英雄とトラウマ
「英雄様、どうぞこちらへ」
「ぷぷぷ、英雄さまだって」
≪クロ先輩は流石ですね~≫
「僕は嬉しいぜ~僕の弟子が英雄と呼ばれるのは鼻が高いぜ~」
「クロさんはやっぱり凄い人ですね!」
「凄いのは認めますが……英雄ですか……」
「キュウキュウ~」
「白亜さまも喜んでいるのだ! クロは凄いのだ!」
翌日になり王都へと転移したクロたちは真冬という事もあり他に並ぶ者もおらずすんなりと門へと向かい、門番の男に「英雄さま!」と声を掛けられクロはエルフェリーンへと振り向き門番の男から「クロさまの事です!」と再度声を掛けられたのだ。
その後は城への馬車が用意され一直線で城へ向かい、兵士に案内され王の元へと向かっているのが現状である。
「俺は英雄とかの器じゃないが……何かやらかしたっけか?」
思い当たる節がないクロは漏らした言葉に先頭を歩いていた兵士が足を止めて口を開く。
「クロさまの偉業は死者のダンジョンの単独制覇です! ダンジョンを制覇する人はこれまでパーティーを組み五チームの三十五名ほどいますが、単独でダンジョンを制覇するのは歴史上初めてのこと! これを異業と言わず何を偉業だというのです! クロさまがお強い事は薄々感じていましたが単独制覇するほどだとは………………」
足を止めた兵士は感心したように何度も頷き、クロは思う。確かに単独制覇したけど、それはもう五年も前の話だよな……
「クロが死者のダンジョンを攻略したのは五年も前の事よね?」
「ああ、師匠に拾われる前の事だからな……今更事が公になるのかがわからん」
「主様、それはダンジョン神さまから攻略の報酬を賜ったからだと思われます」
「なるほど……」
「クロはダンジョン攻略者が受け取るはずの宝箱をミミックだと思って開けなかったんだよね~話を聞いた時は大爆笑しちゃったぜ~」
「ボスっぽい魔導士スケルトンと巨大なドクロを倒したら急にキラキラした宝箱が目の前に現れれば警戒しますって。それに二回ミミックを開けて死にそうになったし……宝箱はトラウマなんだよ……」
クロの女神シールドとアンデットの相性は最高で振れれば即昇天させることができアンデットに対しては無類の強さを誇る。ダンジョン攻略に必要な罠に対してもシールドを常に出して移動できる事もあり、本人は出口へと進んでいた心算だったが最下層へと進み死者のダンジョンを攻略してしまったのだ。
「多くの宝箱を損してそうですね……」
「それはあるだろうな……ドロップアイテムとして出てきた物も禍々しかったりしたから放置だったよ。ポーションや金貨は回収したけど……ああ、色々と嫌な思い出が蘇ってくる……」
「クロさま!」
ひとりダンジョン攻略のトラウマが刺激され気分が悪くなっている自身を呼ぶ声が聞こえ視線を向けると、可愛らしい幼女が嬉しそうに手を振りながら走りクロへとダイブする。
「アリルさま、お久しぶりです」
「クロ! 英雄になったの! すごいね!」
クロが受け止めると向日葵のような笑みを浮かべたアリル第三王女からの言葉に笑顔を返す。
「こら! アリルはクロさまに馴れ馴れしくしすぎです! クロさま、ダンジョン単独制覇おめでとうございます!」
続いて現れたハミル王女が丁寧なカーテシーを素早く行いクロに抱き着くアリル王女を引きはがす。
「姉さま、姉さま、クロさまは英雄です!」
「そうですよ。クロさまはマヨの伝道師としてダンジョンを攻略された大英雄です! だから抱き着いたりしてはダメなのよ。わかった?」
「はい!」
「ぷぷぷ、マヨの大英雄だって」
違った意味でダメージを与えて来るハミル王女の言葉にガクリを項垂れるクロ。ビスチェとアイリーンは笑いを堪え、エルフェリーンとシャロンはそれも受け入れクロを褒め、キャロットと白亜はマヨを使った料理を思い浮かべお腹を鳴らす。
「クロさま、国王陛下がお待ちですので、どうぞこちらへ」
兵士の声に足を進めるクロは隣でキャッキャしながら歩く二人の王女に挟まれながら王の私室へと向かうのだった。
「クロ殿! 死者の迷宮単独制覇とは恐れ入ったぞ!」
国王のサロンに招かれた第一声を受け苦笑いをしながら頭を下げるクロ。ビスチェとエルフェリーンはドヤ顔をし、シャロンはキラキラとした瞳を向け、白亜とキャロットは王妃二人が座るテーブルに直行し羨ましそうな目で用意されているお茶菓子を見つめ、ルビーとメルフェルンは国王の前という事もありガチガチに緊張している。
「あなた、先に座っていただきましょう」
「エルフェリーンさま方もどうぞこちらにお掛けになって下さい。最近王都で流行っている菓子もありますわ」
二人の王妃からの言葉に一行が席に付くとキャロットと白亜はクッキーを手にし口に運ぶ。
「キュウキュウ!」
「サクサクなのだ! クロのクッキーに似ている味なのだ!」
「バターを多く使ったクッキーです。クロさまのクッキーを真似て作っていますのよ」
「クロのクッキーはバタークッキー以外にも色々な味があるわ!」
「チョコ味やナッツが入ってるものにチーズの風味がするものもあるぜ~」
クロは空気を読んでアイテムボックスからクッキー各種を取り出し開封すると女性たちの目が輝き、震えていたルビーやメルフェルンも小分け包装されたクッキーを開封し口にする。
≪私的には北海道土産のチョコ入りクッキーが一番です!≫
浮かせた文字を見たクロは魔力創造で某お土産を創造すると笑顔で開封し口にするアイリーン。王妃や王女たちもそれに続き口にして表情を溶かし、紅茶を配り始めたメイドさんたちにも適当にクッキーを進める。
「あの、これ良かったら皆さんでどうぞ。中の袋は燃やすと危険なので後で回収しますので、ああ、マヨの容器と同じように終わったら一緒にして下さい」
プラスチック系のゴミはクロのアイテムボックスにある消去のフォルダに入れることになっており、異世界での環境破壊を恐れたクロが毎回説明してまわっている。そのお陰か大量にお土産として置いて行くマヨやケチャップの容器は専用の部屋に保管されプラスチックを回収しているのだ。
「え、英雄さま……私たちまでありがとうございます……」
恭しく頭を下げるメイドに「できれば英雄と呼ぶのはちょっと」と口にし国王へのけん制するのだが、室内に多くいるメイド一同から頭を下げられ苦笑いを浮かべるクロ。
「クロさんは英雄と呼ばれるのがお嫌なのですか?」
ダリル王子からの質問に頭を下げ口を開く。
「英雄とかは自分のキャラじゃないですよ。師匠のような人が英雄と呼ばれるべきで、ダンジョンの攻略も相性が良かっただけですから。死者のダンジョンの後に転移で行った王都のダンジョンでは苦戦して逃げの一手でした。冒険者から絡まれた時に師匠に拾われなかったら今頃はどうなっていたか……」
死者のダンジョンを攻略したクロはまだ字が殆ど読めず転移陣が浮かび上がり説明文もあったのだが、帰還ではなく違うダンジョンへ転移する魔法陣の上に乗ったのだ。これはダンジョン神があらかじめに組んでいたもので、次のダンジョンの攻略をするだろうと王都近郊のダンジョンの中層へと転移させる為のものである。他のダンジョンでもこうしたものがあるがダンジョン突破者が連続で休みもなく次のダンジョンへ向かうような無謀な事をするわけもなく、そういう意味でも世界初の偉業といえよう。
「クロらしいミスね! あむあむ、アイリーンが一番だというだけあるわね!」
「クッキーでチョコをサンドしているね。これは凄い発明だよ~」
「どれも美味しいです! クロさまは凄いです!」
「マヨを入れたクッキーも開発すべきですね……」
ハミル王女の問題発言を聞かなかった事にしたクロは、用意していたマヨなどの調味料をメイドに預けるのであった。
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