聖なる原初の炎と残った者たち
寒い森の中で食べる鍋焼きうどんは美味しかったのか、ハフハフと白い息を出しながら食べ終え満足げな表情をする一同。ただ、ここで一つの問題が発覚する。
「なあ、ヴァル、白い炎が消えないのだが……」
普段なら燃え尽きるまで薪を燃やすか水をかけるのだが、水をかけても白い炎は消える事がなく、試しにバケツに水を入れそこに燃える薪を投入するが火が消えないのである。
≪ファンタジーな世界ですが水中で燃え続ける火とか、目の前で見ても信じられませんね……≫
「聖なる原初の炎……七日間燃え続け世界を丸く作り上げた聖なる原初の炎……」
「消えない炎とか危ないですよね……」
「ずっと肉が焼けるのだ!」
「キュウキュウ!」
バケツの中で燃え続ける白い炎を見つめながら好きに話し合っていると、クロは焚火台に薪を戻すとアイテムボックスへ収納する。基本的には手で触れていなければならないので焚火台の足を触り収納したのだ。大きな物なら時間が掛かる収納だか焚火台ほどの大きさなら一秒と掛からずに収納可能であり火傷する事はない。
「よし!」
「よしじゃないわよ! アイテムボックスの中でも燃え続けたら危ないわ! どうなるか……どうなるのかしら?」
クロの襟を掴み叫ぶビスチェだったが最後には首を傾げ、クロも合わせて首を傾げる。
「ほら、俺のアイテムボックスは時間停止があるから火が消えなくても問題がないかと思ってな……ダメだったか?」
「ダメじゃないけど、ダメじゃないけど、ダメじゃないけど……帰ったら師匠に安全かどうか聞くからね!」
ビスチェなりに心配をしているのだろうと思いクロは頷き、ビスチェの拘束から解放されユキノシタ探しを再開するのだった。
「うふふ、この鍋焼きうどんという料理は体が温まって美味しいですね~」
炬燵に入り鍋焼きうどんを一人で食べるメリリはある意味で冬を楽しんでいた。鍋焼きうどんを食し汗をかきながら炬燵から出て窓際へと移動し、少しだけ開けた窓から入る冷たい風に吹かれているのだ。
「寒いのが苦手なラミアが雪の残る外の空気を入れ涼むとは……うふふ、気持ちが良いですねぇ。それにしても皆さんは雪の残った中を進み雪の下にあるキノコを採取しているのですね……多少の罪悪感が湧きますが……」
「くぅ~ん」
同じ留守番である小雪が足元にじゃれつきメリリは笑顔を浮かべ抱き上げる。
「アイリーンさまたちがいなくなって寂しいですか?」
「わふん!」
元気に吠える手乗りサイズの小雪を優しく撫でるメリリは汗も引いた事で窓を閉めると小雪と一緒に炬燵へと戻る。
「小雪ちゃんは残さず食べられましたねぇ。とても偉いですよ~私も器に入れた分は残さず食べないとですね~」
膝の上に乗せた小雪が炬燵に落ちないように気を付けながら鍋焼きうどんを口にするメリリ。涼んでいた事もあり適度に冷めたうどんを口に運ぶとエルフェリーンとルビーがリビングに現れる。
「うわぁ~美味しそうな匂いがするよ~」
「これは鰹出汁の香りですね! お蕎麦ですか?」
白亜の脱皮した皮を使い何やら作っていた二人。先ほどメリリが鍛冶場へ呼びに行ったのだが「後で食べるから先に食べてて」とエルフェリーンに言われメリリだけ先に鍋焼きうどんを口にしていたのだ。
「ふぅ……私がご用意致しますので小雪ちゃんをお願いできますか?」
「はい、任せて下さい! 小雪~」
ルビーが声を掛けて招きをすると小雪はメリリの膝から飛び上がりルビーへ向かい走り出し、それを微笑ましく見つめるエルフェリーンとメリリ。ルビーが抱き上げるとメリリは席を立ち片付けながらキッチンへと戻る。
「確か、出汁を温め、麺と具材を入れてひと煮たちさせ、卵を落として蓋をして白身が軽く白くなったらエビを乗せてネギを散らせるでしたね」
クロから教わった鍋焼きうどんのレシピを書いたメモを読みながら火の残る竈にひとり用の鍋をふたつセットするメリリ。手順通りに進めているとリビングから「乾杯!」の声が響き振り向くと、二人は日本酒の瓶を開けグラスを傾けていた。
「クロさま……お二人の暴走を止められる気がしないのですが……」
玉子を落とし入れ蓋をするメリリはメモ書きの裏に文字を見つけ目を通す。
師匠とルビーが飲み始めたら冷蔵庫にかまぼこの残りがありますのでツマミに出してあげて下さいですか……
「うふふ、クロさまはお見通しだったようですね」
魔石を使った冷蔵庫から小さな箱を見つけ開けると中にはカットされたかまぼこがあり微笑むメリリ。それを持ちリビングへ向かい炬燵の上に置く。
「これはクロさまからおつまみにどうぞと言付かっています。すぐに鍋焼きうどんも完成致しますのでお待ち下さい」
「わぁ~ピンクと白で綺麗だね~」
「たしか、魚のすり身を固めて作ると耳にしましたよ! ぼこぼこですね!」
「かまぼこです」
必要な事を伝え終えキッチンに戻り鍋焼きうどんの中身を確認すると、薄っすら白く変わった白身に微笑みエビの天ぷらとネギを散らしトレーに乗せて運ぶメリリ。
「弾力のある食感が癖になるぜ~これはお酒にピッタリだよ!」
「もにゅもにゅとしていて美味しいですね! お魚の味も感じられます!」
湯気が登る鍋焼きうどんと取り皿を置いたメリリは、かまぼこを美味しそうに食べる二人の笑顔と膝で眠る小雪の姿に癒されるのであった。
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