正座と精霊
三等身のホーリーナイトはすぐに白亜と仲良くなり、白亜と共に吹き抜けを飛び回る姿にクロは安心感を覚えるが、どの程度の強さがあり何ができるのかを把握しようと吹き抜けを見つめる。
「飛行速度はそれなりに早いな……小回りも利いて急停止もできるのか……」
≪それよりも名前を付けてあげるべきだと思いますよ~≫
アイリーンからの文字にその事を思い出すクロ。
「名前か……う~ん……ホーリーナイト、白い六枚の翼、三角錐の変な武器、白い鎧、ゆるキャラ……」
≪白亜ちゃんの背中に乗れば竜騎士ですね~≫
「竜騎士か……何かカッコイイな……ん? 北欧神話とかで戦場で亡くなった戦士をスカウトする天使とかいたな……確か…ヴァルキリー? ヴァルキュリア? ヴァルヴァロ?」
≪ワルキューレとかもそうですね~ヴァルヴァロは知りませんがヴァルちゃん、ワルちゃん、キュリアちゃん、キューレちゃんとかですかね≫
吹き抜けを飛び回り嬉しそうに鳴き声を上げる白亜。その後ろにぴったりと付き部屋の説明でもされているのか急停止して何やら呟くホーリーナイト。
「ら、ライバルなのだ……私のライバルが現れたのだ……負けないのだ!」
拳を握り締め飛び上がったキャロットはライバル心を剥き出しにしてホーリーナイト目がけ、それに気が付いた白亜とホーリーナイトは逃げるようにして吹き抜けを飛び回る。
「ぷはぁ~仲良く飛び回る姿は楽しそうでいいね~新しい仲間は翼がいっぱいあって可愛いよ~」
「六枚も翼のある天使には驚いたけど、彫刻のホーリーナイトよりも可愛いのは確かね」
「体のバランスが不思議ですが飛び回るのには小さな体の方が便利なのかな?」
「鳥は基本的に体が小さいですね……妖精たちよりも早く飛んでいるように見えます……」
「私的には鎧やランスを見せて欲しいですね……鉄らしさがない真白な鎧やランスの形状に興味があります……」
皆で顔を上げ吹き抜けを追いかけまわす姿を見つめ感想を言い合っていると、白亜がクロの胸に着地というタックルをしかけクロは何とか受け止めると、ホーリーナイトがクロの頭にふわりと着地し、その後ろからキャロットがクロ目掛けタックルを仕掛ける。クロと大きな胸に挟まれた白亜が「キュ~~~~~」と鳴き声を上げ、キャロットは満面の笑みを浮かべ「楽しかったのだ!」と叫び、何とか受け止めクロは眉間に深い皺を作りながら声を荒げる。
「おいこら……身勝手に部屋の中を飛ぶのは構わないが、俺にタックルをするのは違うだろ……お前らが思っているよりも遥かに痛いからな……白亜にキャロットとヴァルは正座!」
「く、クロが怒ったのだ!?」
「キュウキュウ~!?」
すぐに逃げ出そうとするキャロットと白亜は素早くクロから離れ飛び立とうとする。が、クロが口を開く。
「逃げたら食事抜きだからな……」
その言葉に広げた翼はピタリと止まりゆっくりと振り向く一匹と一人。ホーリーナイトは既に正座の姿勢になりクロを下からキラキラした瞳を向けていた。
「名前はヴァルでいいかな?」
「ヴァル………………はい! 我が主さま! 今日この時からヴァルは主様の剣であります!!!」
正座をしながら頭を下げるホーリーナイトのヴァル。その横に青い顔をした白亜とキャロットが正座の体制を取るとクロは口を開く。
「いいか、部屋の中を飛び回るなとは言わないからな、誰かにぶつかったり物を壊したりしないこと! 特に師匠とビスチェの部屋や錬金小屋と鍛冶小屋での飛行は禁止だかなら! 危険なものが多いし……ああ、アイリーンの部屋には進入禁止な! あそこの部屋は危険……いや、腐っているから近寄るな!」
「クゥ~ン」
三人の前で声を荒げるクロの足元に幼いフェンリルの小雪がじゃれつき思わず表情を緩めるクロだが、差し向けた魔窟の主であるアイリーンに冷たい視線を向けると吹き抜けに糸を飛ばし上へと消え去りため息を吐くクロ。
「ヴァルは特に注意だからな」
「はっ! 入ってはいけない部屋がある事は理解致しました! あの、その可愛らしい生物は……フェンリルでしょうか?」
クロの足元に頬を擦り付ける小雪を瞳で捉えて離さないヴァル。どうやら幼いフェンリルの可愛らしさに興味があるのだろう。
「種族はフェンリルで間違えないぜ~名は小雪。先日仲間になった君の先輩だね」
「小雪……可愛らしい名前ですね!」
「わふっ!」
名を呼ばれた小雪は正座するヴァルへと向きひと鳴きすると走り出し正座する膝の上に乗ると頬をペロペロと舐め、ヴァルはどうしていいのか解らずあたふたする様にまわりは笑い声を上げ、メリリがそっと近づき「うふふ、優しく撫でてみて下さい」と助言をすると恐る恐る手を伸ばし背中を撫でると尻尾が全開にまで振れ、三十秒も撫で続けると慣れたのか笑顔で撫で続ける。
「可愛いです! 小雪は可愛いです!」
「わふっ!」
新入り同士の交流は笑顔で続き、その横で若干忘れられた白亜とキャロットは足を痺れに苦悶を浮かべるのであった。
皆が眠りについた深夜、クロは一人ベッドから抜け出しカーテンから漏れる明かりに誘われるように窓際に立つ。
久しぶりに明るい夜だな……
カーテンを少しだけ開け見える二つの月はどちらも丸く異世界らしい風景が広がり、空を泳ぐ魚や平泳ぎをするカエルが視界に入り精霊が見えるほど魔力が活性化している事に気が付くクロ。
やっぱり魔力暴走してから俺の魔力が増えているのかな……ある程度魔力を使って……お酒に調味料と食品にお菓子を魔力創造しておくか……
手を翳し魔力創造でウイスキーやブランデーに日本酒などの酒や、醤油に味噌やカレールーに米やパンなどを作り出していると、急ごしらえの小さな座布団ベッドから起き上がるホーリーナイトのヴァルがむくりと起き上がる。
「むにゃむにゃ……主様?」
目を擦りながら起き上がったヴァルの声にクロは振り向き口を開く。
「ごめん、起こしちゃったか。まだ夜だからゆっくり寝てくれ」
「ふぁい……」
起き上がった体をゆっくりと倒し再び眠りにつくヴァルの姿を微笑みながら見つめる。
三等身のホーリーナイトも睡眠を必要とするのか……妹が小さい時を思い出すな……いつも俺の後ろを追いかけて、二段ベッドの上にあがって一緒に寝たっけ……
すやすやと眠るヴァルを見ながら魔力創造で食品を作りアイテムボックスへと収納していると、精霊だろう小さな光が三つほど窓ガラスを通過しまだ収納していない日本酒に集まりグルグルと回る。
幻想的だな……異世界らしいけど日本酒に興味があるのか?
日本酒の瓶のまわりを楽しそうに飛び交う小さな光に見惚れていると再びむくりと起き上がるヴァル。
「主様……精霊ですか?」
目を擦りながら起き上がったヴァルは六枚の翼で飛び上がるとクロの横に舞い降り、うとうととしながらピタリとくっつき日本酒のまわりを飛び交う小さな光を見つめる。
「たぶんな……最近は魔力が増えたのか前よりも精霊がよく見えるようになったな……」
「まだ幼く小さな精霊ですね。主様の生み出す異世界の物に興味を引かれたのでしょう」
「ああ、ビスチェが前に言っていたな……魔力創造で作り出したものは基本的に魔力で構成されているから精霊が興味を持つとか……」
「生まれたばかりの精霊はふわぁぁぁぁあ、失礼しました」
「俺ももう寝るからヴァルも寝ような」
「ふぁい……」
クロは目を擦るヴァルを優しく持ち上げるとヴァル専用の座布団ベッドに運び自身も眠りにつくのだった。
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