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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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浮かれる聖女と教会へ



 城を出たクロたちはハミル王女とその専属メイドのアルベルタに、教会騎士たちが用意した馬車に乗り教会を目指す。

 馬車内には教皇と聖女レイチェルと聖騎士団長のサライがおり、丁寧に頭を下げクロたちを迎い入れ挨拶を交わす。馬車は他にも五台ほどが連なって聖騎士たちが馬に乗り警護し進む様子は物々しい雰囲気があるが、吉報を知らせる白と黄色の旗が掲げられており王都の人々は何があったかは知らないが良い事なのだろうと馬車を見ては手を合わせる。


「使徒さまのご活躍は聖王国より知らせが届きました。使者のダンジョン攻略おめでとうございます」


 人数も多く馬車内にはクロとアリル王女にエルフェリーンとビスチェ、教皇と聖女レイチェルに騎士団長サライが乗り先頭を進む。そんな中で一番に話し掛けてきたのは教皇であった。


「えっと、はあ、ありがとうございます」


「ダンジョンを単独突破とは恐れ入る。レーベスを倒した時に手加減をしていたのは知っていたが……やるな!」


 ガッハッハと笑いながら話す聖騎士団長サライに剣聖の娘との決闘を思い出すクロ。その決闘をした聖騎士副団長レーベスは外で馬に乗り警護をしているのだが、時折窓の外から殺意のある視線をクロへと飛ばし落ち着かないのである。


「クロが死者の迷宮を突破したのはもう五年も前の事なんだぜ~最近、ダンジョン神から褒美を受け取りダンジョン攻略の事実が碑石に刻まれたんだ。僕の弟子は優秀だけどクロは本当に驚かされることが多いよ~」


「私も驚きました! クリスマスケーキは凄いです! 白くてふわふわで果実がテカテカです!」


 先ほど食べたクリスマスケーキの事が忘れられないのか目をキラキラさせ話すアリル王女に、教皇は孫を可愛がるような瞳を向ける。


「クリスマス……その事でシスター数名が神より言葉を授かっております」


「神託ですか……ケーキを奉納しろとかですか?」


 聖女レイチェルの言葉にクロが一番可能性の高そうな神託を口にすると聖女と教皇は静かに頭を縦に振る。


「主様、その信託は料理の神さま、ダンジョン神さま、愛の女神さまからのようです。創造神さまからはクリスマスに最も売れるチキンを所望されております」


「…………………………」


 クロは思う。異世界の神たちは地球のクリスマスパーティーがしたいのかと……


「あの、先ほどから肩に乗せているのは天使様なのでしょうか?」


 聖女レイチェルが手を合わせながらクロの肩に乗るヴァルに視線を向け、教皇も興味深げにヴァルを見つめる。


「我は主様に召喚されしホーリーナイトのヴァル! 主様の剣として仕える者である!」


 肩の上で背中に背負っているランスを掲げながら自己紹介をするヴァルに聖女と教皇は目を見開き驚きを示すが、数秒後には両手を合わせて頭を深く下げ祈り出す。


「ホーリーナイト………………天が遣わせし翼の聖騎士……これが本物なのか……」


 聖騎士団長のサライも言葉を漏らし驚愕していると馬車は教会の敷地へと入ると静かに停車する。が、聖女と教皇に聖騎士団長がホーリーナイトのヴァルに祈りを捧げており誰も降りようとせず、ビスチェが立ち上がると聖女が慌てて馬車の入り口を開けようと動き馬車が揺れ体勢を崩し、慌てた聖女はビスチェをフォローしようとしたのか手で支えようとするがビスチェの高い身体能力の前にフォローはいらなかったらしく狭い馬車内でもバランスを保ち聖女の差し出した手は透かされ逆にバランスを失いクロへと倒れ込む。


「ひゃっわぁ!?」


 悲鳴と驚きが混じったような叫びが響き大きく揺れる馬車。降りるのを待っていた司祭のひとりが不審に思い馬車のドアを開ける。すると狭い馬車内で土下座をする聖女レイチェルと額に手を当てて天を仰ぐ教皇。エルフェリーンは笑い声を上げ、ビスチェは土下座する聖女を指差し怒りの声を上げる。


「だ、だいじょうぶでふから……ポーションを使えば鼻血ふらいすぐに止まりふすよ」


 鼻を押さえアイテムボックスを確認するクロだったが、ヴァルから「ハイヒール」と口にするとクロは光に覆われる。


「な、何がっ!? 使徒様に何があったのです!!!」


 声を荒げる司祭に聖女は土下座しながら口を開く。


「私が悪いのです! ドアを開けようとしたのですが足がふらつき使徒様の顔に、使徒様の顔に、肘が入ってしまい……」


「クロの顔が凹みました! びっくりです!」


 アリル王女も説明を求める司祭に事件の一幕を伝え眉間に浮かぶ青筋。


「聖女さまとあろう御方が使徒様を傷つけるなど!」


「あの、もう血も止まりましたし痛みもありませんから大丈夫ですので、ヴァルありがとな」


「はっ! 主様のお力になれる事こそ私の使命です!」


 わちゃわちゃしている馬車内から聖騎士団長サライが降り、手を差し伸べ教皇とエルフェリーンが降りビスチェとアリル王女が降りると、まだ土下座している聖女へと手を差し伸べるクロ。


「本当に気にしていませんから降りましょう。神々への奉納もありますし顔を上げて下さい」


「は、はい……」


 蚊の鳴くような声で返事をする聖女レイチェルはクロの手を取り立ち上がり、手を引きながら馬車を降りると口を尖らせるビスチェと少し目つきの悪くなっているシャロンが目に入り苦笑いを浮かべるクロ。


≪主人公気取りのクロ先輩は聖女さまも攻略する気ですか!?≫


 目の前に飛んできた文字を左手で掴み素早くアイテムボックスのダストボックスに入れるクロはシスターや子供たちからの「使徒様!」「英雄様!」という歓声に包まれ苦笑いが加速する。手を引かれている聖女は涙を流しながらもその歓声を心地よく感じ、隣に並ぶ英雄であり使徒でもある手を握っているという感触に頬を染め夢見心地のままフラフラと足を進める。


「クロさま、英雄や使徒と呼ばれている方が鼻に血の跡があるのはどうかと……」


 メルフェルンからの指摘に手に付いた乾き始めた鼻血の跡に、アイテムボックスからおしぼりを取り出すと顔を拭い始め、急に立ち止まったクロに気付けなかった聖女はその馬鹿力を遺憾なく発揮しクロを引きずる。


「あの子はまったく、レイチェル!」


 頭の中がお花畑になっていた聖女レイチェルを教皇の大声とまわりからの使徒様、英雄様コールが消えた事で自身の置かれている状況に気が付き、数メートル引きずったクロ存在に気が付き顔を一気に青く変えるのだった。






「面白かったのだ! 英雄が引きずられていたのだ!」


「キュウキュウ~」


 ご機嫌で話すキャロットと白亜にはクロが引きずられている珍事を遊びの一環だと捉えているのかキャッキャと話し、エルフェリーンも教会内の貴賓室へと案内されてもまだ笑いが治まらず肩を揺らしている。


「本当に申し訳ありませんでした」


 頭を下げる聖女と教皇にビスチェはまだ眉間に深い皺を作っているがクロが「もう本当に大丈夫ですから」と口にする。


「あれは事故ですから頭を上げて下さい」


 涙目になりながら謝罪する聖女が顔を上げると教皇からハンカチを手渡され涙を拭い去る。


「ほらほら、謝罪とかよりも早く上に行ってクリスマスをしようぜ~」


「そうです! 神さまとクリスマスです!」


≪神さまを待たせるのも問題だと思いますし、早く行きましょう! そして、ターキーを! フライドチキンを! シャンパンを!≫


 浮かぶ文字を見つめる一同にクロはクリスマスらしい料理を頭に思い浮かべるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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