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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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スノーウルフ退治とキャロットの失敗



「クロ!」


 元気な声が響きシールドに乗る三名へ視線が集まり、弓を構えたオーガたちから歓声が上がる。


「ウルフ退治を手伝うわ! 誤射に気を付けなさいよ!」


「戦うのだ!」


 オーガの村を囲む柵は十メートルほどであり、それと並行して建てられている見張り台にはオーガの村長を務めるラライとその娘であるナナイが弓を構えている。柵には梯子が掛けられオーガの戦士たちが弓を射っているのだがビスチェとキャロットが参戦した事で逸れているスノーウルフに狙いを定め攻撃を再開する。


「精霊よ! スノーウルフの首を落としなさい!」


「全力でぶん殴るのだ!」


 ビスチェは安全なシールドの上から魔術と精霊魔術を使い攻撃を開始し、キャロットはシールドから飛び降り両手だけを魔化させ巨大にドラゴンの腕を振るいスノーウルフを殴り飛ばす。


「クロ! クロもこっちにおいでよ!」


「助太刀は助かるが、こいつら程度なら柵を越えられないから大丈夫だがな……感謝するよ」


 笑顔のラライと弓を構えるナナイに、クロはシールドで足場を作りながら柵を超えオーガの村へと入り多くのオーガたちから声が上がる。


「クロ! よく来た!」


「スノーウルフの肉はまずいが毛皮と角に魔石が使えるぞ!」


「それよりポーションは足りてるか? 必要なら持ってるぞ!」


 梯子に登り弓を構えるオーガの戦士たちからの声にポーションが必要かと声を掛けるが問題ないらしく、弓を射りながら言葉を重ねる。


「ポーションよりも味噌の完成を確認してくれ」


「ビスチェさまは相変わらず凄腕だが、あの娘も凄いな……」


「おいおい、殴ったスノーウルフが討ちあがったぞ……」


「ありゃドラゴニュートだな。俺らよりも力があるな……」


 下ではキャロットが襲い来るスノーウルフを殴り花火のように打ち上げ落下する。ビスチェの精霊魔法で首が刈り取られたスノーウルフも多く、中にはシャドーウルフも混じっているがキラキラとした精霊の光が通り過ぎる度にポトリと頭を落として行く。


「うわっ……こりゃ十八禁映像だ……夢に出そうだな……」


 数を減らすスノーウルフのグロ映像に顔を顰めるクロはシールドで螺旋階段を作りオーガの村へと降り立つ。するとスノーウルフの侵入に備え槍やこん棒を持っていたオーガの戦士たちから青い顔を笑われ、アイテムボックスからペットボトルの水を飲みながらその場にしゃがみ込む。


「あの血がドバドバと流れるのはいつまで経っても慣れないな……魔物の解体もアイリーンやルビーに任せ切り出しな……はぁ……」


 ひとり反省するクロの姿に軽口を言うオーガは口を閉ざし、肩に乗っていたヴァルから声が掛かる。


「主様、ご気分が優れないのでしたら精神を落ち着ける魔術を使いますが……」


「あるなら頼む……あと、戦いが終わったら多くの血が流れているだろうから浄化魔法をお願いできるか?」


「お任せ下さい! では、精神を安定させる魔術を使います。リラックス!」


 正面へと移動したヴァルの両手から光が降り注ぎ、青い顔をしていたクロの表情に血の気が戻りヴァルを見上げると両手で優しく捕まえると微笑みながら口を開く。


「すげー楽になった……ありがとな」


「はい! 我が主様の役に立てる事が私の使命です! これからも何なりとお申し付け下さい!」


 目をキラキラさせながらクロの両手に挟まれるヴァルはとても嬉しそうで、主に命令され奉仕する事が何にも代えがたい喜びなのだろう。


「クロ! そこを離れろ! 柵が崩れる!」


 上からの声に慌てて視線を柵へ向けるとメキメキと音を立てヒビが入り、クロはシールドを展開させる。クロの後ろにはナナイとラライが乗っている見張り台があり柵が崩れれば二人のいる見張り台にも少なからず影響が出ると考え、咄嗟の判断で十枚のシールドを重ねて配置する。


「クロ! 逃げて!」


 ラライの声が降り注ぎ、クロは白亜とヴァルだけでも逃がせばよかったと思いながら積み上がっている柵が目の前で崩壊し、自身に向かって来る策として利用していた丸太を見ながら全力でシールドに魔力を込める。


「倒したのだ!」


 笑顔で策を崩壊させた犯人が勝鬨を上げ、転がる丸太の先でスノーウルフの倍はあるリーダーだと思われる個体の首を魔化した巨大なドラゴンの腕で締め上げている。


「キャロット! 柵に殴りつけたらこうなるってわかるでしょ!」


「柵が脆いからなのだ! それよりも一番大きなウルフを倒したのだ!」


 柵を壊した事よりもリーダーを討伐した事を誇るキャロットは、絶命したリーダーのスノーウルフを片手で掲げクロへと見せつける。


「こっちが潰れる所だったぞ……はぁ……見張り台にも影響はなさそうで良かったよ……はぁ……」


 丸太数個がクロのシールドに阻まれゆっくりと左右に崩落し、除雪された地面へ凹みを作る。それを確認したクロは丸太に腰を下ろし大きなため息を吐きながら柵の修理方法を考えるのであった。






「作が崩れた時は肝を冷やしたが無事でよかったよ……」


 やや呆れ顔で見張り台から降りて着たナナイはすぐに指示を出し、オーガの戦士たちは外にあるスノーウルフの片づけを命じ、クロはホーリーナイトであるヴァルに浄化魔法を掛けるようにお願いをする。


「えへへ~クロが助けに来てくれたよ~」


「クロだけじゃない私たちもいるからね!」


「そうなのだ! 私が一番大きな奴を倒したのだ!」


「ついでに柵もな……はぁ……」


 大きなため息を吐きながらラライに抱き着かれるクロはアイテムボックスに入れてある飴の袋を取り出すとラライの視界に入る場所でちらつかせる。


「飴だ!」


「飴なのだ! あ~んなのだ!」


 ラライとキャロットが嬉しそうに反応し、キャロットに至っては尻尾を振り既に口を開けている。


「あ~んなのだじゃないだろ……キャロットは外れた丸太を元に戻すまでおやつは禁止だからな!」


「なっ!?」


 その一言で目を見開き膝から崩れ落ちるキャロット。彼女にとっておやつ禁止は死刑宣告のようなもので、おやつという甘味と、そのおやつを横流しして白亜へあ~んする事は白亜の巫女としての役割だと自負しているのだ。


「見た所、丸谷ヒビもないからね。あったのと同じように上からゆっくりと丸太を入れればすぐに元通りになるさ。私も手伝うから嬢ちゃんもシャキッとしな!」


 ナナイの言葉に涙が溢れそうになっていたキャロットがゆらりと立ち上がり、ナナイに抱きつくと萎れさせていた尻尾をメトロノームのように振る。


「ナナイは婆さまぐらい優しいのだ! クロとは違うのだ~~~」


「ほらほら、キャロットはドランさまの孫なのだろ。泣かないで早く終わらせるよ」


「わかったのだ! 任せるのだ!」


 頭を優しく撫でられ励まされるキャロットはナナイから離れると魔化し、大きな丸太を慎重に掴み自身の胸まである柵の修繕に取り掛かる。

 急に現れたドラゴンの姿に皆が驚くがナナイが「あれは客人だ! お前たちはさっさとスノーウルフを解体しな!」と叫びオーガたちを落ち着かせ、ラライは久しぶりに見たキャロットが魔化した姿にキラキラとした尊敬の瞳を向ける。


「クロ! 私も大きくなったらドラゴンになる!」


「キュウキュウ~」


「それは無理だと思うぞ。白亜はあれぐらい大きくなれるかもしれないが、まわりに気を使えるドラゴンに育ってくれな……」


 心から漏れた言葉に白亜はリュックから顔を出して嬉しそうに鳴き声を上げるのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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