皮鞣しと痛風対策
「いや~大きなスノーウルフだね~」
「フェンリルほどではないにしても十分に脅威だと思います……」
「両手でこうっ! なのだ!」
一行は昨日キャロットが討伐したスノーウルフのリーダーであった皮を見つめている。綺麗に肉が取り除かれた皮は洗浄され天日に干されており、その大きさは乗用車がすっぽりと覆えるほどのサイズがあり迫力満点である。
「こんなに大きなウルフに傷一つなく仕留める嬢ちゃんには驚いたぞ」
「俺らは弓や長槍で仕留めたものと比べると恥ずかしい限りだな……」
「両手を魔化させ強引に絞め殺すとか、ドラゴニュートかゴーレムぐらいにしかできないわよ」
「ビスチェの狩ったスノーウルフだって綺麗に頭部を落としているからな。マジックアローも眉間以外に刺さっていなかったよな」
オーガたちがキャロットとビスチェを褒めながらも毛皮を鞣す手を止めず皮に付いた脂肪を綺麗にナイフで落として行く。オーガにとって毛皮はなくてはならない物であり服や布団といった物から袋や水筒に用途は多く、オーガの村に住む者なら誰でも革製品に加工できるのである。代々と受け継がれた技術は人族が住む村にもあるがオーガたちのように狩猟生活が長かった者たちからすれば必須の技術である。
「角も立派だぜ~あれだけ大きな角なら杖としても使えるぜ~指輪に加工してもいいし、削りカスは錬成すれば夜のお薬にもなるんだぜ~」
エルフェリーンの言葉に頬を染めるシャロンとメルフェルン。夜の薬という単語にオーガの男たちの目が輝くが意味が解らなかった白亜とキャロットは首を傾げる。
≪やっぱりリーダー格になるとサイズが大きくなったり角が多かったりしますね~≫
「個性というよりも進化に近いわね。群れを統率するのはどうしても強い個体になるのよ。体が大きいというだけでも力が強くなるし、二本角があるってことはそれだけ魔力が強く上手く扱えるってことよ」
「魔力媒体になる角だからね~スノーウルフの魔石は氷属性だから夏に向けて保存しておくといいぜ~」
「地下の室に入れて使わせていただきます。今年の夏は氷を入れた酒が飲めますよ」
「暑い日に冷やしたお酒は格別だぜ~特にクロのビールをキンキンに冷やして飲むと美味しいだ!」
「あら、冷やした白ワインも喉を通る感覚が気持ちいいわ」
「確かにクロの酒はどれも美味しかったが、どぶろくが群を抜いて美味かったね。あれを飲んでからは自分たちで作っているワインじゃ物足りなく感じるよ」
「それは母さんも言っていたわ! クロの白ワインを飲むと里のワインじゃ酔えないって!」
いつの間にかお酒の話で盛り上がり今夜の飲み会になる可能性が出始めたなと思うクロは、風に揺れ多く干されているスノーウルフの毛皮を見つめる。
「これだけの数のスノーウルフを倒したのか……」
≪それも無傷ですからね~凄い事だと思いますよ~≫
「大ムカデの騒動から柵を高くしたからね。あの時クロがいなかったら多くの子供たちが犠牲になったかもしれないと思うと………………」
「クロは命の恩人だもん!」
ナナイの浮かない顔とは違い向日葵のような笑顔を咲かせるラライに、クロも笑顔へと変わり視界の隅に入るオーガの子供たちがこちらを見つめ落ち着かない様子に手招きをする。
「おう、昨日は大変だったろ」
声を掛けると子供たちは我先にとクロの元に集まりアイテムボックスから出した飴を配り始める。なかには転びそうになる子供もいたがアイリーンが素早く助け笑顔で飴を貰い口々にお礼を口にする。
「クロは子供が子供好きで良かったよ。このままラライを貰ってくれれば私としては安心するんだけどねぇ~」
「ナナイの気持ちも理解できるけどクロはやらないぜ~」
「えぇ~私もクロ欲しいよ~」
そんな話を耳に入れながらも子供たちに飴を配り終えたクロはゆっくりとだが話をする三人と距離を取り、スノーウルフから取り出され積み上がった白い魔石へと視線を移す。やや濁りのある白いピンポン玉サイズの魔石からは冷気が漏れており、真冬とはいえ日のあたる場所では冷気特有の白い靄がドライアイスのように流れ落ちている。
「氷の魔石はサキュバニア帝国やオークの国などでは高値で取引されています。エルファーレさまの島国でも重宝されると思いますよ」
クロの横に並んだメルフェルンからの言葉にギラギラとした真夏の様な日差しを浴びていた砂浜を思い出すクロ。
「サキュバニア帝国はダンジョンがないので魔石は輸入に頼っていますからね」
「なら必要なだけ持って行くといいさ。うちらの室は五つもあれば十分だからね」
ナナイの言葉に目を丸めるシャロンとメルフェルン。サキュバニア帝国ならピンポン玉サイズの氷の魔石でも金貨数枚になるのである。積み上がった氷の魔石を見て苦笑いのまま思考を停止させたメルフェルン。シャロンは引きつった笑みでクロへと視線を向ける。
「それならお礼に酒と調味料を置いていきますよ。どぶろくの作り方も教えますから作って見ますか?」
クロの提案にナナイを含めたオーガたちが歓声を上げ「今夜は宴会だ~」とオーガの長であるナナイが叫ぶと毛皮の処理をしていた多くのオーガたちも立ち上がり歓声を上げ、その歓声に釣られ現れたオーガたちも喜び叫び、何とも言えない表情をするクロ。
昨日もあんなに飲んだのに今日も飲むとか、肝臓の心配をするレベルだよな……中級ポーションなら臓器の異変も治せるとか聞いたけど、アイリーンにお願いしてエクスヒールを掛けてもらった方が……
≪ぶつぶつ言っていますが何かありましたか?≫
クロの顔を覗き込むアイリーン。肩の乗っていたヴァルもいつの間にかクロの前で浮遊し心配そうに見つめていた。
「主様! 悩みがあるのなら我に!」
空中で器用に膝を付く仕草をするヴァルに吹き出しそうになるが主として堪え口を開く。
「師匠たちが連日のように飲み会をするから肝臓とか糖尿病とか痛風とかが心配だなぁと……」
その言葉にエルフェリーンが振り向きニヤニヤと笑みを浮かべ、ビスチェは唇を尖らせ、シャロンは少し頬を染めて微笑む。
「クロに心配されちゃったよ~僕はいつでも上級ポーションを持ち歩いているから問題ないぜ~血管も肝臓もピチピチだぜ~」
「私だって泥酔するほど飲まないわ! パパみたいに歩けなくなったことないもの!」
「みんなの心配をしてくれるクロさんは本当に優しいですね! 食事も健康管理とか気を付けてくれていますし、寒い時は進んで温かい飲み物を入れてくれて感謝しています!」
≪ウホホホホホ~これは素晴らしいですよ~健康管理! クロ先輩の健康管理ですよ! YOU、シャロンくんも管理しちゃいなよ!≫
「管理よりも肉なのだ!」
「キュウキュウ~」
腐った文字を素早く回収したクロは異世界にも痛風があるという事実を知り、アルカリ性の食品を増やし痛風対策を考えながらビスチェの父親にコンビニで売っていた尿酸値を下げるサプリを魔力創造するとあっさり片手に出現し、ビスチェの不仲な親子関係が少しでも良くなればと思うクロ。
「クロ、クロ! それは飴? 飴?」
ラライが目を光らせクロの手にした尿酸値を下げるサプリに興味を持つが「これは薬な」と口にすると興味をなくし、代わりにエルフェリーンが目を輝かせるのであった。
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