炬燵の主とルビーからのプレゼント
「クウゥ~ン」
玄関のドアを開けると寂しそうに鳴く幼いフェンリルの小雪の声が聞こえ、アイリーンは素早くリビングへと移動すると嬉しそうな鳴き声が耳に入りクロたちが後に続く。
「皆さん無事で良かったですぅ」
「心配しましたよ~」
クロたちがリビングに入ると炬燵のある一段高くなった場所ではルビーがカップを傾け、アイリーンが小雪を抱き上げ頭を撫で尻尾が吹っ飛びそうなほどに振られ、炬燵から顔だけ出したメリリは笑顔を向けて来るが動く気配はなくもう炬燵が我が家なのだろう。
「何だかお酒臭いですね……」
メルフェルンの言葉にビクリと体を震わせるルビー、と同時に炬燵もガタリと音をさせ笑顔を引くつかせるメリリ。
≪メリリさんのカップの中には湯気を上げるウイスキーが入っていますね~≫
浮かぶ文字に視線を走らせたルビーはカップを傾け一気に飲み干し証拠隠滅を図り、メリリはゆっくりと炬燵の中へと出していた顔を沈める。
「炬燵に消えたけど……中でお酒を飲んでいるとか?」
ビスチェの指摘にガタリと炬燵が揺れ走り寄ったビスチェが顔を入れると中から叫び声ら響き渡る。
「あーーーーーー!? 中に酒瓶がいっぱいあるわ! 炬燵の中でお酒を温めているわ!」
途中から顔を出したビスチェの叫びがリビングに響き渡りルビーへと視線を向けるクロ。ちなみにメリリはまだ炬燵の中であり、熱りが冷めるまで出てくる気がないのだろう。
「まったくルビーもメリリもしょうがないね~飲み過ぎは体に悪いんだぜ~」
「す、すみません……」
クロはどの口が言うのかと思いながらもエルフェリーンの指摘に、素直に頭を下げるルビーとのやり取りを耳に入れながらも炬燵の一部を捲って中を確認する。
「うおっ!? ああ、魔化してたのか……メリリさん、炬燵の中に潜るのは危険だと言いましたよね?」
捲った炬燵は大蛇で覆われ中が見えなく、隣で小雪を抱いていたアイリーンはクロの横にしゃがみペチペチと大蛇を叩くと可愛らしい悲鳴が耳に入りゆっくりとだが動き出す。
「お、乙女の柔肌を叩かないで下さい!」
「俺じゃなくてアイリーンですからね!」
≪柔肌? 立派な大蛇ですけど……≫
炬燵の上に文字を浮かせ後ろの乙女たちからは笑い声が上がり、腕に収まっていた小雪が大蛇に興味を持ったのか鼻をスンスンさせながら肉球でペチペチし匂いを嗅ぐとぺろりと舐め上げ、ガタガタと炬燵を震わせるメリリ。
「ほらほら、小雪は変なのを舐めない。お腹を壊しますよ」
その言葉にへっへしていた小雪はアイリーンに抱かれ炬燵を後にし、メリリは場所から赤くなった顔を出す。
「いつも綺麗にしてますから! 綺麗にしてますから!」
必死に声を荒げるメリリの頬は赤く羞恥心は残っているようでクロは大きなため息を吐きながら口を開く。
「とりあえず、魔化は解いて下さい。他の人が炬燵に足を入れられませんから……」
「はい………………」
小さな返事をしたメリリは反省しているのか目の前の大蛇が一瞬で消失し、中には炬燵石と名付けた熱溜め発する石と数本のウイスキーの瓶とワインが視界に入り、開いている瓶や缶もあり更に大きなため息を吐くクロ。
「主様、割れている瓶はありませんのでご安心下さい」
そう言いながら肩から飛び立ったヴァルが酒瓶などを回収しクロへと手渡すと、炬燵の上には温められたウイスキーの瓶が並び悲しそうに見つめるルビーと目を輝かせて見つめるエルフェリーン。
「これは没収ですね……メリリさんはしばらく炬燵禁止にした方が……って、泣くほどですか!?」
「だって、だって、ここは私の巣として皆さん認識されておりますし、ここよりも温かく過ごせる場所は他にありません! そもそもクロさまが用意して頂いた炬燵は革命的な居心地の良さであり、その思いに応えようと、」
「応えようとして炬燵の中で暮らしていたのなら炬燵を片付けますけど……」
炬燵の中は危険で中に入り眠ってしまうと一酸化炭素中毒の可能性もあり、事故が起こるのなら炬燵を片付けると口にするクロ。するとメリリの瞳から一筋の涙が道を作り「うわぁ~ん」と子供のように鳴き始め、違った意味で困るクロ。
≪いーけないんだ~いけないんだ~クロ先輩がメリリちゃんを泣かせましたよ~≫
「ラミア族にこの寒さは応えますよね……」
「クロもそこまで怒らなくても……」
「キュキュウ……」
メリリを援護する言葉を背中に受け、白亜に至っては涙するメリリを励まそうと近くへ行き嗚咽を上げ涙するメリリの背中を摩っている。ただ、キャロットは気にした様子がなくルビーの横に腰を下ろし炬燵の温かさを堪能しているが……
「クロもそんなに怒らずにさ。ほら、一杯飲んで落ち着きなよ」
ナチュラルに暖かいウイスキーを開けて口にするエルフェリーンは空いているコップに注ぎ入れクロへと差し出し、クロは眉間に深い皺を作る。
「って、師匠も飲まないで下さいよ……はぁ……これからダリル王子にスノーウルフの皮を届ける予定だったじゃないですか……」
「あはははは、そうだったねぇ~明日頑張るぜ~明日はちゃんと届けに行くから、今日は一緒に飲んでメリリとクロの仲直りだ!」
いい感じに話を〆ようとするエルフェリーンにクロは盛大なため息を吐きながらも、ラミアは寒さに弱く下手したら冬眠する習性がある事を思い出すクロはメリリへと視線を向ける。
「少し言い過ぎたかもしれませんが炬燵に潜るのは危険なので絶対にしないこと! それにみんなが足を入れる場所ですから割れる可能性のあるガラスを入れるのは禁止ですからね!」
するとメリリは顔を上げ涙目で「はい……」と小さな声で返事をし、ウイスキーを注いでいたルビーも手を止めて返事をするとカップを傾け「ふはぁ~」と酒臭い息を吐く。
「炬燵の中でガラスが割れそれに気が付かなかったら本当に危険ですからね。師匠もルビーも次からは絶対にしないで下さいよ」
「うんうん、僕はしないと約束するよ~」
「わ、私もです! 今回は、その、魔が差したというか、自分へのご褒美というか……そうです! ご褒美ですよ! ちょっと待っていて下さいね!」
ルビーが立ち上がり鍛冶工房へと続くドアへと姿を消し他の乙女たちも炬燵へと足を入れ、同じメイドであるメルフェルンからハンカチを受け取ったメリリは涙を拭き取りながらクロへと視線を向けゆっくりと頭を下げる。
「本当に申し訳ありません………………これからは下半身だけにします……」
≪何だか凄い言葉ですね……≫
「顔だけはちゃんと出してくれれば死亡事故は起きないと思うので……すみません。自分も言い過ぎました」
「そうだぜ~クロは少し説教臭い所があるから気を付けるべきだぜ~」
「そうね! パパみたいな顔をして怒る事があるわ! アレは良くないわ!」
何やら逆に怒られ始めたクロは居心地の悪さを感じ、お酒を飲み始めた事もあってかツマミでも作ろうと立ち上がるとルビーがリビングへと戻る。
「白亜ちゃんの鱗と革をメインに使って作った胸当てです!」
ルビーがクロへと手渡したのは胸部に白亜の鱗を使い作られたショルダーアーマーである。白亜の革だけでは足りず左肩はでているが右肩には丈夫なギガアリゲーターの革を使い、胸を覆う革には白亜の脱皮した皮が重ねられ、鱗自体は小さいが白く美しい白亜の鱗を胸部に使い作られ、それを受け取り一番に喜んだのは白亜であった。
「キュウキュウ~キュウキュウ~」
「白亜さまはお揃いで嬉しいと言っているのだ! 私も欲しいのだ!」
試着したクロの姿に嬉しそうな鳴き声を上げ胸に抱き着く白亜と、それを見て歯を食いしばるキャロット。皮鎧の大きさを見て自身では装備できないと理解し悔しがっているのだろう。
「ぷはぁ~ルビーは良い仕事したね~ギガアリゲーターの革も光沢があって美しく仕上がっているぜ~」
「ドラゴンの鱗を使った装備品はとても高価なんだから大切に使いなさいよ!」
「ルビー、ありがとな」
「えへへ、クロ先輩には色々お世話になっていますから当然ですよ~おつまみは唐揚げが食べたいです!」
笑顔を向けて来るルビーにクロは「おう」と応え、キッチンへと向かい唐揚げを量産するのであった。
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