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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第二章 預かりモノと復讐者
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いざ、王都へ



 『若葉の使い』たちが錬金工房『草原の若葉』を出て二日後、クロたちは旅の支度を終えエルフェリーンの転移魔術により王都近郊の森へと転移する。


「転移魔法とか、相変わらずのチートぶりだよな……」


 ぽつりと漏らしたクロの言葉にエルフェリーンは笑顔を向ける。


「魔法や魔術というものは便利で当然! 使ってこそのものだね! それにクロの創造魔法も凄いじゃないか。魔力を物質に変化させ、それが食せるなんて最高だよ!」


「それは私も同感ね! 魔力を蜂蜜に変えられるとか、故郷のエルフが知ったら神として崇められるわね」


 珍しく素直に褒めるビスチェに訝しげな表情を浮かべるクロ。


「だからどんどん出しなさい! 私が許可するわ!」


「そんな事だろうと思ったよ……アイリーンは俺から離れるなよ。白亜はバックから顔は出してもいいが出るなよ」


「ギギギ」「キューキュー」


 白亜はクロが背負うリュックから頭を出し、アイリーンは自身が作った糸を束ねて作った紐を蜘蛛のクビレに巻き付けその先をクロが握っている。見た目は魔物使いであり怪しさはあるが、知名度のあるエルフェリーンとビスチェが両脇を固めて歩けば問題はないだろう。


「さあ、行くよ。歩けばすぐに畑が広がり、王都が見えて検問があるからね」


「うっす」


「しゅっぱーつ!」


 元気に歩きはじめる一行であった。






「ひっ!? ま、魔物!!!」


「この子はおとなしいので大丈夫ですよ~」


「さ、先に行ってくれ」


「この子はおとなしいのになぁ」


「えっ! エルフェリーンさま!! どうして!」


「この子もおとなしいですからね~」


「いえ、そうではなく、ひっ!? 魔物!!!」


 街道に並ぶ商人や冒険者たちに怯えられるアイリーンは肩を落とし、その頭をしゃがみ撫でて慰めるエルフェリーン。


「見た目だけで判断するとか、そんなんだから人族は進歩しないのよ!」


 ビスチェの言葉に白亜が「キュウキュウ」と声を上げ、次第に騒ぎが大きくなると門を警備していた警備兵が走りこちらに向かって来る。


「沈まれ、沈まれ! 一体何が……ビスチェ様にエルフェリーン様! クロも来たか!って、何だこの禍々しい蜘蛛の魔物は!? それに白い蜥蜴まで背負って!」


「ギュルルルルル!」


 私はドラゴンよ! と怒りながら叫ぶ白亜だが「ギギギ」とお尻を揺らし笑うアイリーン。ビスチェは笑いを堪え、エルフェリーンも肩を揺らす。


「門番のおっちゃん、そこはドラゴンと言って欲しいな。これでも良い所の子を預かっているんでね」


「そ、そうか。それは失礼しました。本日はどの様なご用件でしょうか?」


 白亜へ丁寧に頭を下げる門番のおじさんはエルフェリーンへと視線を向ける。


「クロが持ってるよね?」


「ああ、これが招待状になるのかな?」


 アイテムボックスから文を取り出すと、まわりからはアイテムボックス使いだと声が上がり商人たちは羨ましそうな瞳を向ける。


「こ、これは王家の紋章……それでしたら列に並ばずに貴族用か緊急用をお使い下さい。それと、魔物を連れている者はあちらの大きく門が開く受付へまわって頂ければ、この様な問題を起こす事はないのですが……」


「ああ、そういやそんなルールがあったね。魔物を連れて歩くのは久しぶりだから忘れていたよ。あははは」


 あからさまに笑って誤魔化すエルフェリーンに困った顔を向ける警備兵。クロたちにも気まずい空気が流れる。


「ギギギ」


 そんななか、立ち上がったアイリーンがカーテシーで挨拶をし、警備兵の度肝を良い意味でも悪い意味でも抜き、槍を構えるまだ若い警備兵と腰を抜かす警備のおっちゃん。


「これはカーテシーですよ。威嚇行動じゃないですからね」


 アイリーンは体勢を変え、今度は頭を何度も下げながら前足だけを擦り合わせゴマをする仕草をすると笑い出すクロ。


「これは媚びているのか?」


「そうみたいですね。多分宜しくお願いしますという動きだと思いますが……やり過ぎですね……」


 ショックを受けた様に立ち上がり糸で文字を浮かせる。


≪今日の為に一生懸命考えたのに≫


「ははは、愉快な蜘蛛をテイムしたな! 何というかクロらしい。私は上に報告しに行くが、冒険者ギルドにあるテイマー支部にこの二匹の許可証を発行してもらえよ。許可のない魔物は討伐されても文句が言えん。それだけは知っていて……エルフェリーンさまが付いていたら文句が言える者はいないか……」


「僕はちゃんと文句を聞いてから手を出すからね! こんなに可愛いエルフなのにどうしてみんなは怖がるのかね~」


「ギギギ」「キューキュー」


「そういう所だと思いますよ。登録はこの足で向かいます。色々とすみませんでした。他に並ぶ皆さんも申し訳ないです」


 警備兵とまわりに並ぶ者たちに頭を下げるクロ。ある意味一番大人な対応をするクロにまわりからは「気にするな」や「蜘蛛可愛い」や「エルフェリーンさま可愛い」などの声が上がり殆どは好印象であった。


「冒険者ギルドは門を出てすぐだからな。エルフェリーンさま王城に使いを走らせますので登録に寄って下さいね」


「ああ、わかっているよ。みんなも元気でね~」


 手を振りながら門番と別れ王都へと到着する一行。

 門を潜ると一直線に大通りが続き、高い塀の向こうには大きなお城が視界に入る。大通りには馬やダンゴムシに似た魔物が馬車を引き、多くの露店が店を出し活気のある声や肉の焼ける香りが鼻腔を潜る。


「ここが王都か……」


 しみじみと口に出すクロにビスチェが口を開く。


「あんまりキョロキョロしてたら田舎者だと思われてスリに会うわよ。財布はアイテムボックスに入れる事。ポケットには画鋲でも入れておきなさい」


「それだと座った時に痛くないか?」


「その痛みでスリに注意しようと改めて思い出すのよ」


「都会へ旅に出るエルフにいう定例の言葉だね。僕が広めたジョークなのになぁ」


 その言葉にジト目を向けるクロと、驚きを浮かべるビスチェ。


「私はいつも画鋲を入れていたのに……」


「俺は絵の具で塗った石でも入れておこうかな……ハズレとか書いておくか?」


「ギギギギギ」


 腕を上下させ笑うアイリーンは足元に落ちていた小石に指でハズレを書き込むと、クロへと手渡し体を揺らす。


「一応入れておくか。スリし易いのは上着のポケットかな」


「お尻のポケットよ! もうっ! 何度お尻に回復魔法をかけた事かっ!」


 頬を染めお尻を押さえるビスチェに、これ以上イジルのをやめるクロであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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