スノーウルフ
クロたちも昼食を終えユキノシタ探しを再開すると時折遠吠えが耳に入り、この辺りに生息するグレートウルフの姿を思い出すクロ。グレートと名につくだけあってその姿は大きく軽自動車ほどの大きさがあり、大きく開けた口はクロの体が半分ほど収まるほどである。
≪早く小雪に会いたいですね~寂しがっていないといいのですが……≫
泣き声から幼いフェンリルの小雪を思い出しながらも文字を浮かべ、警戒をしながら浄化魔法で雪を排除するアイリーン。
「メリリさんも懐いていたから大丈夫だと思うが警戒は続けろよ。シャロンとメルフェルンも警戒しながら採取して下さいね」
「ウルフ系の魔物は警戒心が高く知能もあるわ。群れで行動するから足跡を見つけたら一度戻るわよ」
リーダーであるビスチェの言葉にコクリと頷く一同。キャロットだけは落ちている棒を拾うとぶんぶんと振り回し風を切る音を楽しんでいる。
「また、ウルフの声が……」
「ピィ」
不安そうな顔で呟くシャロンがフェンフェンの近くへと足を進めた時であった。
「魔物が三匹! アイリーンは私と迎撃! 残りはクロの後ろへ!」
ビスチェの指示が飛びアイリーンが糸を使い素早く前へ飛び出ると同時にビスチェも風を纏い飛び上がる。木々が密集する森の中でも枝に当たらず前へと高速で進む二人。クロはシールドを発生させメルフェルンは後ろを警戒する。
「私も戦いたいのだ!」
拾った棒を頭上でグルグルと回すキャロット。クロが背負うリュックに急ぎ入り角だけ残し紐を締める白亜。ヴァルはクロの肩から離れ近くを飛びながら辺りを警戒する。
「あの二人なら問題なく対処できると思いますので、シャロンさんは左手を離してくれないかな……」
「あ、ごめん……クロさんの近くだと安心できて……」
「ウルフ系は素早く襲ってきますから出来るだけ身軽にして、どこからでも会費や遊撃ができるように走り出す前のように構えを取るといいですよ」
「出て来ても私がひと捻りなのだ!」
「主様! 私にお任せしていただければウルフだろうが魔王だろうが討伐して見せます!」
拾った棒を振り回すキャロットとクロの前に浮かぶヴァルからの頼もしい声に「その時が来たらな」と口にするクロ。
しかし、クロは思う。ビスチェの精霊魔法だけでも十分なのにアイリーンも加わればウルフ系の魔物など瞬殺であると……事実、以前に行った狩り勝負ではグレートウルフを一人で五匹狩ったビスチェと、ギガアリゲーターを一人で狩ったアイリーンの実力を考えれば難なくこなすであろう。
「終わったわ! 収納するから早く来なさい!」
ビスチェの声が前から聞こえクロはシールドを雪の上に設置し足が沈まない様歩みを進めそれに続く一同。シールドが無ければ一メートルほどに積もった雪に足を取られ短い距離でも多くの体力が削られるだろう。
「うっ……血の匂いが濃いな……それに真白なウルフとかフェンリルに似ているが頭に角があるし、足の裏が特徴的だな……」
「これはスノーウルフよ。雪の上でも走れるように足の裏が大きくて毛も密集しているわ。この毛は防寒着に適しているけど肉はあまり美味しくわないわね」
≪フェンリルさんと一瞬勘違いして動きを封じましたが……似ているのは色だけでしたね~可愛らしさがありません!≫
現場に到着したクロは白い雪が赤く染まった現場に思わず顔を顰め、素早く頭と胴が分かれたスローウルフを収納する。
「なあ、この距離だとオーガの村が襲われているとかないよな?」
現場はオーガの村に行く途中の場所であり後一時間も歩けば村へと辿り着く距離なのだ。親交のあるオーガの村の人々やよく笑うラライの笑顔を思い浮かべるクロ。
「それはあるかも……ユキノシタ狩りは中止にしてシャロンとメルフェルンにアイリーンは来た道を戻って師匠に知らせて! 私とクロとキャロットは村に向かうわよ!」
「あの、僕もクロさんと一緒に村へ」
シャロンが声を上げ自分の要望を口にするがビスチェが口を開く。
「シャロンは一国の王子なのに無理を言わない! もし、何かあったらカリフェルさんに顔向けできないわ! グリフォンに乗る二人とそれに付いて移動できるアイリーンがいればスノーウルフからも逃げられるし、師匠に伝えて欲しいの!」
≪あのぐらいなら私一人でも対処ができますから任せて下さい! シャロンさんは愛しのクロさんが戻って来るまで家を温かくして待っていて下さいね~≫
やや下卑た笑みを浮かべるアイリーンの文字を手に取り丸めて捨てるクロ。シャロンは頬を染めながらも頷く。
「あの、無理だけはしないで下さいね……」
「ああ、安全第一で向うし、最悪の場合は師匠が何とかしてくれるからさ」
シャロンはクロの言葉に頷き、メルフェルンは心配そうに見つめるグリフォン二頭を優しく撫で落ち着かせる。
「魔化すれば敵などひと捻りなのだ!」
「キュウキュウ!」
キャロットからの頼もしい言葉にシャロンもドラゴニュートが魔化して大量のイナゴと戦い無双する姿を思い出し安堵の表情を浮かべ、グリフォンのフェンフェンの背に乗りメメルフェルンはファンファンに背を預けると、アイリーンが糸を飛ばし木々を抜け文字を残して飛び去る。
≪私も後から駆け付けますからね~≫
「本当に気を付けて下さいね!」
「無事に帰宅して下さい」
二人もグリフォンに鞭を入れ木々の間を抜け空へと飛び去り、クロたちは警戒しながら歩みを進める。
雪の上にシールドを設置しながら歩いているとウルフの遠吠えが頻繁に聞こえその度にリュックからビクリと背中に振動を受けるクロ。白亜が遠吠えの度に驚いているのだろう。
「白亜も少しはリラックスしろよ~オーガのみんなは強いし、キャロットやビスチェもいるから大丈夫だからな~」
「キュウキュウ……」
「白亜さまはクロが守るのだ! 私がウルフぐらいこうしてこうなのだ!」
声に出しながら手にしていたお気に入りの棒を折るキャロット。三等分されたお気に入りの棒を手にしていたキャロットは口をあんぐりと開け言葉を漏らす。
「私の魔剣ドボルザークが折れたのだ!?」
「いやいや、ただの棒だろ……」
「私の中では魔剣だったのだ! もうスノーウフルは許せないのだ!」
ドラゴニュートから身勝手な恨みを買ったスノーウルフに同情しながらも足を進めると、ビスチェが「しっ!」と口にして右手を開き止まれの合図を飛ばす。
「この先で多くのスノーウルフが吠えているわ。村の壁は突破されていないから安心なさい」
「それならとっとと魔化して倒すのだ!」
「それはまだやめなさい。急にドラゴンが現れたらオーガたちに狙われるのは貴方よ。スノーウルフが届かない距離までクロのシールドに乗って上まで行けば私たちが着た事を知らせられるわ。戦うにしてもそれからよ」
「わかったのだ!」
「主様、私が先行して囮になりますので、そのうちに上に登って下さい。もし私が討たれても召喚の宝珠を使えば再召喚できますし適任かと……」
「それはダメだな。それよりもすぐにシールドを作るからここから上に上がるぞ」
クロが魔力を込めてシールドを螺旋階段のように発生させビスチェとキャロットが駆け上がり、クロは目の前に浮かぶヴァルを両手で優しく捕まえると走り上がる。
「再召喚できたとしても痛いのは嫌だろ」
階段を駆け上がりながら話すクロの言葉にコクリと頭を下げるのであった。
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