若葉の使いとマヨネーズ
「そんなに慌てて、何があったんだよ」
白亜を頭から剥がし抱きしめるクロがそう聞くが、冒険者の三名は白亜に視線を向けている。
「それってドラゴン?」
「こんなに近くで初めて見た~可愛いし、白いし、可愛いし~」
「あいかわらず、クロ兄ちゃんのまわりには不思議がいっぱいだね……」
目を見開き驚くポンニルと、可愛いと連呼するチーランダに、慌てた様子から呆れた顔へ変わるロンダル。
「不思議なのは俺じゃなくビスチェや師匠に、この白亜だろ」
白亜を掲げると尻尾でペチペチと優しく頬に触れる。
「この子は白亜よ。七大竜王である白夜さまのお子さんだから、ちょっかいとか誘拐とかしない方がいいわよ」
「そんな事するかよ」
「えぇ~三人で飼いたいよ~」
「確かに可愛いですが……クロさん、頭から血が……」
耳の横を流れる血を指摘するとビスチェが力ある言葉を呟き、頭が柔らかな光に覆われる。
「回復魔法とかビスチェがうちに入ってくれたら王都との旅路が安全に往復できるのにな」
リーダーであるポンニルが口にした様に王都と錬金工房『草原の若葉』は距離があり、その道中は魔物が多く徘徊している。そんなかなを歩いて旅する三名は『若葉の使い』というチーム名で活動する冒険者である。進んで戦闘を行う事をせず、錬金工房の品を届ける事を優先しCランクまで上り詰めた冒険者チームである。
中でも末っ子のロンダルは天性の魔眼保有者であり、その瞳は白くズームが効く特殊な視力を持っている。
「ああ、ありがとな。それよりも疲れただろうからお茶を出すよ」
「甘味も欲しいわ!」
ビスチェの言葉に手にしている白亜も「キューキュー」と声を上げる。
「ああ、何か持って来るよ」
そう言葉を残し立ち去るクロ。白亜はクロの手から逃れ冒険者三名を下から見つめる。
「可愛いよ~小さくて白くてピカピカで、可愛いよ~」
「ドラゴンなんて視界に入ったら即退却だからな。目の前にいるのが不思議なぐらいだよ」
「艶のある鱗ですね。白亜くん? 白亜ちゃん?」
「キューキュー」
「あれ? そう言えば白亜は女の子よね……」
「キューキュー」
間違えるなと言いたげに叫ぶ白亜。
ビスチェは朝の事を思い出しエロ目的ではなく、純粋に温もりを求めてベッドに侵入したのだと気が付き悪い事をしたなと思い、ついでにクロにスケスケパジャマを見られた事も連鎖して思い出し頬を染める。
「そうだったわね……女の子だったわね……朝はごめんなさいね」
「キュウ」
立ち上がり許してやるとでも言いたげな声を上げる白亜。
「わーわー立った! 立ったよ! 白亜ちゃんが立ったよ!」
「うん、立ったのはわかったから、チー姉ちゃんは襟を持ち上げないで……」
テンションを上げたチーランダは弟のロンダルの襟を掴み嬉しそうに持ち上げ振るう。
「おいおい、ロンダルをいじめるな~それよりもお茶を入れたから、こっちに座れ~」
お茶の香りが辺りに漂い鼻を引くつかせ三名は椅子へと向かうとビスチェも席に付き、白亜はクロが座るだろう椅子によじ登る。
「げっ、薬草茶かよ」
「クロ兄ちゃんこれは……」
「ああ、疲れには薬草茶だろ。蜂蜜も入れているから飲みやすいぞ。それとこっちはお茶受けな」
「やった、バームクーヘンじゃん! あむあむ~」
お菓子に一番に手を出したビスチェはバームクーヘンに噛り付く。それを見たチーランダも手にして口にすると表情を蕩けさせ、クロは皿を出すと白亜用にひとつ手に取り目の前に置く。
「キューキュー」
嬉しそうな声を上げるとバームクーヘンに噛り付く白亜。
「美味しいし可愛いし、ここは最高!」
「薬草茶も飲めよな。それで大変な事って何なんだ?」
そうロンダルへ声をかけると口いっぱいにバームクーヘンを含んでおり苦笑いを浮かべるクロ。
「こりゃ美味いな。噛み応えがないがフワフワして甘い」
「木の年輪見たいで面白いお菓子よね。あむあむ~」
「白亜ちゃんもいい食べっぷり~可愛い~可愛い~」
バームクーヘンに夢中の四人と一匹にクロはひとり薬草茶を口にし、苦味の中にも甘味がちゃんとあり飲みやすいと思っていると末っ子が口を開く。
「クロ兄ちゃん、クロ兄ちゃん! 大変なんだよ!」
冒頭からやり直すのか~と思いながらもクロは聞く体制を作る。
「はじめて王家からの依頼を受けたんだ! エルフェリーンさまからの指名依頼を受けているのはお前たちかって」
「態々早馬で追いかけてきてさ、焦ったよ」
「私ら冒険者は基本的にはそういった情報は非公開じゃん。まあ、各村に薬を届けているから有名だけどさ、それを大声で言うんだもん。ビックリしてダガーを抜いちゃったよ」
「それってハミル王女さまからの依頼か?」
クロの言葉にキラキラした瞳を向けるロンダル。
「へぇ~やっぱり嘘の依頼じゃないのか」
「この手紙を受け取ったよ。それと私たちはそれに書かれた荷を持ち帰るのと、報酬が金貨三枚……王族の仕事は利益が出るけど、何だか怖いよ」
「これは読んでいいんだよな?」
「読まなきゃ困るよ。金貨三枚なんて私たちの半年の給料だしさ」
白百合と三本の剣に竜が模られた蝋印に注意しながら封を開くクロ。
「何々……王宮の空気が変わり健やかに暮らせています。と、お菓子と調味料を融通して頂きたく……日に日に減って行くお菓子を見ると手が震えて……マヨネーズが手元にないと眠れない……マヨネーズと婚約したいです……夜会にもご出席して頂けると嬉しいですか……」
簡単に掻い摘んで読んだクロの言葉に頭を傾げる『若葉の使い』。ビスチェは眉間にしわを寄せ両手でコメカミを押さえグリグリと解す。
「キューキュー」
「白亜もマヨネーズが好きか?」
朝食で茹でたジャガイモにマヨネーズを付け食べていたクロを見て欲しがり、ひとつあげると気に入ったのかもっと寄こせと尻尾攻撃を繰り出す白亜が思い出され声にする。
「キュッキュッキュ」
歌うように声を上げる白亜の様子からマヨ信者である事が判明する。
「マヨも食べ過ぎると体に悪いからなぁ~今はそれで我慢しろよ~はぁ……ハミル王女が帰ってからまだ二週間だろ。早馬を使い頼んだ事を考えると、手元にはもうない気がする……」
「マヨ? それは何なんだい? 麻薬とかは運ばないからね」
「そんな危険じゃ……いや、中毒性はあるかも……俺の友達もマヨ信者だったが、何にでもマヨをかけて……カレーに牛丼やラーメンにまで入れ始めた時は、友達をやめるか真剣に悩んだな……」
腕を組み目を閉じてしみじみと語るクロに『若葉の使い』たちは首を傾げるが、ビスチェは「ちょっとわかるかも……」と共感を示す。
「よし! 食べてみるか?」
くわっと目を見開くとアイテムボックスから皿に乗った茹でたジャガイモが登場し、塩をかけマヨネーズを二周まわしかける。
「ほい、フォーク。好きに食べてくれ。白亜は食べ過ぎだから少し控え様な」
そう言いながら抱き抱えられた白亜は絶望的な表情を浮かべ、同じ様に絶望的な表情を浮かべる『若葉の使い』たち。
「普通に食べる分には問題ないわよ。あむあむ、おいし~」
ビスチェが手を出すとチーランダがフォークを持ち頬笑みながら食べるビスチェを見つめると、気合を入れ芋に刺し口に入れる。
「むふぅー、これ美味っ! これ美味っ! 何これ美味っ!」
「そ、そんなに芋が美味しくなるのかい?」
「むふぅー、今までの塩を掛けただけの芋がゴミに感じるぐらい美味っ! マヨ美味っ!」
新たなマヨ信者の誕生である。
「あむ! むぅーーーーーー、美味しいです! まったりとして少し酸っぱくて美味しいです! 世の中にはこんなにも美味しい芋が、芋に掛けるものがあるのですね! あむあむ」
態々言い直してまでマヨを褒めるロンダル。
新たなマヨ信者の誕生である。
「ポンニルも早くしないと無くなるぞ」
「そうだな。よし、あむあむ……確かに美味しいが、何だか口の中がネチャネチャする……あむあむ。私は塩とバターの方が好きだな……」
ポンニルの言葉に殺気を帯びた視線が刺さり、椅子から飛び退き距離を取る。
「なら手を出すなっ!」
「マヨは僕たちのものです!」
チーランダとロンダルがジャガイモへと視線を変えパクパクと口に入れる姿にジト目を向けるポンニル。
「何となく理解したが、私の大切な妹と弟をどうしてくれるんだい?」
ポンダルが詰め寄り苦笑いを浮かべるクロと、呆れた表情を浮かべるビスチェ。白亜だけは涎を垂れ流しながら消えて行くジャガイモマヨを見つめるのだった。
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