新年に向け動き出す草原の若葉たち
「うふふ、色々ありましたが、我が家は落ち着きますね」
「うんうん、そうだぜ~我が家でゆっくりとした時間を過ごすのは大切だぜ~」
「我が家……僕が我が家といってもいいのでしょうか」
「もちろんよ! シャロンはもう家の子だからね! 変な遠慮とか要らないからね!」
「シャロンさまを受け入れて頂きありがとうございます」
「キュウキュウ~」
「白亜さまは新人にも優しくすると言っているのだ! 私も優しくするのだ!」
≪私はシャロン君でもシャロンちゃんでも大丈夫ですよ~腐腐腐、どちらも妄想して楽しめますからね~≫
「おいおい、頼むから変な文字を浮かべるなよ……ほら、幼いフェンリルの子だって妙なオーラを放つから逃げて来ただろ~」
昼食も終わり温かな緑茶を口にしながら食後の時間を楽しむ『草原の若葉』たち。数日ほどエルファーレたちの住む島と未完成のダンジョンを探索し、女帝カリフェルと第三皇女キョルシーをサキュバニア帝国へと転移で送り帰宅したのだ。
多くの海産物や海辺で採れる薬草などを土産に貰い、エルファーレとフェンリル親子からはアイリーンが助けた幼いフェンリルを貰い受けたのだ。アイリーンが断ろうとするが幼いフェンリルはアイリーンの上着に噛みつき絶対一緒に行く構えを取った事に驚き、涙を流しながら抱き上げると「クゥン」とひと鳴きして涙を拭き取るように頬と頬を擦り付けたのである。
「そういえば名前はまだ決めないのかよ。幼いフェンリルやフェンリルちゃんは種族名だろ?」
≪そうですね……女の子ですから……いやでも……≫
浮かぶ文字の歯切れの悪さにビスチェが口を開く。
「もうクロがいるし白でもいいんじゃない?」
≪そんなの適当過ぎますよ! 前に飼っていた犬はキラと名付けましたが、同じ名前を付けるのはちょっと気が引けて……う~ん、どうしましょうか……カーネルかカトルかゼクスか……ん? 骨付きのから揚げが食べたくなってきましたね!≫
色々ツッコミ所があるがクロは掘り下げるのは止め席を立つと幼いフェンリルも後に続き、キッチンで合わせ調味料を作りアイテムボックスから取り肉を出すと一口大にカットして先ほどの調味料を揉み込む。
「今夜は鳥の唐揚げと何にするかな」
すると足元にいた幼いフェンリルがクロのズボンの裾に飛び乗り抱き上げられる。
「料理している時はやめような~アイリーンはまだ悩んでいるのかよ……」
抱き上げた幼いフェンリルの頭を撫でながらリビングで悩むアイリーンの元へと向かうと、シャロンが立ち上がり両手を広げ幼いフェンリルを渡すと笑顔で受け取り優しく背中を撫で尻尾を振る姿に、軽く癒され鍋にしようと思い立つ。
「味噌か塩か醤油かカレーか……」
「うふふ、ラーメンですか?」
「いや、今夜の鍋は何味にしようかと思ってな……メリリさんはラーメンがよかったですか?」
「いえ、私はお鍋大好きです! みんなでひとつの鍋を囲んで食べると幸せな気持ちになりますし、家族だなぁ~と思えて、うふふ」
「それは僕も思うぜ~美味しい料理をみんなで食べると幸せな気持ちになるからね~ビスチェと二人で食べた塩辛いスープを思い出すと今でも悲しくなるね~」
「あ、あれは師匠が塩をいっぱい入れたからで……うう、何だか思い出すだけで口の中がしょっぱく感じる……」
エルフェリーンとビスチェの二人暮らしは干し肉と硬いパンにドライフルーツというもので、保存食をもそもそと食べながら真冬を過ごしたのだ。
「じゃあ、塩味の鍋だな!」
「何でよっ! 塩味じゃなくカレーがいいわ! カレー味の鍋にして、〆はうどんを入れて欲しいわ!」
「カレーうどんですね! あれは素晴らしいです! カレーライスも美味しいですがうどんのツルツルとながらもコシのある食感は癖になります!」
ビスチェのツッコミ入りの提案にメルフェルンがテンションを上げ語り、抱いていた幼いフェンリルが驚き体をビクつかせるが優しく撫でて落ち着かせるシャロン。
「それならカレー鍋に決定だなって、まだ迷っているのかよ……」
≪名前は一生付きまとうものですからね~変な名前を付けて大きくなった時に嫌われたら困るじゃないですか……≫
「確かにそれはあるかもしれないが……ん? 白亜はどうした?」
「キュウキュウ!」
クロの太ももを手で叩いたと思ったら後ろを向き背を丸める姿にクロが頭を傾げると、キャロットが自信満々に口を開く。
「背中がかゆいと言っているのだ! 私が掻くのだ!」
「キュウキュウ~」
キャロットが優しく背中を掻くと甘えた声を上げる白亜。
≪決めました! フェンリルちゃんの名前は小雪にします!≫
「ワフッ?」
≪白い毛並みは雪のように美しいですし、小さくてカワイイので小雪です!≫
散々悩んで決めた名前に幼いフェンリルはシャロンの腕から飛び降りアイリーンへと走り胸に飛びつくと、尻尾を振りながらへっへと嬉しそうな態度を全身で示す。
「小雪ですよ」
「ワフッ!」
アイリーンが珍しく文字ではなく口で話すと小雪も鳴き声で応え尻尾を高速で振り続ける。
「あははは、名前が決まって良かったね! それにこの子と契約できたぜ~」
≪契約?≫
「主従契約さ! 獣魔術士はエルファーレが得意としていたけど、アイリーンも獣魔術士としての才能があったみたいだね~」
≪それって私が獣魔術士に……これは新たなチートを手に入れましたよ! ふふふ、モフモフ天国を作るしかないですね!≫
立ち上がったアイリーンは小雪を掲げながらクルクルと走り出し、小雪はへっへしながら尻尾を振り喜びを表す。
「名前を付けただけで獣魔術士になれるのですか?」
「いや、互いの信頼があってこそだぜ~エルファーレは数回撫でただけでテイムしていたけどアイリーンは小雪を治療した後も仲良くしていただろ。そのお陰かかな~」
ルビーの疑問にエルファーレが答えると、ピタリと回転を止めるアイリーン。
≪小雪の首輪を作らないとですね! 可愛い首輪を作りましょう!≫
「ワフッ!」
≪小雪は何色がいいですか?≫
「ワフッ!」
≪なるほど! 私はピンクがいいと思います!≫
「ワフッ!」
≪………………獣魔術士になれば鳴き声が翻訳されるかと思っていましたが、ワフッですね……≫
「クゥ~ン」
≪大丈夫ですよ! ピンクの首輪を作りましょう! では、私は部屋に籠りますので小雪の遊び相手をお願いしますね~≫
文字を浮かせながらビスチェに小雪を手渡すアイリーンは天井へ糸を飛ばすとするすると吹き抜けに消えて行き、ビスチェは「小雪よろしくね」と声に出すと「ワフッ!」と元気な鳴き声を上げる。
「ふふふ、小雪ちゃんですね~とても可愛らしい名前ですね~」
「可愛らしさもあるけど、雪の降る季節に仲間になったのもあるのかな?」
「今日はよく雪が降っていますから、それもあるかもしれませんね」
窓からは昨晩から降り続く雪が視界に入り結界のおかげで庭に降り積もる事はないが、結界の外は真白な世界が続いている。
「もうすぐ新年だぜ~新年になれば雪の下に育つキノコを採りに行かなきゃだね~」
「春に向けてポーションも量産しないとね。そうなればクロも本格的に錬金術を学ぶから覚悟しなさいよ!」
「ああ、やっとポーションを本格的に作れるのか……」
クロが異世界に来てから五年目の冬。念願のポーション作りを開始するのであった。
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