だろう馬車の小窓から顔を出す少女とイケメンが目に入る。
「御迎えに上がりました~」
豪華な馬車には近衛兵だろう騎馬隊が付きその後ろには歩兵の姿も見え、王族の護衛に慌ててやって来たのであろうと窺える。
「ハミルにダリル! 元気だったかい?」
エルフェリーンは笑顔を浮かべ嬉しそうに叫びながら馬車へと走りクロとビスチェもそれに続き、アイリーンは気配を消しながらも馬たちを怯えさせない様クロが手にしている綱を引っ張る。
「おっと、そうだったな。アイリーンも抱いていた方が馬も怯えないよな。よっと」
掛け声と共にアイリーンを持ち上げるクロはシールドをL字に変化させ胸に固定するとアイリーンをそこに置く。
「これで重くないなって、そんなに怖い顔するなよ」
「ギギギ」
「乙女に重いというな」とでも言いたかったアイリーンはクロを睨みつけ顔を逸らす。
「二人とも元気そうで良かったよ。これから向かうが構わないかい?」
「もちろんです! 皆さまがこんなにも早く来て頂けるとは思ってもみませんでした!」
「クロの兄貴もお久しぶりです! ここ最近は王城や王都は落ち着きを取り戻し、あの村の様な笑顔が多い街に変わりつつあります」
オーガの村での出来事を思い出すクロたちは馬車に乗り込み、王城へと向かうのだった。
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