エルフェリーンとの合流
カップ麺を食べ終わる頃には外も明るくなりはじめ、クロは人数分の野菜ジュースを配りひとり外へと向かう。肌を刺すような寒さに身を震わせるが冷たい空気は心地よく深呼吸をして体を伸ばす。
「ふぅ……朝飯にカップラーメンとか昔の生活を思い出すな……」
クロが地球で暮らしていた頃を思い出しながら体を解していると玄関のドアが開きナナイが顔を出し、クロの元へと足を進め隣で同じように体を解しながら口を開く。
「朝から異世界の食事をありがとな」
「いえ、自分が一人で食べようとしたのを見つかっただけで……ああいう食事はあまり体にはよくないのでお勧めできませんが、たまに食べたくなるんですよね」
「お湯を入れただけで満足できる食事が簡単に料理できるのは凄い事だと思うがね……」
「それには同感です……野菜を切って肉を切って煮て焼いて……それを省いた食事ですから……」
「何というか……クロは真面目だね~それに比べてキャロットは……はぁ……なぁクロ、キャロットが要らないと言っていたリーダーのスノーウルフは前に試練にきた王子にやってくれ……毛皮は最高級品で角は杖や武具にもなる。あの王子なら国を上手く収めてくれるだろうからさ……」
昨晩、ナナイがスノーウルフ討伐の分配について話し出すとビスチェは魔核を求め、キャロットは肉料理を求めたのだ。クロは戦いに参加してないし、スノーウルフの角は錬金素材というよりも象牙的な価値があるだけで装飾品に向いているのだ。その為、クロたち『草原の若葉』での価値は低くスノーウルフを使った餃子料理を食べ満足したのである。
「角も毛皮も食べないのだ!」
そう口にしたキャロットにナナイは顔を引き攣らせ、ラライは爆笑したのを思い出すクロ。
「そうですね……ダリルさまなら喜ぶかもしれませんね……」
クロがダリル第二王子の顔を思い出いながらもその横で「マヨマヨ」と叫ぶ王女姉妹が頭にちらつき、最近会っていないなと思い毛皮を届けに行きながらマヨを大量に持って行こうと思案する。
「冒険者時代なら誰が所有するかで殴り合いになるような代物なのにな……結局は金に換えて和解するが……」
「物欲よりも食欲な人達ですから……」
「ははははは、それぐらいがいいさ! 金は適度になければ困るが、あり過ぎても困るからね!」
クロの背中をバシバシと叩きご機嫌に話すナナイ。クロは叩かれた勢いで前転しパリパリと薄い氷の張った地面を転がり冷たい泥水を背中とお尻で体験する。
「悪い悪い、クロはもっと体を鍛えないとだね!」
「オーガの長に認められるほど鍛えるとか無理言うなよ……いっきしっ!?……帰ったら浄化魔法だな……」
最近肩に乗り生活を始めたヴァルも今は家におり、お風呂感覚で浄化魔法を求めるクロにナナイは笑い声を上げる。
「はははは、『草原の若葉』の連中といると常識が崩壊しそうだよ。異世界の料理に教会が独占する浄化魔法を風呂感覚で使うとか……エルフェリーンさまの元じゃなきゃ確実に命を狙われてるよ」
「命を……」
「ああ、浄化魔法は聖職者の特権みないな魔術だからね。一時期は神術だとか風潮して神さま方から嘘を吐くなと見放されそうになった事もあるぐらいだよ。最近じゃそれほど悪い噂を聞かないが……まぁ、私が冒険者を辞めたからかもしれないがね……気を付けなよ」
真剣な瞳を向けて来るナナイにクロは静かに頭を縦に振る。
「そろそろ村の連中も起きてくるだろうが、冷えるね……」
「中へ入りましょうか」
二人は白い息を吐きながら家へと戻り、泥だらけなクロの姿にアイリーンが素早く浄化魔法を唱え、ヴァルも浄化魔法を使おうとしたがタッチの差で間に合わず歯を食いしばる。ヴァルの見た目がゆるキャラなこともあり本気で怒っているように見えないが、本人としては仕える主の汚れを落とせなかったことに悔しい思いをしたのだろう。
「助かるよ」
≪いえいえ~二人で相撲でもしていたのですか?≫
「ちょっと転んでだよ……相撲とか久しぶりに聞いたな……ん? ヴァルはどうした?」
白亜の隣で俯くヴァルの姿にクロが声を掛けると、六枚ある羽を動かし舞い上がりクロの胸に飛び込む。
「主様! 申し訳ありません……自分が主様の汚れを落としたかったのですがアイリーン殿に先を越され、先を越され……うぇ~ん」
いつもの習慣で浄化魔法を掛けたアイリーンはばつが悪そうに後頭部を掻き、クロは胸に飛びつき涙を流すヴァルを優しく抱き締めると頭を撫でる。
「え~と、なんだ。ヴァルの気持ちは嬉しく思うよ。ただな、アイリーンも親切でやってくれた事だし、どっちが早いとか俺は気にしないからな。俺が使える魔法はシールドと生活魔法ぐらいだから浄化魔法で綺麗にしてくれて助かっているからな。それよりもその体格で滝のように涙を流している今が心配でならないのだが……」
胸元は水を掛けたように濡れズボンにまで涙が染みる現状にヴァルの脱水症状を疑うクロ。ヴァルの体格は三十センチほどであり、そのゆるキャラボディー内の水分量と濡れた衣服に付着した水分量を考えるとどう考えても命の危険を感じさせる。
「こ、こんなにも主様を濡らしてっ!? も、申し訳、」
「謝罪はいいから水分を取ろうな。ほら、スポーツ飲料を出したからゆっくり飲もうな」
優しくヴァルを抱えながらペットボトルのスポーツドリンクを開封し口元へと持って行くクロ。ヴァルは素直に受け入れ口を開く。
≪赤ちゃんにミルクを与えている様に見えますね~≫
「クロは良いお父さんになれるよ!」
「キュウキュウ~」
「白亜さまのお父さんだと言っているのだ!」
困った話の流れを無視してヴァルにスポーツドリンクを与え続けていると、玄関のドアが乱暴に開かれ声が部屋に響き渡る。
「クロさん! 無事ですか!?」
「うっぷ……助けにきたぜぇ~うっぷ……」
「エルフェリーンさま、無理をなさらず、肩をお貸しします」
授乳中のクロを見たシャロンはホッとしたのか、赤い目をしながら目の前の光景に膝から崩れ落ち、エルフェリーンはメルフェルンに肩を貸され青い顔をしながら部屋へと上がる。
「うっぷ……昨日は飲み過ぎたよ……クロ、いつものを……」
「いつものって、師匠も持ち歩いているでしょう……状態異常ポーションはっと……」
ヴァルを優しく床に置くとアイテムボックスに入れてある状態異常を回復させるポーションを取り出し封を開けエルフェリーンに手渡すクロ。エルフェリーンは青い顔をしながら一気に口に含むと光に覆われ顔色が戻り、いつもの元気な姿を見せる。
「ほら、シャロンも座ってないでこっちに上がれよ。ルビーとメリリさんは留守番か?」
手を差し伸べられた手を掴み立ち上がったシャロンはブーツを脱ぐと穏やかな微笑みを浮かべ、後ろで荒ぶりはじめたアイリーンから飛んでくる腐った文字を小さなシールドで受けながら弾き腰を下ろす。
「ふぅ~助かったぜ~前に作った状態異常ポーションはエルファーレにあげてしまったからね~後で作るためにも薬草を集めないとだぜ~」
状態異常ポーションを持っていない理由を知りクロは数本取り出すとエルフェリーンへと手渡す。
「うんうん、ありがあと~僕のアイテムボックスにも入れておくけど、スノーウルフの件は片付いたのかな?」
「ビスチェとキャロットが頑張ってくれました。オーガの皆さんも弓を使い柵で防衛していましたから怪我人などはいないそうです」
「それはそれは、やっぱりクロがいれば問題ないね。ビスチェとキャロットもよくやったよ~僕の自慢の仲間だぜ~」
笑顔を向けるエルフェリーンにビスチェは頭を下げキャロットはドヤ顔で口を開く。
「あれぐらいなら敵じゃないのだ! 肉も美味しかったのだ!」
「キュウキュウ~」
キャロットと共に嬉しそうに尻尾を振る白亜は一日ぶりの再会に嬉しそうな鳴き声を上げるのだった。
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