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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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ヴァルの能力と朝食



 朝食はヴァルでも食べやすいようサンドイッチと温かいスープに野菜たっぷりのオムレツを用意すると、ヴァルは左手の下に紙を置き右手を料理に向かい翳す。


「いだだきますなのだ!」


「キュウキュウ~」


 最近ではいただきますの掛け声も定着しキャロットなどは一番に口にして食事を始める。キャロットの中では食べ始める合図として認識しているのだろう。


「ヴァルは何をしているのかな?」


「はい、これは転写の魔術です。主様からの糧を絵にして創造神さまに味を報告するのです。昨晩は同じものを食していたそうなのでしませんでしたが、我が使命として報告したいと思います」


 ヴァルが言うように左手にはサンドイッチが描かれ、スープやオムレツの絵がコピー機を見るように描かれて行く。


「これは便利な魔法だね~光を使い色を読み取って魔力で神に写しているぜ~近い魔法は知っているけどもっと大掛かりで魔力を使うものだったはず……」


「この魔法が使えれば本をたくさん売り出せるわね!」


≪腐腐腐、これはこの世界にBLを普及させる活動ができますよ!≫


 腐った文字が浮かび上がりそれを掴むと暖炉に向かいワイルドピッチするクロ。


「絵の方はこれで完成です。後は味の報告ですね」


「うふふ、このスープは体が温まります~コショウと生姜を入れているのですね」


「鶏がらベースの醤油スープにコショウと生姜を多めに使いました。師匠と白亜のは生姜とコショウは少なくしてあるので辛くはないですよ」


 スープを口にしようとしていたエルフェリーンの手が止まっていたがクロの言葉に安心して口にする。


「うん、辛くないよ~寧ろ甘いね! 玉ねぎの甘さかな~美味しいよ!」


「主様、この魚はツナ缶というものですね。作業を見ていましたがマヨとの相性がとてもよく感じます。それに葉野菜とハムにチーズもマヨが少量使われていますね。シャキシャキとした食感が素晴らしいです」


 目を輝かせながら話すヴァルからの食レポというよりは分析にクロはスープを食べる手を止める。


「ツナサンドだな。作る工程は一緒に料理したから見ていたと思うけど、ヴァルがそれを提出するのは女神ベステルさまだよな?」


「はい! 自分はシャドーナイトとしてダンジョン神さまから生を受けましたが、創造神ベステルさまより真逆の聖属性として生まれ変わらせていただきました。創造神さまはクロさまの料理をとてもお褒めになっており、このレポートを提出し更なる美食をお求めなのです」


「要は気に入ったレポートがきたらその料理をクロにお願いするとかかな?」


「はい! きっとそうだと思います! 我が主様の料理は最高のものであります!」


 エルフェリーンの質問に答えるヴァルは胸を張りキラキラとした瞳をクロへと向ける。が、クロは思う。それはスパイという仕事だと……


「まあ、好き嫌いなく食べてくれればいいからな……今日はみんなでキノコ探しでしたっけ?」


「そうだぜ~風もなく日差しもあるからユキノシタを探すには丁度いい日だぜ~」


「ユキノシタは雪が盛り上がっている所に生えているから見つけやすいわ。ただ、雪の下に生えているから掘るのが大変だけどね。胃炎や胃腸の働きを良くする効果があって薬に使えるのよ。錬金素材としても優秀で状態異常ポーションも作ることができるわね」


 ビスチェからの説明を真剣に耳を傾けるクロ。その横で尻尾を揺らし喜ぶ白亜とキャロット。


「今日は結界の外で遊べるのだ!」


「キュウキュウ~」


「遊びじゃなくてキノコ採取な。勝手に遠くへ行って迷子になるなよ」


「大丈夫なのだ! 迷ったら魔化して上から家を探すのだ!」


「キュキュウ!」


 キャロットがいうように魔化して大空からならこの家も見つけやすいだろう。吹雪の中でなければだが……


「それでも遠くに行くのはダメだからな。ここは結界の中だから暖かいけど日が落ちたりしたら凍え死ぬからな」


 クロの言葉に揺れていた尻尾がピタリと止まり頭を縦に振る白亜。キャロットも「わかったのだ!」と元気な返事をするとオムレツに齧り付く。


「うふふ、クロさまは白亜さまとキャロットさまのお父様ですねぇ。私は留守番をしておりますので気を付けて行ってきて下さいね」


 微笑むメリリはしれっと留守番を宣言する。メリリの種族はラミアであり寒さに弱い種族である。無理に雪の中に放り込めば冬眠する可能性もあるのだ。


「シャロンさま、雪の上は普段よりも歩きづらくバランスを取るのが難しいです。一度雪の上を歩く練習をした方が良いかもしれません」


「そうだね。僕の腰ぐらいまで雪が積もっていたから緊急時の対処法なども……クロさんに教わりたいです」


「ああ、それなら俺がシールドを足場に出すからそんなに気にしなくても……雪の上を歩けるかんじきも出しますから大丈夫だと思うぞ」


≪クロ先輩は阿呆です~そこは俺に任せてくれ、と言いながらきりっとした顔をするのが男でしょうに~≫


 スープを口にしながら文字を浮かべるアイリーン。シャロンはその文字を見て頬を染めクロは顔を引き攣らせる。


「何にしても暖かい恰好をしないとだな……ヴァルは鎧姿だけどコートとか持っているか?」


「主様、私は騎士であり寒さなどに負けるはずがありません!」


「えっと、その考え方に疑問が残るが……アイリーンにお願いしてコートを作ってもらおうな」


≪それなら昨日のうちにジャジャジャ~ンです!≫


 文字が浮かびアイリーンのアイテムバックから白のモコモコとしたフード付きのコートを出すと立ち上がり見やすいように広げ、更にマフラーと手袋に靴まで用意されている。


≪サイズも大丈夫だと思いますが食事が終わったら一度着てサイズを合わせましょうね。すべて防水加工してありますから雪の中でも快適に歩けますよ≫


「これは……アイリーンさま、何とお礼を申したら……」


 目を輝かせるヴァルはキラキラとした瞳をコートに向ける。


「ヴァル用のかんじきはどうするかな……こんなに小さいサイズは流石に……」


「主さま、ヴァルは基本浮いていますから問題ありません! 主様の肩に乗りいつでも攻撃ができるよう待機しております!」


 ゆるキャラを常に肩に乗せている自身の姿を想像するクロ。それを受け入れるまでそれなりの時間が必要だろうと思いながら朝食を進める。


「くぅ~ん」


 炬燵で朝食をしている事もあり先に食べ終えた幼いフェンリルの小雪はクロの膝へ現れ、その口には小雪用のエサ入れを咥えている。


「足らなかったか? それじゃあ少しお高いドックフードも食べるか?」


「わふん!」


 アイテムボックスから少しお高い犬用の缶詰を出すとご機嫌に尻尾を揺らし、開封して皿に乗せると夢中で口にする小雪。


「主様、それはいったい?」


「ああ、これは俺の世界の缶詰というものだな。犬用のものだから女神さま方にお供えはしないぞ」


「そうなのですか、あまりにも美味しそうに食べるので美味しいのかと思いましたが……」


「キュウキュウ~」


 小雪が食べる缶詰を羨ましそうに見つめる白亜は甘えた鳴き声を上げ、クロの背中に近づきグリグリと頭を擦り付ける。


「白亜はこれ好きだったよな……いつもより食べすぎな気もするが少し食べるか?」


「キュウキュウ!」


 嬉しそうな鳴き声を上げるとクロから離れ、新しいお皿を手にしてクロの前に座る白亜。


「じゃあ、半分だけにしような。残りは後で……ヴァルも食べたいのか?」


「宜しいのですか!?」


 小さく口を開け開封したドックフード缶を凝視する姿に一応声を掛けたのだが思いのほか嬉しそうな驚きを見せるヴァル。


「味見程度にな」


 白亜とヴァルにドックフード缶を分けると白亜は夢中で口にして尻尾を振り、ヴァルは艶のある解された肉をフォークですくい口に運ぶ。


「美味いか?」


「……………………」


 ヴァルは立ち上がり食べかけの皿を持つと無言で小雪の元へ向かうのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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