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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第九章 年末と新年へ
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宝珠



「僕はクロの水を研究するぜ~もしかしたら大発見かもしれないぜ~」


 精霊たちが集まりキラキラと輝く瓶を掲げご機嫌に話すエルフェリーン。するとクロが待ったをかける。


「師匠、その前にこれを見て頂けませんか?」


「ん? 黒い宝珠? これは………………ああ、死者のダンジョンを攻略した報酬だっけ?」


「はい、先日のダンジョン会議の際に頂いたもので、召喚の宝珠と呼ばれるものなのですがシャドーナイトを召喚できると……」


 黒い宝珠をエルフェリーンへと手渡すと目を細め鑑定を行う。


「へぇ~それは珍しいね! 鑑定! ふむふむ、クロが言ったようにシャドーナイトを召喚できるみたいだけど……あははは、こりゃ傑作だよ! シャドーナイトの属性は闇でアンデットだよ! クロとの相性は最悪かもね~」


 笑いながら話すエルフェリーン。ビスチェも腕を組みながら頭を上下に動かす。


「あの、アンデットでも召喚獣? なら使い道はあるのではないですか?」


 シャロンの言葉にニヤリと口角を上げるエルフェリーン。


「そうだね。畑仕事を任せるぐらいはできるかもしれないけど……それも無理かな……アンデットは基本的に日光に弱いし、」


「薬草に近づくのも苦手なはずよ。薬草の生育にも影響が出る可能性があるからゴメンだわ!」


 エルフェリーンとビスチェの言葉に「なるほど……」と口にするシャロン。


「それにクロの女神シールドとは最悪の組み合わせだぜ~折角召喚しても女神シールドに少しでも触れれば消滅するからね~召喚するだけ魔力の無駄かな~」


 高位のアンデットに対して最強の威力を誇る女神シールドの前ではシャドーナイトもすぐに昇天してしまうだろう。


「ですよね……」


「でも、シャドーナイトなら影に入ることができるから、陰から守ることも……試しに召喚して確かめようか!」


 黒い宝珠を手に外へと向かうエルフェリーン。その後に続き敷地の端にまで移動する一行。結界で守られた敷地内に積雪はないのだが地面はぬかるみ、その中をキャンキャンと声を上げ走り回る小雪とそれを追い走るアイリーンの姿が遠くに見える。


「あんなに泥だらけになって……楽しそうですね……」


「本来なら泥だらけの服を洗うのは大変なのですが、アイリーンさまの浄化の前ではどんなシミも落ちるので注意できませんね」


 シャロンとメルフェルンの言葉に泥汚れの大変さを知るクロは確かにと思いながら足を進め、結界ギリギリの場所へと向かうと結界の外は一・五メートルほど雪が積もっており大きなシールドを展開する。


「クロさまのシールドは便利ですね」


「雪の上に置けば足が沈まないから便利だろ。ほらシャロン」


「はい、ありがとうございます……」


 手を貸しシールドに上がると更にシールドを増やし足場を確保するクロ。


「じゃあ、最悪の場合を考えて後ろに女神シールドを出しておこうか」


「召喚魔術は高位な魔術だからね。クロが制御を失敗したら大量に湧き出たりする可能性もあるのよ」


 その言葉に生唾を飲み込みながら女神シールドを展開し、少し離れた場所へ足場のシールドを展開して移動するクロ。クロなりに巻き込まないよう距離を取ったのだがその横に着地するエルフェリーン。


「クロの気遣いは嬉しいけど僕は師匠だぜ~危険な事には付き合うよ~」


 ニッコリと笑顔を見せるエルフェリーンに心底ホッとするクロ。後ろではシャロンが飛び移ろうとするのをメルフェルンがコートの裾を掴み抑える。


「僕がやってもいいけどクロの宝珠だからね~これを握って魔力を通せば召喚できるはずだよ」


 エルフェリーンから返された宝珠を左手に持ち息を整えてから魔力を通すと宝珠が黒い光を放つ。


「へぇ~思っていたよりも高位の召喚魔なのかもしれないな……」


 黒い光が移動しクロから数歩離れた位置へ煙のように集まり黒い騎士の形を作り出すと膝をついて頭を下げるシャドーナイト。


『主様の命を受け参上いたしました! すべてを切り伏せて見せましょう!』


 頭に響く声とギラリと光る赤い瞳に、顔を引き攣らせ切るものなんて薪しか思いつかないぞと思うクロ。


「えっと、こんにちは」


『はっ!』


 少し上げた頭を下げ念話を送るシャドーナイト。


「えっと、立ち上がってくれるかな」


『はっ!』


 シールドの上に立ち上がったシャドーナイトの身長は二メートルほどなのだが足がなく浮いている姿に、幽霊だなぁ~と思うクロ。


「立派なシャドーナイトだね! 忠義もあるようだし、これなら大丈夫かな?」


「シャドーナイトは物理的な攻撃を無効化するわ。もしもの時はクロの魔剣で、いえ女神シールドで対応するのよ!」


 もしもの時……確かにそういう事も考えて行動しないと危ないよな……見た目はまあまあ怖いし、夜中のトイレの時とかは注意しないとやばいよな……


≪おお、影の騎士! 何ですかこれカッコイイですよ!!! まさか、シャロンくんのライバル登場ですか!? アンデットが相手とかクロ先輩はレベルが高いですよ!!≫


「わふん!」


 後ろから腐った文字を飛ばすアイリーンと興味があるのか吠えながらシールドに乗る小雪。腐った文字はクロが丸め雪の中に捨て、シャロンはしゃがみ足元の小雪の頭を優しく頭を撫でる。


「アイリーンの言葉は無視するとして、名前とか付けた方がいいですかね?」


『名を頂けるのですか!?』


 赤い瞳がクロを捉え明らかに嬉しそうな雰囲気を醸し出すシャドーナイト。


「そうだな……ん? 女神シールドから吹き出しが出ているな。えっと、何々……シャドーナイトの召喚宝珠を送るとか何を考えているのかしら。ダンジョン神には後で抗議するからその宝珠を奉納しなさい! か………………ごめん、送還はどうすればいいんだっけ?」


 女神シールドからの吹き出しを読み上げるクロは送還の仕方をエルフェリーンに尋ね、召喚されているシャドーナイトはその場に崩れ落ちる。折角召喚され、名前まで付けて貰える所でこの扱いでは誰だって膝から崩れ落ちるだろう。


「送っている魔力を止めて言葉に魔力が乗るイメージでリターンと唱えれば送還できるはずだよ」


「それでは……あの、凄く唱えずらいのですが……」


 シールドの上で四つん這いになり赤い瞳をクロに向けるシャドーナイト。


「クロさん、また文字が浮かんでいますよ。シャドーナイトはこっちで預かってしかるべき処置をしてから返すそうです。シャドーナイトさん、大丈夫ですよ! また呼んでもらえますよ!」


 シャロンの言葉に立ち上がり頭を下げるシャドーナイト。人間臭さのある行動に色々と思う所があるが、クロは「リターン」と口にすると逆再生するように煙になり宝珠に吸い込まれるシャドーナイト。


「女神さまの言うしかるべき処置とはいったい何でしょうか?」


「う~ん、アンデットだと使徒としての沽券に係わるとか?」


「いやいや、俺は使徒とかじゃないからな。善意で酒と料理を奉納しているだけで使徒とかじゃないからな」


 クロの言葉に女神シールドからは新たな吹き出しが浮かび上がり、それを読み上げるシャロン。


「えっと、今夜はすき焼きと日本酒をお願いだそうですよ……」


 クロは何とも言えないような表情を浮かべるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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