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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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スノーウルフを使った料理とアイリーンの到着



 柵は二本の縦の丸太の間に溝を作り横にした丸太を積み上げて作られている。溝に合わせて積み上げれば簡単に修復可能でありドラゴンの力とナナイの指示の前では三十分ほどで修繕を終えることができ、ドヤ顔でクロの前へと現れるキャロット。


「おう、ご苦労だったが、次からはまわりをよく見て戦うようにな。ドラゴニュートは強いがまわりに迷惑を掛けるのは一番ダメだからな」


「わかったのだ! 飴が欲しいのだ!」


「はいよ……本当に解っているんだよな?」


「わかっているのだ! まわりを気にして破壊するのだ!」


 その言葉に額に手を当てるクロだったが飴の三つほど手渡すと満面の笑みを浮かべ白亜へと走り、一つを自身で食べもう一つは白亜へと与え、白亜を撫でていたラライが半分口を開けている姿に最後のひとつをラライにあげ笑顔を浮かべるキャロット。


「力を持て余しているが良い子じゃないか」


 クロの横に並び口を開いたのはここの村の長であるナナイである。オーガの中でも力のあるナナイは元冒険者であり『悪鬼』と呼ばれ恐れられた冒険者である。子供たちが親から「早く寝ないと悪鬼と剛腕がやってくるよ」と言われるほど有名な冒険者でありギルドを半壊させた事件は有名である。


「冬ですからね。力を持て余しているといわれると、そうかもしれませんね。最近は白亜と追いかけっこするぐらいしか遊べていませんから……真面目に勉強や道徳を教えた方がいいかもしれませんね」


 三人で仲良く飴を舐める姿を見つめるクロ。その頭を乱暴にガシガシと撫でたナナイは笑顔を浮かべる。


「道徳については賛成だね。力とは所詮は暴力だからね。使い方次第では追われる身になっちまうからね」


 ああ、この人は国やギルドから追われているのだっけ……体験者からの言葉は重いです……


「主様! 外の浄化作業は完了です! 次の指示をお願いします!」


 柵の外で魔物の血を浄化していたホーリーナイトのヴァルがクロの前に帰還するとナナイは訝しげな瞳を向ける。


「また、妙なのが増えたね……イナゴ退治の時にはいなかったが……」


「私は主様に召喚して頂いたホーリーナイトのヴァル! 主様のご友人、どうか今後とも宜しく頼む!」


 フワフワと浮きながら頭を下げるヴァルに「ああ、宜しく頼むよ」と口にするナナイ。するといつの間にか現れたラライが色々な角度からヴァルを見つめる。


「可愛い! すごく可愛い! 天使の翼も可愛いし、小さな姿も可愛い! 私はラライだよ! 宜しくね!」


 元気に挨拶をするラライにヴァルは丁寧に頭を下げるが可愛いを連呼され頬を赤く染めていた。


「ほら、クロ! サボってないであんたは美味しい料理を作りなさい! スノーウルフの肉はあまり美味しくないけど、クロならどうにでもできるでしょっ!」


 解体場から叫ぶビスチェの声に立ち上がったクロはリクエストに応えるべく村の中心にある竈へと足を向け、その後ろをウキウキとした足取りで続くナナイにキャロットに白亜。ヴァルはクロの肩に留まりまわりを警戒するがオーガたちは基本的にクロと仲が良く、声を掛けられたり手を振られたりと歓迎ムードにヴァルは自然と微笑みを浮かべる。


「この肉だが美味しく料理できるのかい?」


 オーガの主婦が解体されたスノーウルフの肉を手にして頭を悩ましていたが、クロは肉質とすじの多さにある料理を思い浮かべる。


「できるだけ筋を取ったら細かく切って下さい。他にも多くの野菜と一緒に切って混ぜて使いましょう」


「あれなのだ! ハンバーグなのだ! ゴブリンの町でウルフの肉を食べて美味しかったのだ!」


「キュウキュウ~」


「ハンバーグ?」


 頭を傾げるラライにクロが口を開く。


「ウルフ系の肉は癖が強くて硬いからな。癖と硬さの元である筋をできるだけ取って、香辛料や香草と一緒に焼くんだよ。今日はまだ日も高いからひと工夫してもっと美味い料理にするからな」


 その言葉にパッと向日葵のような笑顔を浮かべるラライ。まわりのオーガの主婦たちも笑顔へ変わりクロが指示を出して料理を進めて行く。


「クロ手伝う~」


「俺たちも手伝うぞ!」


「クロ手伝わせろ!」


 主婦に続き子供たちや大人のオーガが集まり、オーガの村は真冬にも拘らず祭り前の様なウキウキした空気が漂いクロが指示を出しながら料理のペースが上がって行く。


「熱湯を入れて小麦粉を練ると弾力が増して食べ応えある生地が出来上がります。火傷には注意して下さいね」


「細かく切った葉野菜に塩をして水気を出します。この時に揉み過ぎると食感がなくなるので注意です」


「こうして伸ばした生地に混ぜた具を包みます」


「この料理は祝い事にすることが多く、お金の形を象っているとか聞いた事がありますね」


 クロが説明をしながら料理を作っていると空から文字が降って来て登場するアイリーン。


≪師匠たちは飲み過ぎでした! そして、私参上です!!!≫


 浮かぶ文字と無駄にキレキレのポーズを取るアイリーンに子供たちからは歓声が上がり、大人たちは笑い声を上げる。


「アイリーン!」


 ラライが叫び抱き着くと調理を手伝っていた他の子供たちからも抱き着かれ、アイリーンの服は小麦粉塗れになりながらも普段あまり声を出さないアイリーンから笑い声が漏れる。


「こらこら、アイリーンが小麦粉塗れだろう。手伝っていた子供たちは離れような~」


「は~い」


 クロの注意に素直に離れるオーガの子供たち。アイリーンが小麦粉塗れになりながらも笑顔を浮かべ文字も浮かべる。


≪小麦粉まみれぐらい大丈夫ですよ~浄化の光よ~≫


 慣れた手つきで浄化魔法を唱えると光が包み込み、小麦粉で白くなったコートが新品同様の輝きを取り戻すと歓声を上げるオーガたち。


「アレって洗濯いらずで羨ましいわね!」


「私も浄化魔法を覚えようかしら……」


「旦那の加齢臭にも効果がありそうで羨ましいわぁ」


 オーガ主婦たちから上がる言葉に笑いを堪えながら文字を浮かべるアイリーン。


≪エルフェリーンさまたちは明日転移してくるそうです。エルフェリーンさまのアイテムボックスに詳細を書いて送って欲しいと言っていましたよ~今にも寝てしまいそうでしたが……

 シャロンさんが心配していましたが大丈夫そうで良かったですね~そうそう、メリリさんが酔っぱらうといい感じにエロくてシャロンさんが困っていましたよ~ライバル登場ですね!≫


 文字を読み進めていると不気味に笑い始めるアイリーン。クロは浮かぶ文字に手をかけると丸め近くの竈に放り込みフライパンを用意する。


「今日作った料理はこのフライパンで油を敷いてから焼いて、少量の水を入れ蒸し焼きにします。他にもスープに入れたり蒸したり揚げたりもできますから一緒に焼いていきましょう」


 クロの言葉に歓声が上がり魔力創造を使い新品のフライパンと蓋にフライ返しが配られ更に大きくなる歓声。


「クロの魔法は本当に凄いが、あんなに作って大丈夫なのかい?」


「最近は色々あって魔力量が増えたんですよ……」


 オレンジに染まる空を見つめながら話すクロに、ナナイは『草原の若葉』にいればそうなるだろうと思いながらもクロの頭をガシガシと撫でる。


「ほら、焼き方を支持してくれ。これは美味しいんだろ」


「そうですね。キャロットの涎がとまりませんし、早く焼いて夕食にしましょう」


 キャロットと白亜からは具を生地に包んでいる時からお腹の音が鳴っており、真剣な眼差しで包む工程を手伝っていたのだ。それを焼く瞬間を凝視しながら焼き上がるのを待つ一人と一匹。他にも手伝ったオーガの子供たちも食い入るように見つめている。


「蓋を開けて水気を完全に飛ばしたらフライ返しを入れて裏に焼き目ができたら完成です。慣れないうちは焦がしたり生地が破けたりしますが、慣れれば簡単ですから熱いうちに食べましょう」


 焼き上がった餃子を皿に盛ると歓声が上がり、真似て焼いていたオーガ主婦たちも多少崩れているが焼き上がり多くの餃子が完成する。


「そのままでも味付けをしていますがポン酢や醤油に味噌なんかも合いますから使って下さい」


「これにも合うんだろ」


 クロが言い終わるとワインの樽を担ぎ現れたナナイの姿にオーガの戦士たちから今日一番の歓声が上がる。


「今日はクロたちに感謝して乾杯だ!」


≪私は酢コショウで頂きたいですね~≫


「早く食べたいのだ!」


「私は白ワインがいいわ!」


 オーガの村で乾杯の声が重なるなか、クロは今日あったスノーウルフの襲撃をまとめたメモと焼きたての餃子をエルフェリーンのアイテムボックスへと送るのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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