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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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白亜の成長



 ユキノシタというキノコを求め準備を進めていると白亜が飛び上がりクロの胸にゆっくりと治まる。


「ん? どうかしたか?」


 胸に収まる白亜にクロが話し掛けると首を横に振り、仕方なく炬燵用のある段差に腰を下ろすと膝の上に丸くなる白亜。


「準備ができたのだ!」


 ドラゴニュート用に用意したダッフルコートには角が入れられるように穴があけられており赤い角が伸び、ご機嫌にクルクルと回りコートの裾を躍らせるキャロット。シャロンとメルフェルンも用意を終えたのか厚手のコートに分厚い手袋を装備し、ビスチェとアイリーンも同じようにコートを着て準備を整える。


「なあ、白亜はキノコ狩りに行きたくないのか? 白亜用のコートもあるんだぞ」


 優しく白亜の頭を撫でながらクロが話し掛けると首をフルフルと横に振る白亜。


 クロは思う。イヤイヤ期が来たのかもしれないと……


 イヤイヤ期とは二歳前後の子供の自己主張が強くなり、何をしようといってもイヤイヤと首を横に振り親を困らせる現象である。三、四歳で落ち着くとされているが個人差がある。


「まいったな……じゃあ、一緒に留守番するか?」


 その言葉に頭を上げてコクリと立てに振る白亜は、またクロの膝に頭を置きゆっくりと撫でられ続ける。


「ビスチェ、悪いけど白亜がぐずっているから不参加にするよ」


 クロの言葉に一斉に振り向く乙女たち。シャロンに至っては口を半開きにしてショックを受けている。


「白亜がぐずってるなんて珍しいわね……」


≪白亜ちゃん用のコートが気に入らなかったのかな? 力作だと思うのに……≫


 アイリーンが白亜用に用意したポンチョのようなコートを持ちヒラヒラとさせ、ルビーも困った顔をしながらアイテムバックにウイスキーを三本ほど入れ、シャロンは四つん這いになりながらクロの膝で丸くなる白亜を覗き込む。


「力作といえばお昼用に用意した豚汁とおにぎりとかはビスチェのアイテムボックスに送ってあるからな。あっちで軽く温めてから食べれば、」


「それなら明日にしようか。どうせなら白亜にもユキノシタの取り方を教えたいからね~今日はみんなでお弁当を食べようぜ~」


 コートを着て準備を終えたエルフェリーンが階段から降りながら口にするとクロは自然と微笑みを浮かべる。


「うふふ、それでしたら私が豚汁を温めますねぇ。ひとり寂しく留守番しなくてもよくなりましたのでお手伝いしますよ~」


 嬉しそうに口にするメリリだが炬燵から出る気はないらしくニコニコと微笑みながら炬燵の上にあるミカンに手を伸ばす。


「白亜さまはどうしたのだ? 元気がないのだ!」


「キャロットは元気がいっぱいだな。半分だけでも分けて欲しいよ」


「分けるのだ! 私の元気を分けるのだ!」


 そう叫びながら白亜の背中に手を置くキャロットが背中を優しく摩ると白亜が顔を上げ「キュッ」とひと鳴きする。


「気持ちがいいと言っているのだ! もっと摩るのだ!」


 白亜の鱗を磨くように摩り続けるキャロット。革製の手袋を装備している事もあり白い鱗が鏡のように輝きを増す。


「う~ん、白亜が急に元気がなくなったけど……鑑定! おおっ!? 凄いよ! 白亜がっ! 白亜がっ!」


 エルフェリーンが鑑定のスキルを使い目を見開き声を荒げ視線を集め、鑑定内容に耳を澄ます一同。すると次の瞬間、ベリと音が響き悲鳴を上げるキャロット。


「白亜さまの背中が破れたのだ!? 大変なのだ! 大変なのだぁぁぁぁぁぁ!!!」


 キャロットが言うように白く美しい白亜の背中に亀裂が入りクロは慌ててアイテムボックスからポーションを取り出し、アイリーンも傍に駆け寄り回復魔法を使おうとするがエルフェリーンから待ったの声が入る。


「二人とも待って! そのまま脱皮させよう! 白亜は脱皮が近い事を知って動こうとしなかったんだよ。脱皮は安全な場所を確保してから脱皮をするからね~クロの膝の上を選んだんだぜ~」


 微笑みを浮かべ口にするエルフェリーンにホッと胸を撫で下ろす一同。中でも膝に白亜を乗せているクロは大きくため息を吐き白亜の頭を優しく撫でる。


「まったく……心配させるなよ……白亜の脱皮に立ち会えるのは嬉しいが、先に言ってほしかったよ……はぁ……」


「キュウキュウ……」


 弱々しい鳴き声が太ももに伝わり撫でる手を動かしながら白亜を優しく見つめるクロ。


「いや~白亜の脱皮かぁ~古龍の抜け殻や鱗は最高級の錬金素材だぜ~皮は柔軟性があって魔力伝導率が高く、鱗は強靭でありながら魔力を通せば柔らかく加工もしやすい優れモノだ! 鱗のサイズが小さい事を除けば素晴らしい防具が作れるぜ~」


「今思えば脱皮の兆候はあったわね! 背中をよく柱に擦り付けていたしキャロットが掻いていたわね!」


「最近はよく頼まれたのだ! 背中が痒いと言っていたのだ!」


 誰もがクロの膝で身を丸める白亜のまわりに集まり脱皮という貴重な瞬間を見つめる。背中からヒビが入りゆっくりとだがヒビが広がり、その隙間皮は新しい白い鱗が見え鱗のサイズも若干ではあるが大きくなっていることが確認できる。


≪脱皮とか懐かしいですね~この体になってからは脱皮していませんが蜘蛛の姿の時には何度か経験しましたよ~その都度、胸が大きく鳴れ~大きく鳴れ~と……蜘蛛なのでアレでしたが、今思えばもっと真剣に願っていればと……≫


 胸の小さなアイリーンの悩みにルビーとビスチェが無言で頷き合い固い握手をするなか、丸めていた背から新しい白亜がヌルりと姿を現し、首を上げクロと目を合わせると「キュウ!」と元気な鳴き声を上げる。


「おお、綺麗に脱皮できたな!」


「キュウキュウ!」


「こんなに綺麗な脱皮を見たのは初めてだよ~すべて繋がってるぜ~翼の所とかは芸術作品のようだよ~」


 脱皮を優しく手に取ったエルフェリーンは崩れないよう慎重に持ち上げる。


「脱皮したての鱗は薄っすら透き通って見えますね」


「まるで薄い氷のようです……とても綺麗ですね……」


「時間が経てば硬くなるのだ! この時に無理をすると次の脱皮まで変な癖がついて大変な事になるのだ! 爺様の頬が二十年間も曲がっていた事があるのだ!」


 キャロットの祖父であるドランの顔を思い出し笑い出すエルフェリーンとビスチェ。他にもクロやアイリーンなども笑い声を上げる。


「今日は白亜の脱皮記念日で宴会だ!」


「ヴァルの召喚記念日でもあるわよ! クロがとびっきり美味しい料理を作ってくれるから楽しみにしていなさいね!」


 エルフェリーンが脱皮を掲げ叫びビスチェがヴァルを指差し叫ぶと六枚ある羽が開きクロの頭へと着地する。


「召喚記念日……主様!? 本当ですか!?」


「ああ、昨日は夕食の後だったから師匠には昨日のうちに宴会をしようとお願いをしたからさ。ヴァルと白亜の記念日に夕食は色々と作るからな」


「楽しみなのだ! 肉なのだ!」


「キュウキュウ!」


「か、感謝いたします!」


 キャロットが立ち上がり肉と叫ぶと白亜も喜びの鳴き声を上げ、ヴァルも薄っすらと涙しながらクロの頭上で片膝を付く。


「昨日から思っていたけどヴァルの鎧が地味に痛いから頭の上で膝を付くのは禁止な……」


「も、申し訳ありません!?」


 慌ててクロの頭から飛び降りたヴァルは床でワンバウンドしながら着地し、膝に横になる白亜と微笑み合うのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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