すき焼きと反省
「すっきやき! ヘイ! すっきやき! ヘイ!」
天界の一室では大声ですき焼きコールをする女神ベステル。その横で完全に無視しながらもグツグツと煮えたすき焼きに肉を追加する愛の女神フウリン。梅酒を片手に生卵を溶いた器に入れられた春菊を口に運び満足そうに頷く叡智の女神ウィキール。豆腐を口に入れあまりの熱さにビールを流し込むダンジョン農法神ケイル。
そして、その様子を眺めながら反省中と書かれたタスキをエメラルドの体に巻き付けられているダンジョン神。
天界では夕食として献上されたすき焼きを四柱の神たちが堪能し、反省していた。
「ぷはぁ~生卵が安全に食べられるのはあっちの世界でも凄い事なのよ~その生卵が活躍するのがこのすき焼きって事よ!」
「甘辛く煮こまれたぁ肉や野菜を生の玉子で絡めるとぉ味がまろやかになりますねぇ」
「うむ、この蕩けるような肉が堪らないな……梅酒とも相性が良く、少し苦みのあるこの春菊とよく合う……」
「と、豆腐だけは注意して下さい。生卵に入れても中はマグマのように熱々です」
『少しでいいからそのすき焼きなるものも分析させてほしい。新たなダンジョンの宝に加えたい』
調味料や料理をダンジョンの宝に加え、更にはダンジョンの攻略難易度を下げた事もあり海のダンジョンは褐色エルフたちがよく顔を出すようになったのだ。まだ十階層までしか改装作業が終わっていないが十階層まですでに攻略されたほどである。
「それにしても宝箱の中身を調味料にしたり料理にしたり、ましてや料理をする鍋にしたり……クロの発想は面白いわね! すき焼きにする許可は私が出すわ!」
「我々もダンジョンを攻略したくなりますねぇ」
「うむ、海のダンジョン以外でもそういった宝箱を増やせば魔物討伐が捗り魔力が循環するだろうな」
『それについては試験的にやっていく心算である。既に柔らかいパンやチョコや飴といった物を配置して冒険者が喜んでいたぞ。特にチョコが人気で多くの冒険者が挑んでいる』
「クロ殿に感謝ですね。ダンジョンがこの星のマナを循環させる役割があると知った時は驚きましたが、人がダンジョンを攻略するのには魔物を退治する必要があり、魅力的な宝が出なければ危険なダンジョンを攻略する気も起きないと言うことですね。攻略する側の事を考え難易度を設定するのも必要だと……」
≪海のダンジョンはマーマンや人魚などが攻略をすれば良いと思っていたが、肝心のマーマンや人魚はそういった欲が乏しい……≫
「海は食の宝庫! そこに暮らすのは大変だものね~自分たちを狙う肉食の魔物だって多くいるわ。大型の魔物も陸に比べればはるかに多いし、って! そのお肉は私のよ!」
「これは私が育てましたぁ~あむあむ……はうぅぅぅ、美味しいですぅ~」
「ふひゃっ!? この長ネギも中が熱々で注意して下さい!」
「私は春菊と白滝が好みだな。味が染みた白滝は卵と良く絡む……」
「ぷはぁ~すき焼きにはビールね! 鍋にはビールが一番だわ!」
ビールを飲み干すと立ち上がり、改良し白く変色した召喚の宝珠を手にする。
「あらぁ、宝珠が白くなっていますぅ」
「シャドーナイトを呼び出す宝珠だったはずだが……」
≪シャドーナイトは召喚者の陰に潜み守る事ができる素晴らしい魔物……死者のダンジョンの褒美として最高の物を用意した心算だったのだが……≫
「確かに陰に潜める召喚獣で守るのは良いアイディアだわ。そこはダンジョン神が言う通りかもしれないけどね~クロの能力を考えると相性が悪いのよ~ほら、私を象ったシールドを使えばアンデットを軽くひと捻りじゃない。それなのにアンデットを召喚獣にしたら気を使って私のシールドを使わなくなるわ。それが原因でクロが命を落としでもしたら……」
手にしていた白い宝珠を指先の上で器用に回しながらダンジョン神を見つめる。
≪確かに相性が悪いな……しかし、死者のダンジョンを攻略した褒美なら死者に関する物の方が良いと考えたのだ……心魂の香やネクロミノコンなどはエルフェリーンが持っているだろうからな……≫
「あの、ダンジョン神さま、クロ殿はとても仲間思いであると私は思います。そのクロ殿がシャドーナイトに気を使い女神シールドの使用を躊躇う可能性は大きいと……」
≪ん?………………シャドーナイトは魔力に応じて死しても再召喚ができるのにか?≫
「それでも気を遣うのがクロよ! それに私の質問の答えになっていないわね。いいかしら、私たちがこうして美味しい料理とお酒が飲めるのは誰のお陰かしら? 前なんて百九柱分の酒と寿司を用意してくれたのよ。そんなクロが死んだりしたら私ら以外にも多くの神がダンジョン神の敵になる事になるのよ……」
女神ベルカの言葉にエメラルドのボディーがブルーサファイアのように変化する。
「武具の女神フランベルジュやぁ料理の神ソルティーラもぉ激怒しますねぇ」
「それだけじゃない……下手したら神たちがダンジョンで大暴れする可能性だってあるのだからな。まあ、真っ先に動くのはこの御方だろうけど……」
立ち上がり白の宝珠を指の上で回していた女神ベステルへ視線を向ける叡智の女神ウィキール。
「当たり前じゃない! クロがいるから仕事も頑張れるってもんでしょ!」
そう言いながら回していた白の宝珠を軽く投げ虚空へ消え、席へ戻ると新たなビールを開封する。
「言っておくけどクロはまだまだ多くの料理や酒を知っているし創造できるからね~料理や酒以外にも多くの異世界文化をこちらの世界に広める事だって可能なのよ。それを加味して反省なさい。グビグビ……ぷっはぁ~~~~~」
≪申し訳なく思う……≫
「酒を飲みながら説教しても……まあ、いいか……この鍋の〆はどうするのだ?」
「うどんか卵とじね。私は卵とじにしてご飯にかけて食べたいわ」
「うどんとはぁ白いツルツルですねぇ」
「私は参加させていただけるだけで光栄ですので……」
「それなら大き目な具材を……よし、ダンジョン神よ。少ないがこれを取り込み分析せよ」
鍋に残った具材を溶いた玉子に入れ吸収させる叡智の女神ウィキール。ダンジョン神には味覚というものがないがその栄養成分などを分析し再現する力があり、それをダンジョン内の宝箱の中身に再現するのである。
≪感謝する……ウィキールが気に入っていた酒も分析できれば定期的に送る事もできるが……≫
「それは助かりますぅ~私はカクテル系が好きなのでぇ、これとぉこれにぃあれとぉ、まだまだ入れますからねぇ」
愛の女神フウリンが暴走したようにダンジョン神へカクテル系の缶を押し付け無理やり体内へ入れる姿に、ダンジョン農法神はダンジョン神の二日酔いを心配するのであった。
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