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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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ユキノシタ狩り



 肉祭りという歓迎会と脱皮記念日を終えた翌日、クロたちは近くの森にユキノシタと呼ばれるキノコを採りに来ていた。ユキノシタは名前の通りに雪の下で育つキノコであり雪を掘り採取する。今年は例年よりも雪が多くドワーフのルビーの身長をやや超え1.5メートルほど積雪がありユキノシタを探し採取するのは困難を極めるだろう。


「なあ、これって乱獲という気がするのだが……」


 白い息と共に漏れるクロの言葉にアイリーンは笑顔で浄化魔法を唱え瞬時に消失する大量の積雪。森の中という事もあり1メートルほど積もった積雪が浄化の光で瞬時に消え失せ、エリンギの様な見た目のユキノシタが姿を現すのだ。


「私だって精霊に場所を聞いてから一生懸命に雪を掘って採取するのに……」


 ビスチェが口を尖らせながらユキノシタを採取する。


「アイリーンさまの浄化魔法は何でもありですね……」


「泥汚れや食器の洗浄に雪までも浄化するのは凄いですよね!」


 メルフェルンはやや呆れ気味に、シャロンは尊敬の眼差しを向けユキノシタを採取する。


「主様! 私でも採取できました!」


「キュウキュウ!」


「いっぱい採るのだ!」


 ホーリーナイトであるヴァルや脱皮したての白亜に、テンションを上げているキャロットはユキノシタを採取して喜びの声を上げる。


≪こんな所で浄化魔法が役に立つとは思いませんでしたが、ひとえに普段の行いでしょう!≫


 胸を張りながら浄化魔法を連発するアイリーンはドヤ顔でそこら中に浄化魔法をかけて回り採取はユキノシタ狩りに参加する者たちが行っている。ちなみにエルフェリーンとルビーは白亜の脱皮した皮を使い何やら作ると朝から張り切り鍛冶工房に籠っており、メイドのメリリは炬燵にミカンである。


「ピィィィィ」


 シャロンの愛機であるグリフォンのフェンフェンンが声を上げユキノシタと珍しいキノコを発見し鳴き声で知らせると、ビスチェが目を輝かせキノコへダイブする。


「フェンフェン偉い! ユキノシタモドキよ!」


「ユキノシタモドキ? 偽物なのにそんなに喜ぶものなのか?」


「当たり前じゃない! 幻のキノコと呼ばれるのよ! 見た目はユキノシタに似ているけどほら、ここを見て」


 エリンギそっくりなユキノシタモドキの軸の部分には薄っすらと白い模様が浮かんでいるのが確認できる。指摘されなければわからなかっただろう。


「ああ、小さく文字の様な……文字?」


 目を凝らし軸に浮かぶ文字の様な模様を見つめるクロにビスチェは口を開く。


「これは精霊が住んでいたのよ! 小さく見える文字は魔法陣の起源と言われているわ! この文字を解析して今の魔法陣が、魔法が、魔術が出来上がったのよ!」


 ドヤ顔でユキノシタモドキを天に向けるビスチェ。


「何だか凄そうですね……」


「魔法陣の起源……」


 近くにいたシャロンとメルフェルンが感心したように掲げるユキノシタモドキを見つめ、クロは何気なく思った事を口にする。


「それで食べられるのか?」


「食べられるけど美味しくわないわね!」


 何故かドヤ顔で答えるビスチェにクロは関心がないのかすぐにユキノシタ採取へと戻り、シャロンとメルフェルンも近くにあるユキノシタへ足を向け、発見したグリフォンは気まずそうな瞳を主人であるシャロンへと向けぬかるむ地面をゆっくりと進む。


「もうっ! 錬金素材としては一級品なのに! 食べる事しか考えないとか錬金術士失格よ!」


 ビシッとクロへと人差し指を向けるビスチェ。


「食べるなら肉がいいのだ!」


「キュウキュウ~」


「私は主様が作っていただけるものなら、それが一番です!」


 キャロットに白亜は楽しくユキノシタを採取し、ヴァルも自身で浄化魔法を使いながらユキノシタを発見してはカゴに入れて行く。


「あっ、シロモモンガですよ。小さくてカワイイですね」


 シャロンが木を見上げ穴から顔を出すシロモモンガを発見し口にすると皆が顔を上げ見つめる。


「肉なのだ!」


 キャロットの言葉が通じたのか、それとも一斉に見られ恐怖したのか木の洞へと顔を引っ込めるシロモモンガ。


「逃げたのだ!」


「キュウ~キュウ~」


「そりゃ逃げるだろうよ……ん? そろそろ昼食にするか?」


 クロのコートをクイクイと引っ張り甘えた声を上げる白亜にクロが声を掛けると、キャロットが目を輝かせ白亜も全力で尻尾を振りヴァルはクロの肩へと舞い降りる。


「それなら精霊たちは辺りを警戒して」


 キラキラと光りが舞い精霊たちが動き出し、クロは焚火台を地面に置くとテーブルと折り畳み式の椅子を用意する。


「僕も手伝います!」


「主様、私も手伝わせて下さい!」


 シャロンとメルフェルンが椅子を広げ設置し、ヴァルはテーブルに食器を並べ始める。


≪異世界で雪山キャンプができるとは思いませんでしたね~≫


「キャンプも道具の持ち運びや片付けが簡単だから、こっちの世界の方がやりやすいのかもなっと、薪はこれでいいとして火を」


「主さま! お任せ下さい!」


 炎の魔剣に手をかけようとした所でクロに声を掛けたヴァルは薪が投入された焚火台の前へと羽ばたき手を翳す。


「聖なる炎よ、我が声を聴け、その息吹、原初の炎をとなりて、我が求める力となせ、ホーリーフレア!」


 詠唱をしたヴァルの前に魔法陣が現れライターほどの白い炎が揺らめき薪へと落ちる。すると薪に広がり白い炎が揺らめき薪の外側は赤く燃えているのだが上がる炎は白くファンタジーらしい現象に目を見開くクロ。シャロンやメルフェルンにアイリーンも同じように目を見開き驚いているのだろう。


「せ、聖なる原初の炎とか……伝説級の魔術……」


 顔を引き攣らせ白く揺らめく炎を見つめ言葉を漏らすビスチェ。


「白いのだ!」


「キュウキュウ!」


 珍しい現象に誰もが目を奪われ燃え上がる白い炎を見つめ、良かれと思って着火したヴァルは硬直するクロたちにどうしていいか解らずあたふたと短い手足を動かす。


「あ、主様、何か問題がありましたか! 主様!」


「え、いや、まあ、そのなんだ……炎が白いけど鍋が焦げたりするのかなと……」


「それは問題ありません! 聖なる炎は煤も上がりませんので鍋の底が焦げる事はありません! 毒物や瘴気なども浄化する優れものです!」


「それなら大丈夫だな」


 そう口にしながら蓋のされた鍋を置くクロ。


「おお、鍋のまわりの焦げが落ちているな……」


 土鍋の外側に付着した煤が白い炎に当てられ新品同様の輝きを取り戻しはじめ驚くクロ。アイリーンの浄化魔法で毎回新品同様に綺麗になるのだが、この土鍋は先に具材を入れ煮込み温かい状態を保ちアイテムボックスに入れてある。底には煤が付着していたのだ。それがすっかりと落ちながらも蓋の隙間からは湯気が上がり再度沸騰していることが確認できる。


「神が最初に大地に熱をもたらした原初の聖なる炎で料理とか……鍋を温めるとか……」


 顔を引き攣りが戻らないビスチェはクロが用意した熱々の鍋焼きうどんを口にしながらもプルプルと震え続けるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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