思い出話
「そっか~古龍たちが集まっているのか。そうなると近づくのは危険かな~飲み会なら危険がないかもしれないけど、腕試し中に近づくとブレスに巻き込まれたりするからね~ああ、でも白夜がいるかもしれないな……」
女神ベステルから受けた説明をエルフェリーンに報告するとエルフェリーンは真剣な表情で話し、最後に白夜へと視線を向ける。
「キュウキュウ……」
「白亜さまは困っているのだ!」
エルフェリーンへと言葉を返す白亜は鳴き声を上げるとクロの元はと走り足にしがみ付く。
「困っている?」
「キュウキュウ! キュウキュウ!」
「クロと一緒にいたいと言っているのだ! まだ帰りたくないと言っているのだ!」
クロの後ろに隠れるように足にしがみ付く白亜に、クロも困った顔をしながらしゃがむと白亜を抱き上げる。
「俺としても白亜と離れるのは寂しいよ……でも、母親がいるのなら一緒の方が、」
「それは違うのだ! 白夜さまはあまり巣に返らないのだ! 白亜さまの食事は我々ドラゴニュートが用意するのだ!」
白夜は古龍の中でも七大竜王という最上位の古龍であり、玉子を産むとドラゴニュートに子育てを任せ自身は世界を飛び回っている事が多く、その生態は謎である。残されている文献には人族の国で気まぐれに商隊を助けたり大進行の討伐を横から手伝ったり泳いでいる所を海で目撃されたりと、気ままな生活を送っているのかもしれない。
「それなら白亜の意思を尊重してやりたいな。俺も白亜と離れたくないしな」
「キュウキュウ~」
クロの胸に収まる白亜は尻尾を振りながら嬉しそうに鳴き声を上げ、皆がその様子に笑顔を浮かべる。
「それにしてもスノーウルフが百頭近くも逃げ出したのか……古龍たちが元気過ぎるのも考えものだね~」
「エルフェリーンさま、そのスノーウルフのリーダーの皮は状態が大変よく、王家へ献上したいのですが……」
ナナイの言葉にエルフェリーンが振り向き首を傾げる。
「ナナイが献上したいのかい?」
「はい、討伐したキャロット殿は肉しか食べないと……」
「あはははは、キャロットらしいね!」
「毛が付いた皮は美味しくないのだ!」
「そりゃそうだ! あはははは、ドランも同じ事を言っていたよ~ミスリルマイマイを討伐してね~思い出すなぁ~」
ひとり昔を思い出すエルフェリーンは笑顔を浮かべるが、ミスリルマイマイという魔物の名前を耳にしたビスチェとナナイは顔を青ざめる。
「竜よりも硬く危険な魔物……」
「鉱山に住む伝説の魔物が実在したのですか……」
「西の大陸にいたぜ~大きなカタツムリの魔物で殻がミスリルでできているからね~強い酸を吐き出して危険なんだよ~洞窟内という事もあって強力な魔法は使用できないから苦戦したぜ~最後は殻のミスリルに直接魔力を流して倒したけど、味は絶品だったぜ~コリコリとした食感とうま味のある肉を塩焼きで食べたけどドランやカリフェルはだらしない顔でお腹が膨れるまで食べて……楽しかったなぁ……」
「母さまがだらしない顔をして……想像がつかないです……」
「そう? 初めてブランデーを飲んだ時はだらしない顔をしていたわよ? ねえ、そうよね?」
ビスチェがクロへと話を振り困った顔をするが、メルフェルンのお腹から聞こえた音にクロは竈へと足を向ける。
「クロ~お腹が空いたよ~」
「ぼ、僕もお腹が空きました……」
「す、すみません。話の腰を折る様な音を立ててしまいました……」
顔を赤くするメルフェルンに「何か作るから座っててくれ~」と声を残し土間にある竈に火を入れるクロ。
「手伝います!」
「ぼ、僕も!」
メルフェルンとシャロンが手伝いを申し出てクロの後に続き土間へと降りるが、シャロンには白亜を手渡しメルフェルンには肩に乗るヴァルを手渡す。
「本当に簡単な料理だから座っててくれ」
白亜を受け取ったシャロンは少し悲しそうな表情へと変わるが抱き締めた白亜からは「キュウキュウ~」と嬉しそうな鳴き声と尻尾を揺らす姿に表情が晴れ、メルフェルンも受け取ったヴァルを両手に乗せ、ゆるキャラ特有の可愛らしさに頬を緩める。
「クロ~クロ~私も何か食べたい!」
「私もなのだ! もうお腹が空いたのだ!」
成長期のラライとドラゴニュートで大柄なキャロットにはカップ麺一つでは少なかったのだろう。
「色々持って行くから好きなのを食べてくれ」
そう言葉を返しながらクロは魔力創造でコンビニのおにぎり各種にサンドイッチとインスタントのカップのお味噌汁にお湯を入れ、コンビニで売っている物の中でもお気に入りの白菜の漬物を皿に移して持って行く。
「クロのおにぎり!」
「さっきのとは違うのだ!」
≪懐かしいですね~コンビニおにぎりはよく買いましたよ~≫
「私まで悪いね……」
適当に配るとビスチェがおにぎりの開封の仕方をドヤ顔で教え、シャロンとメルフェルンは味噌汁の味にホッとし、ナナイとラライはクロが作り出したコンビニおにぎりに思い出があり懐かしむように口にする。
≪やっぱりツナですね~≫
「こっちの具は肉なのだ!」
「キュウキュウ~」
「主様! 手に持って食べられるのは手軽で便利ですね」
「パンに挟んだ葉野菜がシャキシャキして美味しいよ~あむあむ」
「このおにぎりを食べると大ムカデの大発生を思い出すね……」
「あの時のクロ、かっこよかったよ! シールドでみんなを守って凄かったよ!」
ナナイがおにぎりを食べながら言葉を漏らしラライはキラキラした瞳をクロに向ける。
「今思い出すだけでも鳥肌が立つな……あの大ムカデの両々発生は……誰も大怪我無く討伐できたのは良かったが、思い出したくない光景だな……」
七メートルはある大ムカデがオーガの村に数十匹侵入し、居合わせたエルフェリーンとビスチェが多くの大ムカデを屠り解決したのだが、その時に子供たちが避難する小屋へ大ムカデが現れクロが必死にシールドを使い大ムカデから子供たちを守ったのである。それいらい子供たちから尊敬の瞳を向けられ、オーガ両親たちから厚い信頼を得るようになったのである。
「こ~んなに大きな大ムカデの突進をシールドで押さえたんだよ!」
無邪気に両手を大きく広げ話すラライの言葉を微笑みながら耳を向けるシャロンとメルフェルン。
「僕もイナゴ退治の時に何度か助けてもらいました! クロさんのシールドは凄いですよね!」
「シールドもそうですが、巨大イナゴを貫いた鉄塔も常識外れと言いますか……」
「あれは凄かったわね! 一瞬にして大きな塔が建ってびっくりしたわ!」
≪アレはやり過ぎだと思いましたね~異世界に東京タワーを建てて……はっ!? クロ先輩! もしかしてアニメショップとかも建てられるんじゃ!!!≫
テンションを上げたアイリーンの文字を手で掴み丸め囲炉裏に入れたクロは、自身の話から話題を変えるべくこれからの予定を口にするのであった。
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