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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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真冬のメリリ



「ふわぁ~何やら心躍る香りがしているような……う~ん、やはり雪が降るような地域に住むのはつらいですね……」


 背中を伸ばしベッドから起き上がったメリリはメイド服に着替えながらふとした事に気が付く。


「いつもより暖かいですね……」


 軽くストレッチをしながらカーテンを開けると雲の隙間から光の筋が入り白く美しい景色が目に入る。視線をやや下に向けるとクロたちが屋敷へと向かっているのが確認できメリリは急ぎ下へと降りる。


「もう朝食を食べ終えて皆さまで何やらしていたようですが……」


 急げば二階から一階へ垂直落下しても問題ないメリリだがメイド服という神聖な装備をしている事もあり、ロングスカートが翻らない様に手で押さえながら階段を一段飛ばしで駆け抜ける。


「ふぅ……これで皆さまをお迎えできますね。それにしても一階は冷えますね……これはカイロを使って温めるべきでしょうか……」


 クロから貰った使い捨てカイロをエプロンから取り出したメリリは悩みながらも玄関が開く音に笑みを浮かべポケットへと入れ直す。


「お帰りなさいませ」


 メリリが頭を下げると「ただいま~」と声が重なり頭を下げながらも笑みがこぼれる。メリリが以前就職していた貴族の屋敷で門番をしていたのだが、その時は誰もがメリリを怖がり「ただいま」や「ご苦労」などの声を掛ける者は誰もいなかったのだ。メリリがある意味で有名な冒険者という事もあるのだが、営業スマイルをする門番のラミアは血を啜り男を襲うというデマが流れており誰しもが震えながらその横を通り過ぎたのだ。雇っていた貴族でさえも馬車の中で身を震わせていた。


 うふふ、ここでは皆さんがただいまと言って頂けますね~食事は王族でも羨ましがるほど美味で、お酒は神さまに奉納されるような素晴らしい物を飲み放題。加えてデザートなる甘味まで付いてくるのですから……私が寒さに弱いことを知ったクロさに「無理に早起きせずゆっくり起きて下さい」と言われた時には嫌意味かと思いましたが遅く起きた私のための朝食を一番に取り置きして……

 うふふ、やはり私の目に狂いはありませんでしたね。錬金工房『草原の若葉』は最高の職場です! ただ、女性が多く結婚という私の願望が叶えられないこと以外……

 結婚……冒険者時代に同じパーティーの仲間が敵に変わる瞬間を羨ましく僻んでいましたが……はぁ……その罰が今下っているのでしょうか……


「あの、体調が悪かったりしますか?」


 クロの言葉に頭を上げたメリリが振り向き「いえ、寒さ以外に問題はありません」と口にする。クロたちが通り過ぎても頭を下げていたメリリの行動に体調不良だとクロが心配したのだ。


「それなら良かったです。スープを温め直しますね」


「いえ、そのような事は自分で致します」


「いえいえ、みんなにも温かい飲み物を入れるついでですから」


 うふふ、クロさまは本当に皆さまに気を使って……私も気遣ってくれるのは嬉しいのですが、その都度ビスチェさまとシャロンさまから視線が飛んでくるのは……


 クロの後に続きキッチンへと向かうとメリリに用意されたサンドイッチとサラダがあり鍋にはスープが残され、魔剣を使い竈に火を入れるクロはスープの残り温めながらお湯を沸かす。


 うふふ、私の好きな玉子のサンドイッチです~あとは魚と野菜を使ったサンドイッチですね。サラダもカリカリにしたベーコンとフレッシュなコーンを使い、スープはトマトという赤い実を入れたものですね。どれも贅沢にスパイスを使った最高の朝食ですね~見ただけで美味しいと解りますよ~

はぁ……こうして我々のために動いて下さるクロさまを後ろから抱き締められたら……


 クロの背中をじっと見つめるメリリ。その後ろで人数分のカップを用意するメルフェルンは残されているサンドイッチを見つめその味を思い出し、クロはアイテムボックスから市販されている抹茶ラテの粉末を取り出す。


「寒かったし温かくて甘い抹茶ラテとかでいいか、うおっ!? メリリさん近いですよ……」


 振り向き視線が合った事に驚くクロにメリリは笑顔で左に避けながら謝罪を口にする。


「申し訳ありません。スープの香りがとても好みで……」


「メリリさんはミネストローネ好きですよね」


「はい、大好きです! 酸味のある料理は故郷の味付けに近くて……」


 思い出しますね~私の故郷……いい思い出がひとつもありませんが、懐かしく感じます……私を捨てた両親と顔だけはいい妹……私は呪われて生まれたそうで砂漠に置き去りにされましたが……ふぅ……

 

「熱いので気を付けて下さいね」


「はい……ありがとうございます……」


 クロさんはそんな私にも優しくしてくれます。熱いので気を付けて下さいねと……ふぅふぅ……前に飲んだ緑茶に似ていますが泡立っていますね……では……ふわぁ~これはなんともまろやかで甘さの中に芯の通った香りが……紅茶も好きですがそれよりも香りがはっきりとしていて、奥に感じる苦みさえもまろやかな甘さが包み込み最高です! いえ最強ですね! 冷えた体には最高の飲み物なのでしょう!


「とても美味しいです」


 どうですか! 今の私の渾身の笑顔は……ふっ……シャロンさまやビスチェさまの笑顔に比べたら私程度の笑顔で靡かないことも理解していましたが、見てさえもらえないなんて……


「スープが温まりましたよ」


 クロは温めていたミネストローネをカップに入れ、メリリが座るだろうサンドイッチが置かれた席へスープを置く。


「ありがとうございます」


 もうっ! 私の為にスープを温めていたのでしたね……背中に向けて渾身の笑顔をした私が馬鹿みたいじゃないですか! ええい、今は色気よりも食い気です!


 メリリがサンドイッチを食べ始め、他の者たちもクロがお茶請けに出したスナック菓子を口に入れ表情を溶かし、甘い匂いを嗅ぎつけた白亜とキャロットも合流しお喋りの花を咲かせる。


≪クロ先輩! 冬といえば?≫


「ん? 冬といえば鍋だな」


≪食べ物ではない回答を期待します!≫


「そうだな……」


 うふふ、アイリーンさまはあまり喋らず文字を飛ばしますが、あれはもの凄く高等な魔力操作だと思うのですが……魔力で生み出した文字を飛ばし読ませたい相手の目の前に固定させる……アイリーンさまがいれば集団戦でどれだけ活躍できるか考えただけでも恐ろしいですね……指揮官の横にアイリーンさまを配置すれば戦争中でもリアルタイムに正確な情報を飛ばせる……この事実に気が付いている人はどれだけいるのでしょうか……


≪そうです! 炬燵です! 炬燵があればメリリさんも喜ぶと思いますし、炬燵で新年を迎えるべきです!≫


「ああ、そういやもうすぐ新年だよな……去年は年越しそばを三人で食べたっけ……」


 うふふ、アイリーンさまは私の為に炬燵なるものをクロさまにお願いして下さったのですね……どんな物か解りませんが、私が喜び炬燵で新年を迎えるという言葉から察するに……結婚と何か関係があるのかもしれませんね……もしかしたら良い女になれる道具? 更に胸が大きくなる道具? 新年を迎えるのに良い女になったり胸が大きくなったりする理由は解りませんが、私はこれ以上大きくなくとも立派な方ですよ?


「それなら炬燵を作るとして、人数が多いから……電気が使えないから魔力創造でテーブルだけ作れば……いや、いっそ床の上に段差を作って掘り炬燵にすれば椅子感覚で座れるか……」


「何か作るのかな? 僕はクロの魔力水を研究するから手伝えないけど、必要な道具があれば言ってくれよ~」


「わ、私も手伝うからね! 炬燵が何か知らないけどアイリーンが勧めるものなら良いものでしょ?」


≪もちろんです! 炬燵ほど人の心を温める物はこの世にないと言い切れますね!≫


 ひとの心を温める……やはり結婚なのですね! 


 メリリは勘違いしながらも炬燵制作を手伝いその日の夕方には掘り炬燵が完成し、結婚とは関係なかったが寒がりなラミアはご機嫌で炬燵に蜷局を巻くのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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