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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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寒い時に食べると美味しい簡単料理



「重っ!?」


 翌朝、寝苦しさで目を覚ましたクロは囲炉裏のある部屋の隅で体を起こす。すると布団のあった隣の部屋で寝ていたはずの白亜とラライにキャロットが布団に頭を突っ込みクロの足を枕代わりに使っていたらしく右足には頭三つ分の重さが加わっている。おまけに腹部に乗っていただろうホーリーナイトのヴァルがコロコロと転げ落ち囲炉裏まで転がり、慌ててシールドを展開して難を逃れる。


「ふぅ……朝から何なんだよこれは……はぁ……」


 右足に若干の痺れがあり丁寧に白亜を布団に、ラライの頭は横にずらし、キャロットは丈夫なので勢いよく足を引き抜くとゴンと鈍い音がするが顔色一つ変えずにスヤスヤと眠る姿に、本当に丈夫だなと感心するクロ。


 ラライを白亜の横に寝かせ布団を掛け、キャロットにはクロが普段使っている毛布とコートを掛け、足の痺れを感じながら囲炉裏へと向かい薪に魔剣を使って火を入れる。土の間ある昔ながらのオーガの家の朝は冷えており適当に上着をはおると、部屋が暖かくなるまで忘れていたヴァルを両手で持ち上げラライの横に寝かせる。


「ふわぁ~あ、外はまだ暗そうだな……寝返りで落ちないようにシールドを張っておくか……」


 ヴァルがまた転がり落ちないように囲炉裏のまわりを四枚のシールドで囲んだクロは足の痺れから回復し部屋も暖かくなり始め、立ち上がり体を伸ばすとナナイが普段から使っている鉄製のヤカンに水を汲み囲炉裏に掛ける。


「これだけ寒いと温かい物が食べたくなるな……」


 布団を白亜たちに占領されている事もあり二度寝という選択肢がない事から小腹を満たす事を考え始めたクロは、魔力創造で数種類のカップ麺を創造すると何にするか悩みながら目の前のヤカンの様子を窺いつつビニールを剥がす。


「シンプルな醤油味だな」


≪私はカレー味を所望します≫


 目の前に降って来た文字に顔を上げるとアイリーンが目を擦りながら天井にぶら下がっておりクロはカレー味を開封して湯気を上げるヤカンから慎重にお湯を注ぎ入れ、自身の醤油味にもお湯を入れる。


「たまにはこういう料理も食べたくなりますね~」


 文字ではなく声で話すアイリーンにクロはアイテムボックスから桶を出すと残ったお湯を入れて水を足し、口を開く。


「食べる前に顔を洗ってこいよ。涎の跡が、」


 言い終わる前にクロから桶を奪い取るように受け取った桶を持ち土間の方へ離れるアイリーン。年頃の女性には恥ずかしかったようで、頬を染めながら顔を洗う音と薪がはぜる音にキャロットのイビキが重なる。


「ふぅ……スッキリしました。あっ………………浄化の光よ~」


 アイリーンを光の粒子が包み込み浄化魔法を使用する。すると、水で塗れた襟や髪の毛もすっかりと乾き、タオルを受け取らなかった事を帳消しにする。


「そろそろ三分だぞ~」


 割りばしを用意したクロからの言葉に桶のお湯を排水に流したアイリーンは素早く足を動かし囲炉裏近くに腰を下ろす。


≪早朝に二人だけで食べるとか、悪い事をしているみたいでドキドキしますね≫


「別に悪い事ではないだろ。はぁ~この香り、懐かしく感じるな……」


≪よく混ぜて~よく混ぜて~この小さくて四角いジャガイモの少し硬い感じがいいですね~≫


 部屋にふわりと広がるカレーの香りに醤油味の香りがかき消させるが、クロは熱々のスープに気を付けながら口を付け懐かしい味に胸を撫で下ろす。アイリーンも麺を口にして自然と表情を緩めスープを口にする。


「好みもあるだろうけど、俺はやっぱりシンプルな醤油味だな……」


≪私はカレー味ですね~たまにシーフードが食べたくなりますがカレーを推しますね~最後にご飯を入れた時に真価を発揮しますからね~≫


 湯気を上げるカップ麺を啜るクロとアイリーン。すると白亜の寝ている布団から地鳴りのような音が響き、むくりと上半身を起こすキャロットは寝ぼけているのか鼻をスンスンと動かし顔を左右に振る。


≪まだ眠っているのですかね? 目が開いていませんよ……≫


「アイリーンがカレー味を食べるから、その匂いを無意識に反応しているのかもな……」


「美味しい匂いなのだ……」


 ぽつりと漏らす言葉の後に目をくわっと見開くキャロット。その視線はクロとアイリーンが食べているカップ麺を凝視し、再度地鳴りのような音が部屋に木霊する。


「た、食べるか?」


 麺を飲み込んだクロの言葉に満面の笑みを浮かべるキャロットは大きな声で「食べるのだ!」と叫び、クロは慌てて箸を押さえ人差し指を立てる。


「まだ早いから静かにな……何味にする?」


 アイテムボックスから数種類取り出すと一番大きな豚キムチ味を手に取るキャロット。


「それは少し辛いぞ」


「なら、これなのだ!」


「だから声が大きいよ……これは熱湯五分だから少し待とうな」


 コンビニでは少しお高いカップ麺を選んだキャロットは尻尾を振りながら体を揺らし、クロは作り方を見ながらお湯を注ぎ入れる。


「クロとアイリーンのは少し小さいのだ。カレーの匂いが堪らないのだ」 


 若干ではあるが声を押さえたキャロットにアイリーンが口を開く。


「一口だけ食べる?」


 普段喋らないアイリーンの声に驚くことはないが、目を見開き素早くアイリーンの横に移動すると大きく口を開くキャロット。


「ラーメンをあ~んするのは難しいですね……」


「ほれ、スプーン」


「流石、クロ先輩は便利ですね~」


「便利っていうなよ……ん? ラライも起きたか」


 視界の隅でラライが起き上がり目をぱちぱちとさせクロと視線を合わせると「クロ!」と叫び、高速ハイハイでクロの元へと向かい可愛らしい音をお腹から奏でる。


「白亜たちが寝ているから声を小さくしろよ~ほら、ラライも食べるか?」


 クロが自然にラライの頭を撫でながら声を掛けると、クロが食べていた醤油味を素早く手に取りスープを口にする。


「美味しい!」


「だから声は小さくな。それと同じ味を食べるか?」


「カレー味も美味しいのだ!」


「だから声は小さくな……」


「クロと同じの食べる~」


「私はシーフードにするわ……朝から煩いわよ……」


 隣の部屋から現れたビスチェの鋭い眼光を受け身を縮めるキャロットとラライ。クロはこれ以上ビスチェの機嫌が悪くなるのを防ぐためにシーフードにお湯を入れ、醤油味にもお湯を入れる。


「クロ、ありがと~」


「ああ、でもまだ開けるなよ。三分待とうな」


「うん……」


「朝から賑やかだと思ったら……」


 寝室が開きナナイが部屋に入るとクロは頭を下げ他の者たちもナナイに頭を下げる。


「悪いな、静かに食べていたのですが……ナナイさんも何か食べますか?」


「私はこれをもらっても?」


「それは少し辛いわよ。独特の香りと太い面で食べ応えがあるわね」


 以前食べた事のあるビスチェの説明にゆっくりと頷くナナイ。クロは封を開けお湯を入れようとするがお湯が少なく、アイテムボックスに保存してある水のペットボトルを開けヤカンに注ぎ入れる。


「お湯が沸くまで待って下さいね」


「ああ、それまではラライのを分けて貰うさ」


「ええ~ママはママのを食べてよ~ママならお湯を入れなくても食べられるよ~」


「ほぅ……クロの前でも叱る時は叱るからな……」


「えっと………………もうできたよね! ほら、ママにも分けるよ~」


 蓋を開けクロから受け取ったフォークで混ぜるとナナイに献上するラライ。それを見ながら皆で笑っていると白亜が目覚め、ヴァルも起き上がりお腹の音を鳴らすのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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